表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/33

小さな灯りを持って

ダンジョンに潜る人達の話です。



登場人物

エマ・ウォーカー     主人公です。

ノル・ハーヴェイ     白鹿の探索隊長の一人

ニナ・クラーク      白鹿のギルド所属の前衛 エマの仲間



▼主人公の基本設定

名前:エマ・ウォーカー

年齢:20歳くらい

ギルド歴:10年

元DPS で ギルドの意向でサポートへ配置転換された

サポートの役割:救護/料理/素材回収/物資管理/運搬等 多岐にわたる



この物語のギルドは、ダンジョン内で採れる素材の回収を専門に請け負う組織です。

魔物の牙や皮、鉱石、薬草、魔石などを回収し、

それを商会や工房、研究機関へ卸すことで利益を得ています。

ただ魔物を倒すだけの集団ではなく、探索、戦闘、救助救援、採取、解体、運搬、物資管理まで含めて、

ひとつの仕事として成り立たせた大手組織です。そのギルドで働く人物達の物語

床は、浅い水に覆われていた。

エマの靴が踏み込むたび、ぴちゃ、と小さな音がした。

思ったより響く。エマは次の一歩を慎重に置いた。

六階層。

天井は高い。灯りを掲げても、上の闇には届かない。

石柱が何本も水面から立ち上がり、古い建物の跡のように、暗がりの中で沈んでいた。


エマは息を殺して進んだ。

「ノル」

声は思ったより掠れた。返事はない。


「ニナ」

水音だけが返ってくる。


エマは灯りを少し高くした。片手には短剣。もう片方の肩には、救護用の荷をかけている。

水の下には割れた石が沈んでいる。踏み外せば、自分まで動けなくなる。

胸の奥がうるさかった。

二人は落ちた。あの高さから、この暗い穴の底へ。

考えるな、と自分に言い聞かせた。考えたら足が止まる。足が止まれば、見つけられない。

水面に、何かが浮いていた。

布切れだった。

エマは近づき、拾い上げる。濡れて重くなった布の端に、見覚えのある縫い目があった。

ニナの外套だ。喉の奥が詰まった。


「ニナ!」

声が石柱に当たり、奥へ散っていく。返事は、すぐにはなかった。

けれど、かすかに水が動いた。

エマは顔を上げた。

石柱の影の向こうで、何かが揺れた。灯りを向ける。倒れた柱の根元に、人影があった。

一人ではない。

エマは走りかけて、すぐに足を止めた。水の下に何があるか分からない。

歯を食いしばって、早足で近づく。


「ノル! ニナ!」

倒れていたのはノルだった。

片膝をついたまま、折れた石柱にもたれている。片腕で誰かを庇うように抱えていた。

その腕の下に、ニナがいた。

エマの胸から、息が抜けた。生きている。

二人とも、そこにいる。


「ノル!」


ノルのまぶたがわずかに動いた。

「……一人で来たのか。なぜ来た。……無茶をする」


声は低かったが、弱い。いつもの硬さは残っているのに、息が続いていなかった。

エマはその声を聞いた瞬間、膝から崩れそうになった。

けれど、崩れなかった。

「文句はあと。二人とも、返事できる?」


エマは荷を下ろし、すぐにニナのそばへ膝をついた。

ニナは目を閉じていた。額に汗が浮いている。呼吸は浅い。肩口と脇腹に血が滲んでいた。

落下の衝撃で体を打ったのか、片足の向きも少しおかしい。

エマは手を伸ばした。

「ニナ。聞こえる?」


ニナの唇が、かすかに動いた。

「……死んでる」

エマは喉の奥が詰まりそうになるのを押し戻し、首元に指を当てた。

脈がある。呼吸もある。

「よし。返事できるなら生きてる」


「……痛い」


「今見るから。動かないで」


エマはニナの息を確かめた。浅いが、途切れてはいない。

次に血の出ている場所を探す。肩口と脇腹に滲んでいる血は多いが、噴き出してはいなかった。

落ち着け、とエマは自分に言い聞かせる。

息はある。血も、まだ押さえられる。なら、手を動かす。

エマはニナの肩に布を当て、強く押さえた。

ニナが息を詰める。


「痛むところ、言える?」

ニナはすぐには答えなかった。息を整えてから、かすかに口を開く。

「左足……脇。肩も」


「頭は?」


「打った。でも、見えてる」

エマはニナの目を見た。焦点は合っている。声は細いが、返事はできている。

「足は動かさないで」

ニナは頷こうとして、途中でやめた。

エマは腰袋から布を引き抜き、ニナの肩を押さえたまま、足の状態を見る。

完全に折れているかは分からない。だが、この場で無理に動かせば悪くなる。

添え木にできそうな細い板を荷から取り出し、布で固定する。きれいな処置ではない。

けれど、動かすためには必要だった。

エマはそのあと、スクロールを一枚使った。

淡い光がニナの足に集まり、折れた骨をつないでいく。完全に治すほどではない。

けれど、支えがあれば歩けるところまでは戻せる。

その間、ノルは黙っていた。

普段なら、痛みを隠してでも何か指示を出す。今はそれがない。

エマはニナの出血を押さえてから、ノルの方へ移った。

「ノル、見せて」

ノルは少しだけ腕を動かした。庇っていたニナから手を離し、石柱に背を預ける。


衣服を少し切ると、脇腹に裂傷があった。深い。

水で濡れていて分かりにくいが、血の流れは押さえられる。呼吸のたびに顔がわずかに歪む。

落下の衝撃で、肋骨も痛めているかもしれなかった。

エマは酒精で手を拭き、傷口の周りを確かめた。

布を当てると、ノルの体がわずかに強張る。


「染みる」


「ごめん。我慢して」

謝る声は短かった。けれど、手は止めなかった。

水で汚れている。放っておけば開く。ここで処置しなければ、動かす途中で悪くなる。


「骨が折れてるかもしれない。先に血を止めて、縫合する。必要ならスクロールも使う」


ノルは短く息を吐いた。


「必要ならな。任せる」

エマは頷き、荷から針と糸を出した。

水音がする。二人の呼吸が混じる。遠くで雫が落ちる音がした。

静かだった。だが、静かだから安全というわけではない。

ここは六階層だ。長く留まる場所ではなかった。

エマはノルにポーションを飲ませてから傷口の周りを拭い、縫合に入った。

ノルは声を上げなかった。ただ、息が少し荒くなった。

エマはそれを聞きながら、手元だけを見た。急ぎすぎれば失敗する。

遅すぎれば、ここに留まる時間が増える。

一針ずつ、傷を閉じる。

血が滲む。布で押さえる。結ぶ。次へ移る。

縫合を終えると、エマはスクロールを二枚使った。

淡い光が、脇腹の奥に集まる。折れた肋骨をつなぎ、動かしても傷が悪くならないところまで支える。

完全に治すには足りない。だが、ここでそれ以上使えば、残りが心もとない。

エマはその上から布を当て、包帯を巻いた。締めすぎれば呼吸を邪魔する。緩ければ血が止まらない。指先で圧を確かめながら、何度も位置を直した。


「今は、ここまで。痛むと思う。でも、歩けるようにはしたから」

エマが言うと、ノルは小さく頷いた。

「分かった。……助かる」

ニナが薄く目を開けた。

「……エマ」


「なに」


「水、冷たい」

その言葉で、エマは周囲を見た。

二人とも濡れている。傷も汚れる。体温も奪われる。ここに長くはいられない。

エマは灯りを少し上げ、近くを照らした。水面の先に、崩れた石段のような段差が見えた。

少しだけ高くなっている。あそこなら、少なくとも水からは上がれる。背を預けられる柱もある。


「まず水から上がる。足を冷やし続けるのはまずいし、傷も汚れる。あの柱の陰まで行く」

ノルは周囲を見て、短く頷いた。

「そうしよう」

声は弱かったが、判断を疑う響きはなかった。


エマはニナの腕を自分の肩に回した。ニナの体重がかかる。

膝が沈みそうになるのを、足に力を入れて支える。

「足、できるだけ預けて」


ニナは小さく息を吸った。

「……ごめん」


「謝らなくていい。今は、私に預けて。帰ることだけ考えて」

エマは短く答えた。


ノルも石柱に手をつき、ゆっくり立ち上がる。顔色は悪い。だが、自分の足で立とうとしていた。

「ノル、立てる?」


ノルはすぐには答えなかった。石柱に手をつき、ゆっくり体を起こす。

「……痛む。だが、歩ける」

ノルは短く息を吐いた。

「助かった。灯りを頼む」


エマは頷いた。どの程度動けるかを聞き返す時間はない。まず、水から上がる。話はそれからだった。

三人は、浅い水の中を進み始めた。

一歩進むたびに、水が揺れる。ニナの呼吸が乱れる。ノルの足取りも重い。エマは二人の間で灯りを掲げ、段差までの距離を測った。


まだ上に戻る道は見えない。けれど、二人は生きている。

エマはそれだけを確かめるように、ニナの腕を支え直した。


灯りは、やはり天井まで届かなかった。



本作品は未完成な部分や表現に納得できない箇所が随所にあります。なので、随時修正します。

シナリオや展開を変えるつもりはありません。

ご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ