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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
219/222

第四十二幕 「落とし所」

大丈夫、きっと良くなる

そう思って踏み出す一歩、本当は勇気がいる

でも不安がっていても何も変わらない

失敗したら、その時に考えよう


「そうやって進んだ先にあるのが、私の目指す未来。」


「つまり、結局のところルドの母君や鳥人族から明確な言質は取れなかった。しかしながらセレナとしては確信に足る反応を得られた。という形になるのでしょうか?」


眼の前の豪華な鳥料理に手もつけず、私の話を聞き入ってたシャルは総評を口にした。



「ま、有り体に言ってしまえばそうよ。これはあくまで私が考えついた理由であって、彼らの口から語られたものではないわ。結果として合っていても間違っていても彼らにはなんのお咎めもない、社会的にも精霊的にもね。」


そういって私は切り分けた料理をフォークで口に運ぶ。爽やかな脂の旨味と香り豊かなスパイスの爽快さが舌と鼻を楽しませてくれる。


「セレナはそれで問題ないって判断したんだろ。なら別にいいんじゃね?」


ティガはもも肉の揚げ料理を手で掴み、豪快に齧り付く。

溢れ出す脂の熱さに驚きつつも、ほふほふと頬をほころばせている。


「ルドは自分で踏ん切りが付いたんだから、なーんにも問題ないがャ。」


鳥人族側の事情など知ったことではない。とでも言わんばかりに、さしたる興味もなさそうに吐き捨てるミア。

ササミの蒸し料理を口に放り込んで咀嚼し、頬を染めながら相好を崩す。


「まぁ、我としてはミアの言う通りです。もはやこの地を発つことは心に決めましたし、おかげさまで支度も整いました。……それに、お膳立てというか……就職先まで斡旋していただいたようで。もう一族のことなど考える余裕もない目まぐるしさでございます。」


ミアと一緒の料理を楽しみながら、淡々と心情を語るルド。

表情は晴れやかで、家族や仲間のことよりも、これからの自分に関わることで頭がいっぱいのようだ。


「ま。一番重要なのはルドの心持ちよ。そこが問題ないなら、私がどうであろうとシャルが不満に思おうと関係ないわ。」


冷たいお茶で喉を潤し、それぞれの反応を確認したあと。私は一番不満げなシャルに対して釘を差す。


「……差し出がましいとは思っております。しかしながら、ルドの母君の心情を理解することは……同じ母として難しいと言わざるを得ません。」


そんな私に気圧されることもなく、自身の立場を明らかにするシャル。


思い出せば、シャルが自身の『先見の瞳』でルドと鳥人族の関係性を垣間見たときに、理性的な彼女にしては珍しく随分と憤っていた。このことを考えれば、きっと信じがたい情景を見せられた上にヴァルの振る舞いや私から聞いた彼女の話は……同じ母親として容認することは難しいのかも知れない。


「そうね、シャルの母親としての気持ちはわかる。だけどさっき話したでしょ? 『理由は話さない、だけど安心して貴女の選んだ道を往きなさい。それが貴女の望むものを手にする一番の近道よ。』って。」


私は食事前に帰ってきた皆に鳥人族との会話の一部だけを明かした。


もちろん、『風の便り』の真意や制約。ヴァルの心情や鳥人族たちの想いについてはあえて伏せた。それが鳥人族の間で語られていないなら、私が話すことはよくないことだからと思ったからだ。


そのうえでシャルたちやルドに話せることなど、ほんの僅かだ。


これで現状を納得して、己の思うところと折り合いをつけろと言われて、はいわかりましたと素直に引き下がるほうが難しいのも当たり前のことだ。


当事者であるルドより、母親であるシャルが憤ってるのは想定外だったけども。これもある意味、母の愛なのだろう。



「……これ以上私が差し出がましい真似をするのも良くないと自覚しております。とはいえ、セレナのことも信じております。……納得はしませんけども、この場は身勝手な思いを収めることにします。」


そういってシャルはぷりぷりと怒った素振りを振りまきながら、目の前の鳥の照り焼きをナイフとフォークで上品に切り分け口に運ぶ。


「そうね。そうしてもらえれば助かるわ。」


私はそういったあと、小さく笑いながら食事を続けた。



結局のところ、彼女も心の底から憤慨してるわけではない。

怒った仕草をすることで、このことが本来良くないことであるというのを周りに再確認させつつ、ルドの不満を代弁してあげてるのだ。


そうやって理不尽なことへの折り合いをつけることもある。


ルドもそれを理解しているのだろう。

口にこそしないが、怒ってるシャルを見て、凄く嬉しそうな照れくさそうな笑顔を浮かべてる。



ま、私たち側としての落とし所としては上々の結果だ。


個人的にも満足。

リリスも穏やかな笑顔でずっと満足気に見守っている。


これでいいのよ。



「しっかし、鳥人族の伝統料理が鳥料理っつうのは意外っつうか……この間の風呂場で口を滑らせて、みんなに責められた私としては納得しかねるんだぜ。」


そんな空気を払拭するため、話題を切り替えようとしたティガが目の前の料理に対する文句をいい始める。


ホテル側が用意してくれた鳥料理の中には、私たちが昼間にクロイヌたちに振舞われたのと同じ料理も含まれていた。多分ホテルの調理師にも鳥人族がいるんだろう。


味付けはシンプルで控えめな塩味、香草と葉野菜をたっぷり添えた蒸し料理。良く言えばさっぱりとした、悪く言えば蛋白で味気のない料理。


「考えてみれば合理的よ。良質で軽量な筋肉を培うために一番適切なのは鶏肉だと言うわ。それを蒸すのは更に無駄な脂質を削ぎ落としつつ柔らかく炊き上げることになる。そこに健康的な植物油と香草のソースをまぶして大量の繊維質と一緒に味わう。実に空を舞う鳥人族にふさわしい料理よ。」


「それは肉体の極限を目指す『ナガレ』として納得ではあるんだけどさぁ。……なんか皆から一言欲しいもんだわ。」


そう言ってちらりと隣に座るシャルや向かいの席のミアに目線を送る。


「そんなことはしりません」と言わんばかりに、シャルはツンとして黙って料理を楽しんでいる。


「ティガ姉ちゃんがデリカシーに欠けてたことには変わんないのャー。」

ミアも冷たく言い捨てると、我関せずと伝統料理を頬張る。


「あ、あはは。我も伝統料理のことは知ってましたが……あのときは頭になかったですので、お力添えできなかったことが悔やまれます。」

一方ルドは、孤軍奮闘するティガをなんとかフォローしようとするも、意味はなさそうだ。


「ちぇ、コレだよ。まぁいいけどさ! 私は別に間違ってないって確認できたからー!」


不満げな態度を振りまきつつ、目の前の伝統料理を山盛りに取り分けると口いっぱいに頬張ってみせるティガ。


そんな彼女をみて皆がクスクスと笑っている。



ま、これもティガなりの優しさか。

シャルだけにいいかっこさせまいと、自ら道化を演じているのだろう。


まったく揃いも揃って不器用な優しさだこと。



「でも、私もこの料理は凄くいいと思います。お腹いっぱい食べても、全然胃がもたれないっていうか、すごく体に良さそうっていうか。」


ティガとは対照的な体形の持ち主であるムチムチ淫魔も自分の皿に山盛りの伝統料理を盛り付け嬉しそうに頬張ってる。


彼女の場合は別にティガの援護ってわけではなく、純粋に気に入ったのだろう。自分の体形事情的にも。


言わんけど。

超藪蛇。



「おう。リリスはこういうのを食生活の中心にしたほうがいいぞ。あのぷにぷにの腕と腹はやべーって。」


そんな私の配慮もむなしく、ティガが再び口を滑らせる。


道化じゃなかったわ、まじでバカだった!




私は慌てて隣に座るリリスに視線を向けた。

純真無垢な淫魔の顔に悲壮感と黒い感情が灯り、ストンと表情が抜け落ちる。目から光が消えて瞳孔が広がり無限の奥行きを孕んでいる。


超怖い。



思わず視線を外してしまった。



そんなのを気にすることもなく、ノンデリが話を続ける。


「後で夢見でさ、あたしの修行行程みせてあげるからさ、食の改善と運動したほうがいいぜ。まじで。

せっかくリリスは魔族モードでも綺麗なのに、もったいねーよ。」


デリカシーの欠けた純粋な善意が、誰にも咎められずに振りまかれている。シャルとミアが目を覆ってティガの無遠慮さを嘆いてるのが視界に映った。

ルドも固まって青い顔をしている。


私は恐る恐る相棒の方に視線を送る。



「まぁ……そこまで言うなら、努力するのはやぶさかではないですけども。」


照れくさそうに頬を染めながら自分の腹部を恨めしそうに凝視するリリスがそこには居た。


シャルがほっと胸を撫で下ろしてる。



……チョロいにも程があるだろ。




ちなみに過去に私の理力強化運動式強制ダイエットを既に試している。

案の定というか、脂肪はそんな簡単には落ちなかった。


そらそうだ、私の理力による運動力強化は物理的な筋力の増強ではないし、継続的に他人の筋力を変質させるほどの身体変化は危険だ。


むしろ尋常ならざる体への負担に、ほんの30分で「もう勘弁して」と、リリスが泣きついてきたので失敗に終わっている。


ま、ナガレという超一流の肉体鍛錬者が監督に付いてくれるのは有り難い。勝手にやらせておこう。


ほんとにやるかはしらんけども。



そんなことより、いい感じに会話が荒れて本当の暗い空気が打ち払われたのが有り難い。

頃合いだろうし、皆に聞いておこう。


「で、結局のところ。ルドはルーカスたちと王都に向かうのね?」


ずっと給仕のようにシャルたちに奉仕していたルーカスとエミリアの手が止まる。


話の内容的に部外者が入れられなかったので、ならば我々がと下僕(ルーカス)が食事の世話をしてくれていたのだ。


「ええ。大隊長フォティナ様から零番隊総指揮官へと特例報告がなされたようで。既に陛下とガレン将軍、賢者ステラーノ様の耳にまで入ってます。

一度私とエミリアに対して精神鑑定を含む直接詳細報告をするように命令が下りました。明日にでも高速飛空艇で王都に向かわねばなりませんので、少なくとも1週間はかかるかと。」


ルーカスが姿勢を正して状況説明を口にする。


「タイミング的にもちょうどだった。ってことかしら?」


「はい、『魔王の胎動』を含む鳥人族ルドの『風の便り』による空間現象についての報告は本部にとって重要な案件だったようで、我々の予想以上の反応をしております。本件は特定秘匿事項に分類され、陛下含む一部の方しか把握しておりません。


先日セレナ様が仰っていた通り、『星読みの大賢者』による事前通知があったものかと推察しています。


当然、リリスさんが魔族であることは報告には含まれていません。しかしながら、我々がそうであったように零番隊総指揮官殿を中心に、既にある程度の予想が既に成り立っているものと推察されます。


この点について、どう本部へ対応しますか?」


エミリアもまた姿勢を正し共通認識であることを示すために、兄に続いて報告をする。そして懸念事項への問いも欠かさない。



私はリリスの方に視線を送る。

私の視線の意味を悟った彼女は真剣な顔で(うなづ)く。


「あなた達に任せる。本部との信用を保つために必要だと感じたのなら、リリスが魔族でありサキュバスとして夢見を行使していること、体験を含めて仔細に報告していいわ。

あなた達は別に私たちに寝返ったダブルスパイなどではないのだし、私たちを信じたことを零番隊特務官として報告することはある種の信用に値するわ。


それに、陛下と将軍と賢者が集っていたということは『賢人会議』が行われていたと考えるべきよ。陛下の光の魔術『真実の円卓』が使用されている段階にあるのであれば、あなた達が円卓に招かれる可能性すらある。どのみち隠しごとは不可能よ。」


「はい、俺もそう思います。」

「同意します。」


ルミナス王家の血筋が持つ光の魔術適性、その血筋に発現するのは神職者や勇者という光の魔術の適性とは別の物になる。


ルミナスの血を色濃く引き継ぐ王家には、既存の魔術や神聖魔術とは別の、『体系化されていない固有魔術』のようなものが発現することが多い。


ルミナス王国現国王、エリオット・ルミナリス十三世、ヴィータス・アミスカス・ディレクティオ。


陛下に発現した光の固有魔術は『真実を見通す精神系干渉魔術』だ。


彼はそのカリスマ性が元となり、絶大な人気を持つ王であるとともに、対象者の『真意を見通す審美眼』を持つ絶対的な裁定者の一面を持つ。

それゆえに彼が即位したときには大規模な勢力図の書き換えが行われることとなり大貴族との派閥争いにより、かなりの規模の紛争へと発展しかけた。


だがエリオット陛下はその反王族派貴族たちの奥底にある功名心や野心すら見通してしまい、裏の世界との繋がりが露見することを恐れた彼らは一瞬にして反旗を畳み、大人しくなってしまった。


そうして歴史的に類を見ないほど安定した世代交代を行ってみせた陛下は、国民から絶大な支持を得ることとなる。

結果としてその一体感は、魔族との大戦に良い影響をもたらした。


彼のカリスマ性が王国の安定に大きく影響しているのは間違いない。



『円卓』は彼の固有魔術を改良し、参加者が真実を語ることを強制するための大型魔具であり、いわば真実のみを語るための領域発生装置。


為政者にとってこれほど有り難いものはない。

特に己の発現が真実であることを知らしめたい者や、参加者が偽りごとを話す気がないことを確認したいものにとって得難い存在。

ゆえにエリオット陛下は自身の固有魔術を解析し、大量の開発費を投じてその魔具を作成させた。


だから『円卓』は国家の最重要施設として王城の奥底にあると言われており、私ですらその場所を知らない。多分、お義父様は知ってるんだろうけど。


しかし、その真実を見通す魔具の存在は関係者の間では割りと周知の事実だったりする。知らないのは王国関係者でも末端の新参者と、国民を含む王城の外に住まう全ての者だ。


ま、つまるところ。

遅かれ早かれバレることは織り込み済みだ。


「というわけで、良い機会があるならこちらからバラすのも手よ。どうせ特定秘匿事項に分類されるから世間に広がる可能性は低いわ。」


やや投げやりな態度をしてみせつつ、私は言い切る。


「内部浸透した間者へ情報が流れる可能性については?」


ルーカスが懸念事項を確認してきた。


「それについても同様よ、ここまでの事象で『深き影たち』が既にリリスの存在にある程度の予測を立てている前提で動きましょ。それが公的になるまではリリスの正体が表立って問題視されることはないわ。」


既に考えていたことだ、すぐに返答する。


「「承知しました。」」


「……すみません。お二人には私のことでご迷惑を……。」


私の指示に淡々と反応するローム兄妹を見ていたリリスが、とても申し訳なさそうな顔で一言付け加える。


「お気になさらず。貴女の恩義に報いるためならこの程度のことなんでもありません。」

「大丈夫ですよ、リリスさん。」


そんな彼女を気遣うかのように、優しい笑顔で応える二人。


「頼もしい限りよ。判断を任せるのは私からの信頼の証と取ってくれるとありがたいわね。」


良い返事をする二人に私からも一言付け加える。


「それはそれで責任が重いです、セレナ様。正直いって、悪い方向へと流れたらと思うと寝付きが悪くなりそうです。」

「まったく、人使いが荒いと言わざるを得ません。支配者の資質をお持ちのようで今から戦々恐々とします。」


表情一つ崩さずに兄妹が曰う。


……扱いの差が酷い。

ま、いいけど。


「そ。良い働きを期待してるわ。」


涼しい顔で二人の不満をいなす。


「おまかせを、手玉にとってやりますよ。」

「やったりますよー。」


取り繕うこともなく、気負うこともなく、二人はニヤっと笑ってみせた。


本当に頼もしい限りだ。




さて、あと話しておくことは……。


あのこと、かな。


憎まれ役

道化役

いろいろ大事な脇役


でも世界にいる全ての人は、結局みんな主役級だといいなー


私は裏方がいいです

日陰者

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