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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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第十一幕 「狩猟技術」

生きるために知恵と技術を身につける

誰だってやっていること

だから知恵も技術も身につけられなきゃ死んじゃうんだ

それが無いのに生きなきゃいけない


「それは、ある種の残酷さ。でも生きたいなら足掻きなさい。」


狩猟という行為において、最上のテクニックを持つ者を誰かと問われれば。

それは当然ながら野生動物たちに他ならない。


彼らは日常的に自己の生存を賭けて、食うか食われるかの日々を過ごしているのだ。油断をすることの無い相手の隙を伺い、かつ自分の安全も確保するために油断することなく相手を喰らう、しかしながら時に食われつつ……弱肉強食の世界で常に自身と他者の生存競争に明け暮れている。


我々人族たちは狩猟道具や罠を作り出す知能、狩猟対象の習性を学習、あるいは言語を介した連携によって野生動物を上回る存在となっているだけだ。


生身一つで野生動物との生存競争に勝てる人族などそうはいないだろう。



じゃぁ獣人族達はどうだろう?

野生動物の因子を持ち、明らかに人族と異なる性質の身体を持つ獣人族。


その骨格は多くは似通う所があるが細かな所で違いがあるし、筋肉は驚異的な瞬発力に特化しつつも繊細な動きを可能とする。当然ながら嗅覚や聴覚は人族と比較にならない程に秀でており、種によっては視力の質すら違っていて高い視力や夜目が効く獣人も存在する。


そんな身体能力において人族を凌駕する亜人種たちは、野生動物にはない道具を扱う器用さと、言語による学習とハンドサインなどによる意思疎通を含む高度な連携、そして人間同様の高い持久力を獲得している。


武器、防具を持たない魔術もない状態において、野生動物以上に驚異的な存在足りえる生物、それが亜人種だ。


それが潜在的恐怖心となって根強い亜人排斥心理が働くのも無理はない。


まぁその亜人排斥の時代は既に過ぎ去った古い歴史。

今は文化的交流や相互理解が進み、ありとあらゆる場において亜人の特性を生かした社会的活躍が認められている。



つまり、何が言いたいのかというと。


『猫人族の狩猟技術はヤバいわね。』


『なんとも見事なお手並みです。』


私はリリスと『対の指環』を介した思念会話で邪魔をしないように配慮しつつ、さらに隠匿機能を使用した状態でシャル達の狩猟を見学していた。


彼女たちの狩猟スタイルは連携による追い込み。

ティガが嗅覚で対象を発見し追跡、シャルが地形と状況を読みつつ的確な狩猟対象を選別し視線や身振り手振りで意思疎通、ミアが素早い動きで立体的に対象を追いたててシャルが牽制、群れから分断しつつポイントに追い込んでゆく。


そしてティガが逃れようのないタイミングで急速接近、対象の急所を大型のナイフで的確に捉える。


高い嗅覚と聴覚による捜索と追跡。超感覚を並行して用いて狩猟対象の状態を確認しつつ、常に風下から対象を狙う。

普段からしっかりとした役割分担が決められているのであろう練達の動きにより、もはや一つの生き物のように高度な連携をしつつ、その身体能力を十全に活かした迅速な決着。


一連の流れに美しさすら感じる。



私たちが狩場付近に移動してからものの10分程で、鹿を一頭いともたやすく仕留めてしまった。

立派な角の形状からして3~4歳の成熟した雄鹿だ。


繁殖期真っ最中の縄張り争いとメスのハートの射止めあいに忙しい雄鹿は、一流の狩人によって成す術もなく狩られてしまったというわけだ。


実に弱肉強食だ。



「弓もいらず刃物一本で仕留めるとはさすが獣人族。鮮やかな腕前ね。」


姿を現し、姉妹に近づきながら私は素直な感想を述べる。


血抜きの為に枝にロープで吊るされているアシアカシカの横で、これまた慣れた手つきで搬送準備をしている姉妹たち。


ミアとシャルが協力して、丈夫な木の枝から棒を削り出している。


「運搬のお手伝いに来ましたよー。それにしても立派なオスですねぇ。」


「おう。あんがと。重い物は苦手だから助かるよ。」

得物の手入れをしながらティガが応える。

彼女が手に持っている肉厚で片刃の大型のナイフは、突き払いどちらも出来る独特の反りを持った形状だ。


「確かにこれは重そうね。200kgはありそう。内臓も調理するなら香草が幾つか手持ちに有るわよ。」


「あら、それは助かります。ルーカスの馬車もありますし、保存も冷凍魔導具も使わせていただいて。しっかり余すところなくありがたく活用いたしましょうね。」


「でも姉たん。洗浄はどーするのャー?ここら辺、水場が無さそうだがャー。」


「私たちの魔導具で水もお湯も用意できるわ。血抜きだけ済ませて野営場所近くで解体しましょ。」


「おー、便利なモンもってんだね。ありがてー。」

ティガはそう言いながらナイフを鞘にしまい、上空を見上げた。

そしてフンと鼻息一つ鳴らしながら視線をとある一点へと突き刺す。


「気付いてたのね。知り合いかと思ったけど、その様子だと違うのかしら。」

私はティガのそばに歩み寄ると同じく上空を見上げる。


彼女の表情はどちらかというと警戒寄りの、相手を見定める眼差し。


「うんにゃ。鳥人族に知り合いは居ない。少し前から気付いていたけど、最初は大型の猛禽類かなと思ってたんだがな。シカを仕留めたあたりから高度下げてきて違ってたことに気付いたんでね、ちょっと警戒してる。」


「ミァたちのこと、狩りの間ずっと空から見てたがャ。」

「まぁ、横取りする様子もないですし、平気かなとは思ってるんですけども。」

ミァとシャルも存在には気付いていたようだ。



何が起きているのかというと。

狩りの為に別れた時から、私たちの上空を旋回している奴がいるのだ。


そしてそれはティガの言う通り、亜人種獣人族の一種『鳥人族』と呼ばれている空の民だ。背に生えた大きな翼で風を捉えて、優雅に滑空するその姿は亜人種の中でも格別の存在として名を馳せている。



空を飛ぶ獣人族ということで、我々人族に比べると身体的にも文化的にも、かなり異なる点が多い。

もちろん最大の特徴は飛べることだろう。そして鳥人族は衣服を纏うことを嫌う。飛ぶのに邪魔になることもそうだろうが、生活が飛行と直結するために衣服をまとい体を濡らしたまま飛行すること自体が生命の危険へと繋がりかねないのだ。そのため体毛が羽に変化していて、総じて寒さにも強い種族として有名。その羽毛も元の鳥の因子を発現していて様々な美しい模様を描いており、見目麗しい鳥人族が多く居る。体格は比較的細身で矮躯な者が多い。まぁ空を飛ぶのだから身体が重いのは問題。


しかしその筋肉の質は強靭かつ高品質であり、握力や瞬発力はなかなか凄いのも有名な特徴だ。


総じて風のマナの資質を有しており、その特殊な構造の身体と高度な風魔術を併用し、空の支配者として今もなお軽視できない勢力として畏怖されている。


時折飛べない鳥人種も見かけるが。かわりに走力にやたらと長けていたり、水中を飛ぶように泳ぐ種族など様々だ。


陸棲獣人族より謎の多い亜人種でもある。



私は『理力』を行使して自身の視力を強化し、望遠モードにてはるか上空を飛び続ける対象の姿を捉える。


白い頭髪に焦げ茶の羽毛、大きな翼も白と濃い茶色のグラデーションが美しい羽が並び勇壮なことこの上ない。

四肢には黄色の鱗が並び、鋭い鉤爪も見える。


金色のまあるい瞳がじっとこちらを見ているが……なんかアレは、監視というより、羨望の眼差しというか……モノ欲し気な瞳に見える。


その勇壮な姿と、何かを訴える様な哀れな表情のギャップが面白い。


んで。たぶん、女性。身体のラインがなんとなく。

羽毛で胸やら腰やらがもこもこしててわかりづらい。



「あれはたしか……『ハクトウ』の民ね。なんかすんごい羨ましそうな顔でこっち見てるわ。何の用かしら……?」


「えー……セレナはあの高度の対象が見えるのかよ……視力もすげぇな。ていうか羨ましそうってなんだよ。」


「しらないわよ。凄いモノ欲し気な顔してんのよ。あっ……」


『理力』で強化していた私の聴力に、聞きなれない腹の虫の音が届く。

なるほど。くだんの鳥人族はやたらと腹が減っているご様子だ。



「セレャ、変な声あげてどーかしたんかャ。これから何がおきるんかャ?」

「ふふふ。面白い未来が見えました。」

展開が読めなくて警戒気味なミアと、すでに先が『見えた』シャルの反応が対照的だ。


「まあ……シャルの『先見の瞳』で悪い物が見えてないなら安心かしらね。」


「なぁ何が見えるんだよ。つうかシャル姉も何が見えたんだよ。二人して意味深な反応してないで教えてくれよ。なんだかむず痒いぜ。」


「私は見えたんじゃなくて『聞こえた』だけよ。」

「ティガ、私が見たのは平和な食事風景だけですよ。」


「だからー、意味深でわかんねーってば。さすがにこの高さと風じゃぁ音も匂いもわかんねーんだよ、こっちは。」

望んだ答えが返ってこないことで不満げなティガ。


「とにもかくにも。こちらを気にしているのであれば呼んでみては?私も鳥人族の方との交流は経験がないので、是非お近づきになりたいものです。」


そんなティガとは別の方向で興味津々なリリスは、その人懐っこさを如何なく発揮した提案をしてきた。


「そーね。ちょっと呼んでみましょうか。」


私はリリスの提案を採用し、コミュニケーションを試みることにした。



彼女の目を見ながら大きく手を振る。


彼女が驚いた顔をして私に目線を合わせてきたので、気付いたものと判断し。お腹をさするように撫でた後、手招きして、野営場所の方を指さす。


「何それ。なんかのハンドサイン?」

ティガが訝し気な顔をしながら私と上空の鳥人族を交互に見る。


「はてさて、通じるかしらね?とりあえず血抜きが終わったのならシカをキャンプ地に運ばなきゃ。リリス、私と二人で運びましょ。後ろお願い。」


「はーい。」


シャルがいつのまにか削り出した棒にシカの四肢を結びつけ終わったのに気が付いた私は、とりあえず運搬を済ませることを提案した。


立派な雄鹿を吊るした棒の両端を、二人でそれぞれ担ぎ上げる。


200kgはあろう重量物が、『理力』によって強化された華奢な私の筋力と、魔族であるリリスの女性らしい細腕で「ひょい」と軽々持ち上がる。


「すげー光景だャ。二人ともぜんぜん重そうに見えないのャー……。」

感心するやら驚くやらのミアの反応が可愛らしい。


「実際、私にとっちゃ大して重くもないわね。リリスは平気?」

「はい。これくらいへっちゃらです。」


どうやら問題なさそうだ。


「頼もしい限りで何よりです。では、戻りましょうか。」

ニコニコ笑顔のシャルは薪に使うであろう枝をロープでまとめた束を担ぐと先頭を歩き始める。


「んじゃ、一応殿はあたしだな。セレナとリリスは先行ってくれ。」

「ミァは横を警戒するがャー。」


普段からの旅で慣れているのであろう警戒陣形の中央に私とリリスを据え、一団は野営場所へと移動し始めた。


どうやら、上空の鳥人族も大きく旋回しながら私たちに付いてくるようだ。



私は新たな出会いの予感に、ひそかに心躍らせる。

今度は何が起きるのかな。と。



狩猟を体験したことがあります


あれはガチで大変

マジで重いんだ

内蔵抜いても何十kgあるんですよ

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