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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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断章 「偽らざる愛」

誰も認めてくれなくてもいい

誰も理解してくれなくてもいい

陽の光と、風の流れと、水のせせらぎと、大地の静けさ、木々のざわめき

あの子がそれに触れられる日々を送ってくれるのなら


「あの子がそれで生きて往けるのなら。それでいい。」


私の想い。

6年前の記憶。


嬉しかったのに。

怒りで気が狂いそうになった。

悲しみに明け暮れた。

これからの楽しい時間が全て失われたと思った。


色んな感情がごちゃまぜになって正気を失いそうになった。



どうして?


なぜ私の子がこんな目に?

私が戦士として不出来だったから?


私の人生は決して順風満帆で喜びに満ちたものではなかった、だけど私はめげないように頑張って努力した。


だからこそ今があると信じている。


ではなぜこんなことに??




――昔の私。


狩りが下手くそだった、風のマナも攻撃に使うのが下手くそで同期の仲間にからかわれたりした。それでも皆私を見捨てたりなんてしないで根気強く世話してくれた。

一人前の戦士になるまで覚悟しろよ、って。


氏族の仲間だけじゃない。別の師もいた、よく覚えてる。


狩りの名手『岸壁の狩人』の氏族の名士。

スレイ・オプス。


私に狩猟の極意を教えてくれた、大好きな人。

不出来な私に既に一線を退いた彼が、空いた時間につきっきりで教えてくれた日々。おかげで私は自分の足りないところを見つめ直すことができて、狩りの腕が上達して、仲間にも認められるようになった。


本当の家族のように大好きだった。

だから結婚が決まった時は両親の次に報告に行った。


凄く喜んでくれたのを覚えている。


子どもが外を飛べるようになったら、必ず見せに来てくれって言われて嬉しくて抱き付いたのを思い出す。



両親だってそうだ。


不出来な私をけっして叱ったりなどせず、見捨てずに根気よく面倒をみてくれた。だから私は時分の事があまり好きではなかったけど、両親の愛に応えるのに一生懸命になれた。


それは当たり前の事だよって、母に優しい瞳で伝えられた時に嬉しさと共に身震いするほどの覚悟が漲った。


だって、私も何れ誰かを愛し、子を産み、母となって、この愛を伝えなくてはならないのだから。


不出来だった私をここまで育ててくれた愛に応えなきゃって。


身が引き締まる思いだった。



やがて、氏族の仲間の一人と恋をして夫婦になり、子宝に恵まれた。


膨れるお腹を愛おしく労わる日々、これから訪れる喜びと苦労と理不尽と楽しみに満ちた未来に想いを馳せながら自分の胎を撫でた。


どきどきして不安だったけど、何より嬉しかった。





それなのに、あの日は訪れた。



夜。大きくなったお腹を労わるように、寝床に横たわって寝ていた時に声がした。


声ではない。頭の中に響くイメージだ。


『大いなる母よ、私の願いをきいておくれ。』と。


すぐに理解した。

風の精霊が『風の便り』を私に依頼しにきたのだ。

戦士階級で、しかも今は身重の私に『風読み』として空を飛べと?


びっくりした。


でも大事な役目だって聞いてたから、何とか頑張ろうって思った。


そう思った時、精霊の安堵と重苦しい覚悟と共に頭の中にイメージが広がった。便りの中身と言葉が頭の中に染み入って私の脳内で形を成し、意味を理解した。



思考が停まった。

言ってる意味が判らなくて。

伝えられた意図も解らなくて。

これによって誰が何を得るのだと。


答えが出ない疑問が頭を支配した。



精霊は嘘をつかない。



では()()便()()()()なんだ?

()()()()()()()()()()なんだ??


理解できない。


だって。

その内容は。


『お前の子をどうか()()()()()おくれ。』


だった。



意味がわからない。


『お前がその子を愛し、その子を大事に育てれば、その子は“定め”に抗えない。必ず訪れる“定めの時”その子は試練に耐え切れず死んでしまう。』


どうしてそんなことがこの子に。


『突き放し、孤独に晒し、理不尽に塗れさせながら、それでも理由を話さずに育てておくれ。真実を知らされず、知らせることができない程の拒絶が必要なのだ。』


どうしてそんなことをこの子に。


『お前はこの事を誰にも話せない。話せば“風読み”の理から外れて因果が狂う。お前とお前の仲間は“風の民”としての加護を失う。』


どうして私たちがそんな目に。


『だが理解してくれる者が必ずいる。力と知恵と流れを愛した彼の者を頼りなさい。だがその者にも“風読み”として真実は伝えられない。伝えてはいけない。』


どうして私にこんなことを。


『お前だからだ。お前である必要があるからだ。拙さの痛みを知るお前だからこそ、我が子を愛さずに、その“定めの時”までにしっかりとその子を育てることができるのだ。』


どうして私がこんなことに。


『そう定めた者がいるからだ。我々ではない。神でも悪魔でもない、そうあるべきと定めた者によって世界は形を得る。その“定めの時”にお前の子が必要なのだ。』


どうして……私の子を。


『世界がお前の子を認めたからだ。』


世界が認めた?


そんなことの為に私はこの子を愛してあげられないの?



なんて酷い。


『しかし、想いが成ればこの子は生きる。お前が愛さなければこの子は“定め”に抗う強さを得る。お前の真なる愛がこの子を生かすのだ。生きて再びお前と過ごせる。』


その為に、私はこの子を一番愛してあげなければならないときに愛してあげられないの?


『どうかお前の子への愛を我々に貸して欲しい。』



愛を貸せ??




怒りで頭が真っ白になった。

身体は動かないのに心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動を打ち鳴らす。

血流が乱れ、呼吸が荒れる。

背中が脂汗で張り付く。


何もできないのに、何かをしなければと頭と体が離れてしまう。



だめだ、やめなきゃ。

こんなことをしたらお腹にいるこの子に。

落ち着かなきゃ。



何が一番大事かを考えなきゃ。



私はこの子を愛してあげるんだ、ちゃんと産んで、育てて、愛を教えてあげるんだ。


それまで死なせたりなんかしちゃだめだ。


死の定めから守らなきゃ。



精霊は嘘をつかないから、本当にそうなるんだ。


だったら。


私は、この子を生かして守るために。


愛を未来に伝えるために。




この子を愛してはだめだ。




『大いなる母よ。お前の深い愛に感謝する。』



この子を死なせてはだめだ。



『せめて、その子が空を舞い、飛び立つ強さを得るまでは、お前の元においてあげておくれ。愛をつたえずに育てておくれ。』



この子に縋ってはだめだ。



『私たちもお前の深い愛に応えるべく、この子を愛する。世界の為に強く育てる。お前が直接愛せなくても、誰かがこの子を愛する。そうして生きて帰るまで、お前の愛をしまっておいておくれ。』



今は、この子を、愛せない。



鼓動が落ち着く。

冷たい思考が頭を支配する。

呼吸が細く静かになり、熱を失う。



『ひとときの間、今はただお前の深い愛に感謝する。』



いつしか私の身体は冷たくなり、血は熱く体をめぐる。



私は

この子を

死なせたりなんかしない。



『まずは力と知恵と流れを愛した者を頼りなさい。けっしてこれ忘れぬよう。“定めの時”を超えるその日まで、お前の愛の深さに感謝する。』



絶対に。



()()()()()






――あの奇妙なエルフは、誰だったのだろう……。



ずっと私に、目で必死に訴えかけてきていた。


「貴女を救いたいんだ」って。


でもそれは無理なのだ、話せば一族が死ぬ。

何よりきっとあの子が死んでしまう。


そんな事は耐えられない。


でも私は決して諦めたりしない。


たとえ一人で生きることになろうと、必ずあの子に再び伝えるんだ。



「生まれてきてくれてありがとう、愛してるよ。」




って。


ただ生きて、征きなさい。


それだけが私の望み。

その先に、もし……許されるのなら。

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