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第三十八章 会うことのない君 Sside


スマートフォンの画面に表示された一枚の写真を、


しばらく、何も言わずに見つめていた。


黒のタキシードに身を包んだ青年。


少しだけ照れたように笑っている。


(……似てるな)


思わず、口元が緩む。


あの人の面影と、


どこか自分の若い頃が重なる。


不思議な感覚だった。


(……この子が)


自分の知らなかった時間の中で、


育ってきた存在。


関わることはなかった。


それでも——


確かに、繋がっている。


その事実が、


静かに胸の奥へと落ちていく。


隣にいる花嫁が、


やわらかく微笑んでいる。


その空気のあたたかさが、


画面越しでも伝わってくる。


(……いい顔してる)


それだけで、十分だった。


それ以上、望むことはない。


望んではいけない。


(……これでいい)


心の中で、静かに言い聞かせる。


送られてきたのは、写真だけ。


言葉はない。


でも——


それでいい。


(……分かってる)


あの子の選び方。


あの子の距離。


そして——


彼女の意志。


全部、ここにある。


スマートフォンをそっと置く。


視線を、机の上へ向ける。


飾られている一枚の写真。


若い頃の自分と、


彼女。


変わらない笑顔。


あの頃のままの時間。


その隣に、


新しい写真を並べる。


タキシード姿の青年と、


白いドレスの花嫁。


時間の違う二枚が、


同じ場所に並ぶ。


(……そうか)


胸の奥で、何かがほどける。


あの時、


守ろうとしたもの。


手放したもの。


届かなかったもの。


全部が、


ここに繋がっている。


形を変えて、


ちゃんと残っている。


しばらく、


その二枚を見つめる。


言葉はいらなかった。


でも——


自然と、口をついて出る。


「……ちゃんと、続いてるよ」


静かな声。


誰に聞かせるでもない。


それでも、


届くと信じている。


(……見てるか)


心の中で、問いかける。


返事はない。


でも、不思議と寂しくはなかった。


(……これでいい)


もう、探さなくていい。


もう、追いかけなくていい。


ここにある。


確かに、ここに。


静かな部屋に、


やわらかな光が差し込む。


二つの写真が、


同じように光を受けている。


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


そして、


前を向いた。


これからも、


自分の場所で、


自分の人生を生きていく。


それが、


あの人への一番の答えだと、


分かっているから。


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