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ステージ3『霧』(11話)

「えっと、えっと、確かこんな時は、

『もしもはぐれたり、道に迷ったときはその場を動かないこと!』(byイズ)

って、言ってたよね」


しっかりとイズに言われていたことを思い出したゼノは、しかたなく安全域である木の上へと移動した。

この霧が雪霧だとゼノも知っているから、太い枝に腰を下ろし、めずらしく大人しく霧がはれるのを待つことを決めた。

音のない白い世界。その無音に近い世界はゼノを一人にする。


「静かだなぁ」


どこを見ても白い景色。音も声も聞こえない森で、不意に視界に入った自分の白い手に視線が止まった。

汚すことと傷つくことを恐れる手。


「……僕は卑怯なんだ」


自分の手のひらをじっと見つめ、ゼノは悲しげに笑って見せた。

そして襟元に手を伸ばし、首にかけてある首飾りをそっと取り出す。この世界に生まれた時より、肌身離さず身に着けてる首飾り。

硝子に近い長い銀のチェーンに、透明にも虹色にも見える透明な雫がたった一つだけついているシンプルなもの。

ゼノはそれを首にかけたままチェーンだけを持ち、自分の目の前にその雫を掲げてみる。


「雫っていうより、涙みたいだね。僕とハクコクジュを繋ぐもの……、そして僕の要」


左右にユラユラと揺らして、ゼノはどこか遠くを見ていた。

色が消え、音が消えた世界は、ゼノの心を映す。




―――

ズルいんだ、僕は。

ライたんやイズたんの手を汚して、僕は真っ白でいる。

……ほんと卑怯者。

でも、この手が赤く染まるのは嫌なんだ……。

エゴだよね、そんなの。

それでも、僕はゼノ=クロノムのままでいたい。

ねえ、ハクコクジュ、……ううん、お母さん、どこにいるの?

早くしないと、僕……が……消えて、

……望んじゃうよ。

──―




声にはならない想いが、寂しく悲しい笑顔に表れていた。

普段決して見せることのないゼノの大人びた表情、それはまるで別人のようだった。

無邪気にはしゃぐゼノと、冷静に物事を考えられるゼノ、どちらのゼノが本物なのか、それは誰にも分らない。全てはハクコクジュとゼノの願いと想いのままに。

首飾りについた雫をギュっと掴んだゼノは、何かを感じ取り漆黒の瞳に輝きを宿す。


「見つけたっ」


晴れない真っ白の霧の中に探し物を見つけ、ゼノがいつもと同じ笑顔を作り枝の上にピョンと立ち上がる。

瞬間ゼノは霧の中に飛び出していく。

何も見えない森の中を風のように駆けて、ゼノは目的の場所までくると、大地に片膝をついた。

草木が生えているだけの普通の場所。


「ここで間違いないね」


どこか嬉しそうに声を出したゼノは、手が汚れるのも構わずに大地に手を置く。

左手を大地に、右手で首飾りを取り出すと、



『ハクコクジュの名の元に、我が封印を解く。──我が名は、ゼノ=クロノム』



風のように透明な言葉を繋ぐ。

首飾りが音もなく、まるでガラスが砕け散るかのように弾かれて消えた。

長い黒髪の毛先がわずかに白く染まる。

ゼノは自身から溢れ出た力を大地に注ぐと、グッと力を込めて何かに耐えるかのように険しい表情を浮かべた。

時間にして数分。ゼノの黒髪が毛先から徐々に白髪化していたが、10分の2ほど染まった頃だろうか、ゼノは何かに満足してニヤリと笑うと、注ぐ力を止め、自身の首に再び首飾りを蘇らせた。

首飾りが元の形状に戻ると、ゼノから溢れていた力もその姿を完全に消し、白髪化していた部分も真っ黒に戻っていた。

そして何事もなかったかのように、ゼノは大きく伸びをすると森を見回す。


「霧、はれてきた?」


徐々に視界が開け、鳥のさえずりも微かだが聞こえ始め、霧がはれてきていることを知る。

見通しがだいぶ良くなってきている。

これなら動けそうだと、ゼノは首飾りを服の中に隠し、準備運動なのか、足を延ばして軽くストレッチを行う。

それはもう、逃げ足の得意ないつもお子様の姿。

はぐれてしまった二人に合流しようと、ゼノが再度森を走る。



(ズルくても、卑怯でも……。やっぱり僕は僕でいたいっ)



そう心で叫んだゼノは、自分は自分のままでいたいのだと、誰かに誓うように心に強く決め、最後までゼノでいたいと、深く願った。




◆◆◆

「そうだ! 前から一度聞きたかったことがあるんです」


視界ゼロの森で、長く続いた沈黙を破ったのはイズだった。


「なんだ?」

「天界はどうしてゼノを抹殺したいんですか?」


人差し指を立ててイズがライラの方を向く。

地界はハクコクジュ(ゼノ)の力を手に入れようとしているのは知っていたが、天界は抹殺命令が下されている、それはどういう理由なのかと、イズはずっと疑問を抱いていたが、なんとなく聞き逃しており、そんなに興味もなく、いままで完全スルーしていたが、あまりにも暇でうっかり思い出してしまったのだ。

唐突にそんなことを聞かれ、ライラはイズに話していなかったのだろうか? と疑問符を浮かべながらも頭の後ろで腕を組んで、大木にもたれかかる。

別に隠すような話でもないし、暇つぶしのついでに説明しようと、ライラは体制を崩してイズを横目に見る。


「天界の異変……、聞いたことくらいあるだろう」



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