ステージ3『霧』(10話)
「さっきよりも濃くなってきましたね」
「ますます動けねぇな」
森に立ち込める濃い霧のなか、イズとライラは無闇に歩き回るのをやめ、大木の下で大人しく静かに霧がはれるのを待っていた。
そう大人しく、静かに……
つまり、現在はしゃいで大騒ぎする奴が一人欠けている。
「静か……ですね」
「そうだな」
数時間前。
「ここには道ってもんはねぇのかイズ?」
雑草の茂る薄暗い森に入ってからライラがイズにそう尋ねた。
獣道さえ見つからない鬱蒼とした森。
「野宿は嫌だから近道するって言ったのは、ライラとゼノですよ」
東西南北もわからないような森のなかで、イズは地図を片手に言い返す。
右を見ても左を見ても、木、草、同じ景色。
前に進んでいるのかさえ疑わしい。
「だってこんなにひどい森だったなんて知らなかったもん」
「そうだよな」
ゼノとライラの意見がめずらしく一致した。二人は顔を見合わせると同時に頷く。
「こんな時だけ意見をあわせてもダメですよ二人とも。ここまできたら戻るより進んだ方が早いんですから」
地図に方位磁石をあて、イズは地図を再度見る。地図があっているなら、半分以上は進んできているはず、おそらくあと2~3時間くらい歩けば森の外が見えてくるはずだった。
だが、ここで思わぬ自然現象に見舞われるとは思ってもみず、完全に予想外の出来事に巻き込まれた。
「なんだか白くなってきたよイズたん」
ゼノから不安な声がし、地図から顔をあげたイズは、霧がでてきたことに気づかされた。
「霧ですか」
「やっかいだな」
あたりを見回しながらライラがため息をつく。徐々に濃くなる霧に、イズは地図を急いで片付ける。濃霧が酷くなれば、容易に進むのも難しくなる。
出来るだけ早く森を抜けてしまおうと、イズは歩くスピードを速めた。
「ゼノもライラもはぐれないでくださいね」
「ゼノ、とくにお前な」
「なんで僕だけなの! ライたんの方こそはぐれないでよ」
「オレは大人。どっかの『お・こ・さ・ま』とは違うからな」
コツン、コツンと額を指で押されながらそう言われたゼノは、ムッっと頬を膨らませる。
なんとしてもライラに勝ちたい。頭の中はそれでいっぱいになった。
「僕だって大人だもん、絶対に迷子になんかならないもん」
ふんとそっぽを向いたゼノはドカドカと歩き出す。
その頭には真っ赤な怒りマークが浮かんでいるだろうとは想像がつくが。
そしてさらに時間は流れ、
「絶対に迷子にならねぇって言ったのはどいつだ」
あたり一面、一寸先も見えないくらいひどくなった霧のなかで、ライラが怒鳴り声をあげた。
濃霧は思ったよりも早く森全体を包み込み、イズとライラはいつしかゼノと完全にはぐれてしまった。
物音ひとつ聞こえてこないことから、ゼノが近くにいるとは考えられず、結構な距離感ではぐれてしまったかもしれないと、不安を抱く。
「困りましたね」
「ったく、やっぱお子様じゃねぇか」
「それにこの霧、やっかいなことに雪霧ですね」
真っ白に漂う霧をみてイズが困惑の表情を見せた。
「雪霧?」
「知りませんかライラ? 雪霧は雪と同じで音を吸収してしまうんです」
「音を吸収?」
「大声で叫んでもたいして遠くまで響かないんですよ。つまり大声でゼノを呼んでも無駄ってことです」
これからしようとした行動をはっきり無駄だと先にイズに言われ、ライラは頭痛を覚えた。
ようするにこの霧のなかでの捜索は無理であり、大人しく霧がはれるのを待つしか方法がない、そういうことになる。
視界が閉ざされた真っ白な世界。確かに鳥の鳴き声すら聞こえなくなっている。
ライラは深いため息を吐くと、近場にあった木の根元に腰を下ろす。
「八方塞がりか……」
「自然の流れですから仕方ないですよ」
そう言いながらイズもライラの隣に腰を下ろす。ゼノに加え二人で迷子とならないようになるべく至近距離で身体をくっつけた。
気長に雪霧がはれるのを待つしかないと、諦めて。
「それよりもゼノが動き回らないでくれるといいんですけどね」
苦笑いを浮かべ、イズが困り声を出す。下手に動き回ってずっと遠くに行ってしまえば、霧がはれたあと探すのが大変なのだ。
おまけに右も左もわからないような深い森、簡単には合流できないだろうと、先を見越しての苦笑。
「……賭けるかイズ?」
「ボク、動き回っている方へ賭けますけど、どうしますか?」
「それじゃ、賭けにならねぇな」
絶対に大人しくしていないと勝手に決めつけて、二人は近場でじっとしていてくれることを祈りつつ、真っ白な森の奥をただ静かに見つめた。
◆◆◆
一方そのころ
「何が大人だから迷子にならないだぁ~~! 思いっきり二人で迷子になって」
真っ白な霧の中でゼノは一人怒っていた。
二人対一人、この場合どちらが迷子なのかわかりそうなのだが、ゼノにはそういう理解力はないらしい。




