3話 事実を受け止めよう?
1ページ目
数日後正確には12月1日水曜日、
新聞のコピーを真っ白な手で握りしめ、陰鬱な表情で家に帰宅したパパを見て、私は悟った。
「あぁぁあああ!やっぱり!?」
口に手を当て嗚咽を漏らさないよう、塞いだ。
「うん、どうしようもないことが・・・・・この世にはあるんだ」
パパの言葉が空を切る。
静寂を破って、ママが マグカップにココアを入れてくれた。
ソファに座ってパパが肩を抱き寄せてきた。
「この数日、大学でいろいろと聴いてきた。インドネシアや各国が集まるインターネット上のチャットがある。そこに今現在分かってることを書き込みを入れよう。ついでにアンジェラ、君が言った被害情報をまるで確定した未来化のような言葉でいろいろとネットに上げよう」
呆然と見ると、
「君も書くんだ。アカウントを複数作って情報を広く広げてもらおう。これを拡散というんだが、そうすると世界中の人間に届く。もしかしたらずっと被害は少なくなるかもしれない。やるだけの価値はある」
「ママと一緒に規約を読んで、一緒に文章にするといい。私は友達と一緒にきちんとしたデータを算出して学会に・・・・間に合わんな、すぐにネットに上げよう。信憑性があるとされれば、それだけ真剣に読んでもらえるだろうし。繰り返しできれば毎日呼びかけよう。」
祈るようにパパは繰り返した。
私が書いた文章の一例はこうだ。
2004年12月26日、インドネシア西部時間7時58分53秒、インドネシア西部、スマトラ島北西沖のインド洋で発生したマグニチュード9.1の地震である。地震におけるマグニチュード9.1は、1900年以降でチリ地震、アラスカ地震に次いで3番目に大きい規模である。
この地震の被害はこの地震により発生した大津波は最大で高さ34mにもなり、インドネシアだけでなく、タイ、マレーシア、インド、スリランカ、モルディブ、さらには遠くアフリカ大陸まで到達。街を飲み込んだ。
津波っていうのは、説明すると超巨大な波。ただの波じゃなくて、人を街を、人生を思い出を故郷を奪っていく波だよ。
泳いで、安全地帯になんて絶対に無理だから。高いところに逃げるしかない。
だけど、レンガで作成された建物は横から衝撃に弱い。それに一度の揺れでほとんどビルは崩壊してしまう。
結局崩れてしまう。15分の短い時間で山まで避難なんてとてもじゃないけど無理だ。
何時間も前から動いてくれないと間に合わないし、そもそもな話朝だから。
難しい話だと思う。けど動いて。
温かい場所でも、夜は冷えるだろうし、水や最低限の衣類、一番大事な宝物と写真一枚。そして一週間分ほど携帯食料、防災グッズに自分が最低限必要な医薬品をバックに入れて高いところに逃げて。
歩き慣れてるウォーキングシューズで逃げてね。
時間的、金銭的に余裕のある人たち、出来たら、ジャワ島や、バリ島、カリマンタン島、スラウェシ島に避難して。
そこには津波の高さは低くて、または来なかった。建物も崩壊してないからなんとかこの地震からは逃げられる。
みんな何日も前からかもしくは、前日から逃げて。
貴重品にきっちとすべての現金や大事な物。正直引っ越す勢いで逃げてほしい。
今回の地震では被災者は各国合わせて約206万人、死者・行方不明者数は約23万人、被害総額は68億ドルを超えるなど、未曾有の被害をもたらした。
この後余震も多数ありそれも規模が大きいものばかり、抗生剤などケガへの医療品も不足し避難所は医者不足。悲惨だった。
子どもが、大人が全員が啼いてた。痛いって小さく泣いてる人もいる。
最初の津波の到達は15分から30分。この時逃げる人たちは、安全のためにも早い目に、そして車で逃げないで。
二次災害で人を殺してしまう。
本当はもっと早く逃げて、ホテルもお店もお休みして。
または、営業時間をずらして、夜にはキャンプのつもりでお昼に戻る予定で山にいて。
ペットを連れている人はずっと早くに逃げて。犬も猫も連れていけないなら首輪や紐を放してあげて。ドアを開けておいて。
拡散して。決して、大事な物を落としたとか、忘れ物をしたとかで戻ってはダメ。家族と離れないで、生き延びて。一人でも多く生き延びて。
高いところに昇って、頑丈な建物だよ。
念のために一日早く山に登ってキャンプするの。
インド洋沿岸の多数の国々に甚大な被害をもたらした「広域災害」から一人でも多くの人間が逃げて!
そして被害に会う各国の名前を最後に付け加えた。
この言葉を英語にまずは変えた。
そして、インドネシアの言葉に変換するのに、何時間も必要だった。
今のご時世まだグーグルの翻訳サービスはまだなく、ヤフーの翻訳もそこまで詳細で繊細な作業ができるほど発達しいない。
本当にもっと楽にサクッと文章がつくれるはずなのに!!っていう未来知識からのせいで余計ストレスだった。
有名な翻訳サイトを使用しても精度が低く、英語に戻してきちっと意味が通じなければやり直して、紙の辞書で補強をママやパパと一緒にした。
12月2日深夜。
納得のいく所謂意味がしっかり伝わりそうな文章が完成。
12月3日金曜日、私は学校があるのでママに任せて投稿して帰ってきた。
初めてのアカウントで投稿してかれこれ1時間、やっぱり、想定した通り「沈黙」だった。
今日は5つのアカウントで1時間ごとに日本語と英語、インドネシアの言葉でチャットと掲示板に投稿してくれたらしい。
明日は私が投稿する。
次の日、日本のゴールデンタイムである8時~22時に間に合わせるため早起きして朝食を食べ、9時ジャストに投稿した。
コツコツとみんなで作ったアカウントを使って、また1時間ごとに9時~正午までの投稿。
気持ちは焦るけど、何の反応もないのにドキドキしても仕方がない。深呼吸してまた時間になるまで宿題をすませる。
今日もやっぱり反応は何もなかった。
この活動をするにあたって両親がルールを決めてきた。
その一、私たちに責任はない自暴自棄にならないこと。
其二、 生活はきちんと規則正しく。
その三、のめりこみすぎない、毎日必死になって投稿しても信じない人は信じないし、助からない人は助からない。 時間を決めて投稿すること。焦ってはいけない。
次の日の日曜日、同じようにコツコツと過ごし、夜遅くにパソコンの前に座り、溜まったメッセージを確認。
「今日も……ダメか」
画面を閉じようとしたその時。 画面の端に、私への投稿への返信を示す小さなマークが灯った。
ID: Acehnese_Boy2004
なんですかこのスレッドは? 26日に津波が来ると?
こんな悪戯をするあなたは誰ですか?
なんて書こう?
ID:LittleProphet_2004
地震について、学校で勉強したんです。そしたらものすごく詳細な日時の地震の夢を見ました。正夢かと思えるくらいの夢だったのでパパに話したら、調べてくれた。
スマトラ沖で場所もわかったんです。図書館の本からですけど、ナショナルジオグラフィックや、地質学の専門書も一緒に読みました。
ID: Acehnese_Boy2004
夢……? 夢のためにそこまで調べるのか? 悪いけど、僕は忙しい。アチェは平和だ。もし本当に大災害が来るなら、ノストラダムスの大予言だって当たったはずだ。
ID:LittleProphet_2004
ただの、夢ならどんなにいい事か。でも、ただの夢なのにあんなにも悲惨な光景をみるなんて私は狂人なのかしら。離れ離れになる人々、一瞬で波に飲み込まれ、自身も必死で漂流物に捕まり濁流のなか生還する人間。ずぶぬれで現地の気温は温かいはずなのに、身体が恐怖か体温の低下かで震える姿。
それに、インド洋の津波警報システムはまだ構築されてないの。本当にこんなことが起こったら?事前に夢で見たのに警告しないなんて私にはむりだった。
誰か私のパパ以外にも、本当に警報システムがないのか調べてくれる?




