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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅵ.僕と美少女モンスターの人助け
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一、補習とデートとビル火災4

「ハピ、一人は僕が連れていくよ」

「絆、帰り道はもう火の海だ。空を行くしかない」

「じゃあ、待っている。二人だけ先に連れていって」

 僕は女の子二人を、ハピの方へ押しやると、しゃがみこんで男の子をぎゅっと抱いた。

「いいか? 女の子が先だぞ。それまでお兄ちゃんと待っていよう。できるかい?」

 男の子は黙ってうなずいた。

「ハピ、頼む」

「分かった。直ぐ戻るからな、絆」

 ハピは、羽ばたいて宙に浮くと、女の子二人を傷付けないように慎重に両足の鉤爪でつかんだ。

 ハピは煙に紛れて窓から飛び出した。

 おそらく下にいる人々からはハピの姿は見えなかったろう。

 ハピが飛び立った後、ますます火の勢いが激しくなった。

 ガラスの割れる音や、物が倒れる音が室内に響く。

 煙もものすごく、周りがよく見えない。

 僕は男の子の口元にハンカチを当てた。

 煙が目にしみて、目を開けていられない。

 息が苦しい。

 でも、幼いこの男の子の方がもっと苦しいはずだ。

 バキっと音がして、火のついた棚が倒れてきた。

 僕は男の子をかばい、背中で棚を受け止めた。

 熱さと痛みが僕の背中に走った。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 咳き込みながら男の子が僕の身を案じてくれる。

「だ……、大丈夫」

 僕はやせ我慢の笑顔を男に向けた。

 実際は大丈夫じゃない。

 確実に背中は火傷しただろうし、もしかしたら骨も折れたかもしれない。

 あまりの痛み、苦しさに気を失いそうだ。

 ハ……、ハピ……、早く来てくれ……。

 その時、窓から飛び込んできた者がいた。

「ハピ!?」

 僕は思わず叫んだが――

 その姿は、ゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、キツい目つきをした黒髪のツインテール。

 背中にはコウモリのような大きな黒い翼を生やしていた。

「血祭冴?」

 冴は無言で僕に近づくと、片手に長い五本の爪を生やし、構えた。

 ここで、僕の命を奪う気か?

 い、いや、僕はいい。

 マミー(ミイラ女)の母さんから受け継いだ不死能力があるから。

 けど、この子は……。

 今僕が動けなくなったら、この子の命が危うくなってしまう。

 冴は爪を振るった。

 僕は目を閉じた。

「……」

 僕はそうっと目を開けた。

 冴は僕を攻撃したのではなかった。

 冴がその鋭い爪を振るった対象は、僕ではなく、僕に覆いかぶさっていた棚だったのだ。

 棚はいくつかの欠片に切り分けられ、僕の背中から床に落ちた。

「血祭さん、どうして……」

「立て、掛橋絆」

 冴に言われて立ち上がろうとしたけど、背中に激痛が走り、僕は立てなかった。

「血祭さん、僕はいい。この子を……、この子を頼む」

 僕が押し出した男の子を、冴は黙って両手で抱きかかえた。

「掛橋絆、おまえは私の体にしがみつけ」

「だ、ダメだ……、力が入らない」

「く……」

「僕は不死だからいい……、それよりその子を……」

 冴は男の子を片手抱きすると、もう片方の手で強引に僕を抱え、立たせた。

「どうするんだ?」

「二人とも抱えて飛ぶ」

「無理だ。僕が身動きできないから、完全にお荷物になってしまう。その子だけなら飛べるだろ」

「うるさい、黙っていろ。このままビルが崩れたらおまえは生き埋めだ。死なないにしても掘り出すのに時間がかかる」

 冴は、背中のコウモリの翼を羽ばたかせた。

 冴が飛翔しようとしたその時、何かが爆発した。

 爆風で三人とも吹き飛ばされた。

 僕と男の子を抱えていなかったら、冴はおそらくかわしていたのだろう。

 二人がいたために、冴もうまく動けなかったのだ。

 壁に叩きつけられた。

 ところがその時、冴がコウモリの両翼を広げ、クッションのようにして僕と男の子が壁に直接激突するのをふせいでくれた。

「ち、血祭さん、大丈夫?」

 冴が頭から血を流していた。

「ふん。どうということはない」

 冴は再び男の子を抱き上げ、ついで僕をかかえ上げようとした。

 そのとき、もう一人の助けが来てくれた。

「絆ーー、どこだーー?」

 ハピだった。

「ここだよ、ハピ!」

 ハピは直ぐに煙の中から姿を現した。

「あ、血祭冴! おまえどうして?」

「ふん、話は後だ。おまえは掛橋を連れていけ。私はこの子を連れていく」

「絆、その怪我は……?」

 僕の背中がひどい火傷と出血なのにハピが驚いた。

「大丈夫だから……、ハピ、たのむ」

 ハピは両足の鉤爪で僕の胸と腰をつかんだ。

「よーし、行くぞ!」

 ハピと冴は僕と男の子をかかえると、それぞれの翼を広げ、煙に紛れて外に飛び出した。


「本当にありがとうございました、なんとお礼を言っていいか……」

 病室。

 ベッドで上半身を起こている僕に対し、三人の母親が何回も頭を下げた。

 火事から助けた子どもたちのお母さんだ。

「いいんですよ、無事で良かったです」

 母親たち子どもたちが病室を出て行くと、病室には僕、それから見舞いに来てくれているケイ、マナ、ハピの四人になった。

「絆君、いくら不死でも無茶はしないで」

「そうよ絆ちゃん。死ななくたって、痛みや苦しみは感じるわけでしょう。絆ちゃんがつらい思いをしたかとおもうと、あたしまでつらくなっちゃうわ」

「ごめんな絆、ボクがついていながら……」

「ハピは何も悪くない。あの子たちを助けようと言い出したのは僕なんだし、ハピのおかげでみんな助かったんだから……、あと、血祭冴と……」

 そうなのだ。

 あの時、冴が来てくれなかったら、不死の僕はともかくあの男の子は危なかったはずだ。

 冴にも直接お礼を言わないとな……。

 ドアがノックされた。

「はあい? どうぞ」

 マナがドアを開けに行った。

「あ……」

 ドアの外に立っていたのは、なんと血祭冴だった。

「おまえ、どうして……」

 マナには答えず、冴は黙って入ってきた。

「あ、ち、血祭さん、どうして」

「病院に来たら、普通は見舞いだろう」

 冴は抱えていた小さな花の包みを僕に差出した。

「あ、ありがと……」

「絆君、私が活ける」

 ケイが僕から花を受け取った。

「血祭さん、頭の怪我は大丈夫だった?」

「ふん、心配は及ばない。そこのケンタウロス女の蹴りで折られた私の腕が直ぐ回復したのは覚えているだろう」

「あ……、そ、そうだったよね……」

「血祭冴」

 ハピが冴に声をかけた。

「なんだ?」

「このあいだはありがとう。ボクからもお礼を言っておくよ」

「それには及ばんな。おまえと掛橋絆には借りがあったから、それを返しただけだ」

「え、借り? なになに、借りってなんのこと?」

 マナが首をつっこむ。

 例によってマナを無視して冴が続けた。

「どうやら、それなりに回復しているようだな」

「おかげさまで」

「さっさと学校に来い。待ってるぞ」

「え? そ、そうなの?」

「ふん。勘違いするな。おまえを倒すのは私だからな。私の目的であるおまえがいないと、私が人間界にいる意味が無い」

「おまえ、まだ絆君の命を」

 ケイが身構えようとしたが。

「静かにしないかケンタウロス。ここは病院だろう」

「うう……」

 冴にまっとうなことを言われて、ケイは返す言葉がなくなってしまったようだった。

「では私は帰る」

 血祭冴はくるっと背を向けてドアに向かって歩き出した。

「――お大事にな」

と小さな声で聞こえたような気もしたのだけれど、気のせいだったのかもしれない。

「やれやれ。絆、せっかくのデートがいろいろあって台無しになっちゃったな。傷が治ったら、もう一回デートのやり直しをしよう」

「ちょっとハピ、抜け駆けは無しにしてよね」

「そうよそうよ。絆ちゃんは今度は私とお出かけするのよ」

「ケイとマナは補習と追試がまだ残っているだろ」

「絆君の怪我が治る頃には終わっているわ」

「いやあ、不死の絆なら、普通の人の何倍も治りが早いから、絆の回復の方が先だと思うぞ」

「そんなことないもん。絆ちゃんの傷はそう簡単に治らないんだから!」

 おいおいマナ。

 それじゃまるで僕に、怪我が治ってほしくないみたいじゃないか。

 僕は自分の体を見た。

 包帯でぐるぐる巻きだ。

 なんだか、母さんみたい。

 怪我をしたのは大変だったけれど、なんだか母さんに近づけたような気がして、僕はちょっとだけ嬉しいような複雑な気持ちなのであった。

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