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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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第四十一幕 「告げ役」

長く悠久の時を待った

己の使命を果たせる日を待ち焦がれた

語ることは許されず

語らぬことも許されぬ


「これを祝福とするか、呪いとするか……ふ、愚問か。」


程なくして私とリリスは、クロイヌに招かれた昼食会にて彼との交流を楽しんだ。昼食と言うにはあまりに豪華な料理の数々を眼の前に、お互いの文化についていろいろな話を交わした。


ルドやヴァルのことに触れることはなかったけども……それでも彼らは私たちが自分たちのことを『心から理解してくれている』と判断したことが言葉の端々から伝わってくる。


どうやら、私の推論は全て当たっていると判断して良さそうだ。


そのうえで彼らが自分たちの行動を変えるつもりがないのであれば、それはそれ相応の意味があるということだろう。


ならばここから先は……それぞれの判断を信じて、起こすべき行動を選択するだけ。それしかないし、それで良い。



私はクロイヌにルドのことを幾つか話した。

『夢見』のことは一応伏せ、ルドが風のマナを応用した飛行で物凄い動きを見せたことや『墜天』に類する高位風魔術を行使したこと。


彼女の話を聞いていたクロイヌは、母親の代わりに話を聞いて一言一句忘れまいとするかのような真剣そのものな表情だった。それでも彼女の成長を知るたびに本当に嬉しそうな笑顔になっていた。


そして、ルドがこの地を離れて旅立つのを決めたことも話した。


その話を聞いた時、クロイヌは少しだけ難しい顔をしたあと、深く頷いて。「承知した。伝えて頂いたことを感謝する。」そういった。





――急遽開かれた会食を終えた私たちは、彼らの屋敷の前にて別れの前の一時を迎える。


「セレナ。儂は今日という日を迎えられたことを誇りに思う。そして、そう遠くない未来、我々は再び相まみえるだろう。その時、お前も私も……世界中にいる全てのものが選択を迫られることになる。


我々はそれを『定めの時』と呼び、口伝している。

何が起きるのかはわからない、だが何が起きても良いように我々は備えるべきだと思っている。


今まで漫然と備えていたが、今日お前たちに会えたことでハッキリした。種族の長として、『風のナガレ』として、お前達との出会いを無駄にせぬよう、その時に備えようと思う。」


そう語る彼の表情は、おそらく強い意志の宿った覚悟のもの。


その理由は聞かなかった。

でももう、私はなんとなく予感している。


グリーンリーフ村の出来事、銀の筒、ローム兄妹やシャルたちとの出会い、ルドとの出会い、


リリスとの旅が、色んなことを明らかにしていく。

全てがつながっているように思える。


その確信は強まるばかりだ。



「私も色々と考えてるわ。次に会える時に、その思いが無駄にならないようにお互い色々と動かないとね。」


「そうなるであろうな。」


私とクロイヌは真剣な眼差しを交わしつつ、静かに頷き合う。


「あの……私からも、一言だけ……いいですか?」


そんな私たちに、そばで見ていたリリスが申し訳なさそうな顔で控えめに申し出る。

クロイヌは嬉しそうな顔で深く頷く。


私は黙って一歩引いて、リリスに前に出るよう促した。


「セレナ様のお陰で……なんとなく、何が起きてるか理解しました。今までの無礼な物言いを謝ります。ごめんなさい。」


そういって静々と頭を下げた。


相変わらず律儀な子だ。

でも、意外と遅かったかな?

この子の性格だと、もっと早く動くものかと思ってたけど。


そして、彼の反応もまた、私の予想を大きく超えるものだった。


「気に召されるな。元より誹りを受ける覚悟を含め、我々は道を選んだ。そして貴女の友はそれを見抜いた。それは貴女のおかげでもあることを私は()()()()()()()。貴女と聖女が歩む道が、皆を導く。その無数の道が一つになることを風の精霊神が望んでいる。ゆえに、我々はお前達もまた信用に値するものだと信じる。」


彼はそう言って数歩下がると、片膝をついて跪く。

そして胸に手を添えてこういった。


「聖女セレナ・ルミナリス、そして()()()()()()()()よ。鳥人族の長、『風のナガレ』にして『天狗のクロイヌ』。そして『風読み』クリュスエスト・クロイヌが、風の精霊神より告げられた『便り』を伝えよう。」


リリスの顔が驚愕に染まる。


見送りに同行していたイスタやガスト、トーム。護衛兵たち、従者たち。

全てのものがざわつく。


やっぱり、クロイヌは知ってたのか。

いや、知らされていたのか。


ほんっと、噂話が大好きなお喋り精霊だこと……。


「送り主は不明だ。精霊神は『古き友の一人』と仰せられている。内容はこうだ。」


同族のざわめきなど気にもとめず、彼は喋り続ける。


『猛々しい光よ、温く柔らかな闇よ。どうか『彼の者』を見捨てないでおくれ。お前達の愛が、お前たちの仲間の力が、お前たちが導く想いだけが『彼の者』を助ける。わたしたちに出来ることは全てし尽くした、あとはお前達二人に託す。


人の姿を模した光よ、魔の貌を成した闇よ。

定めの時、その日に集うのを心待ちにしている。』



不思議な声。男性とも女性とも取れる、老人のようでありながら、童のような声。話している内容も私たちを指す言葉の意味もわからない。


だが、内容はそれだけだった。


「以上だ。」


晴れ晴れとした顔で立ち上がった彼は、満足気に一言だけ、そう発した。


「さて。謝礼はどうしたらいいのかしら。」

作法に従い、相手の求めるところを尋ねる。


「そうだな。『定めの時』決して誰も見捨てぬように頼んでみようか。」

クロイヌは最初から決めていたかのように、迷うことなく伺う。


だったら即答してあげるまでだ。


「あら、そんなことでいいの? わかったわ。」

なんでもないことのように、私は言い切った。


ていうか私は最初からそのつもり。



彼の表情が驚嘆に染まる。

そして、数瞬の後には愉快痛快と言わんばかりの笑顔になった。


「ありがたい。」


そういうと笑顔で再び頭を下げた。


「あ、あ、ああああの?えっと!」

クロイヌの発言に一瞬で固まって、ようやく声を発するリリス。


「困ったものね、風の精霊達のおしゃべりっぷりにも。貴女の秘密が公然とバラされているわよ、()()()。」


「あのっ、えっ。ちょっ、せ、セレナ?!」


「どうやら、周りの鳥人族たち全員にも聞こえたようね。」


「ひぃ!?あの、わたっ、私っ。え、まぞっ、え!?」


「そうよ、風の精霊の真実は『風読み』クロイヌによって、対象者全てに伝えられたわ。貴女が魔族の王女リリスだって、ね。」


リリスの顔が今までで一番真っ青になる。


「セレナ!?」

悲鳴のような非難の声が発せられる。


「そして、ここにいる全ての者は、貴女と私が『定めの時』に何かを成す者であることを知ったの。つまり、さっきの『風の便り』は私とリリスと、ここにいる鳥人族全てが関わるべき内容よ。さらに、この『風の便り』の内容を漏らしたものは、風の精霊の加護を失い、空を失うわ。」


「あっ。」

リリスの真っ青だった顔に生気が戻る。

そしてついさっきの内容を忘れていたことに気づく。

次の瞬間、羞恥で真っ赤に染まるリリスの顔。


いまだに魔族露見に慣れてない、リリスらしい振る舞いだ。


そんな彼女をみてクロイヌは実に愉快そうに頬を歪ませている。


「思いの外()()()()なのだな、魔族というものも。」


「この子は()()よ、手がかかって仕方ないわ。」


「お前達の間に流れる空気の流れは今まで見たこともないほど安心する。清らかで澄んでいて、温かさと思いやりに満ちた風がお互いを包んでいる。邪な心の持ち主が間に居たら、空気が綺麗すぎて呼吸が出来なくて死にそうなくらいだ。」


「なにそれ、言いたいことがわからないんだけど……。」


どういうことよ、私たちの間に挟まったら死ぬみたいな言い草。


「良き間柄であることがすぐわかる、そういうことだ。」


「あ、そ。」


まっすぐリリスと仲良しだと褒められて思わず頬が熱くなる。


「ふふ。『風のナガレ』として多くを識ったつもりで居たが、まだ見ぬ風がこれから吹くのだと思うと、心が踊る。」


彼はそういうと、肌で感じる風を思い切り吸い込むような仕草を全身で行い、とても満足気にしている。


「それは良かったわ。」


「頼んだぞ、セレナ、リリス。」


「ええ。」

「あぇ!? あ、あの……は、はい!」


「あなたも、色々大変だろうけど。頑張ってね、クロイヌ。」


「なに。出来ることをするだけだ。気楽なものよ。そうであろう?」


満足げな笑顔のまま、彼はそういった。


「ええ、そうね。お互い、やり残しのないように。」


私は笑顔で返した。


「うむ。」


落ち着いた声で返事をするクロイヌ。

気づけば先ほど狼狽えていた周りの鳥人族も、色々と理解したようだ。


リリスに対する敵意や不信感のようなものは一切感じられなかった。



「さて、じゃ、そろそろ行くわね。昼食ありがと。」

「お、お世話になりました。ご飯美味しかったです。」


私とリリスはそろって一礼をする。


「こちらこそ。良き出会いを果たせた。」


彼の深々とした礼に合わせ、同行した鳥人族達もまた、最敬礼にて私たちを送り出す。


「じゃ、またね。」

「失礼します!」


「猛々しい光と、温かな闇に。精霊神の良き風の導きがあらんことを。」


クロイヌは最敬礼のままの姿勢で私たちを送った。




鳥人族居住区、来た道をそのまま引き返す。

今度は姿を偽らず、聖女セレナと従者リリィとして。


事情を知らない鳥人族の住人達が、相変わらず警戒の目を向けてくる。


だが、不思議とその視線は前ほど気になるものではなかった。

それに、どうせ指環の効果ですぐに意識から外れてしまう。




そんなことより、隣を歩く相棒に視線を向ける。


疲労困憊といった具合のリリスが、ふらふらと隣を歩いてる。


『大丈夫?リリス。』


『セレナ……私、想像してたよりずっと別の方向性でぐったりです。』


『最後に畳み掛けられたわね。』


『風の精霊様のことがちょっと怖くなりそうです。』


『あら、きっと貴女のことが大好きよ。』


『うう……事前告知くらいしてほしいです。あんなにいっぱいの人の前でバラされた時、心臓が本当に止まるかと思いました。』


『凄い心音だったわね。でも、割りとすぐに落ち着いてたじゃない。』


『……だってセレナが慌ててる様子がないことに気付いたんだもん。そしたらさすがの私でも色々と察するよ。』


『よく見てるわね。』


『それでも本当に疲れました……部屋に戻ったら一眠りしたいです……。』


『そうね、賛成。せっかくだから私も。』


『やたっ!一緒に寝てくれるんですか!!』


『うん。夢見に連れてって。少し話しておきたいし。久々に二人で。』

『ボクは?』


『三人で……。』


『あ、ディダさん。やっぱ私にも話しかけられるんだ。』


『リリス、後でちょっとお説教だよ。』


『え。ななななんでですか?!ディダさん!』


『ヴァルの記憶を無理やり覗こうとしたでしょ。一度君の夢見についての認識をセレナと話し合うべきだ。』


『いいの?言っちゃって。』


『既に君たちは自分たちが何者かを知りつつある。良い頃合いさ。』


『……それもそうね。』


『あの、私、眠気と疲れがふっとんだようでして。』


『往生際。』

『ダメだよ。』


『うう……風の精霊様のバカぁ……。』



さっきとは少し違う足取りで歩くリリスの周りを、ふわりふわりとつむじ風がまとわりついている。


楽しそうに彼女の周りを流れていた風が、少しだけ申し訳なさそうにしていた。



ま、この子にとっては()()()()よ。

いつかはバラすことなんだから。


私はそんなことを考えながら、リリスと肩を並べて宿部屋への帰路についた。


二人の間に挟まれると死ぬ概念

この世界にもあるようです


何度目かは忘れたが再度注意喚起

挟まると死ぬぞ、気をつけて

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