一、補習とデートとビル火災2
放課後。
僕は補習の教室を見に行った。
何人かの生徒が補習授業を受けている。
中には、ケイとマナと……、あれ?
よくよく見ると、普見蘭と大神浪子も座っている。
なーんだ、あの二人も補習だったのか。
人間界に来て早々に高得点を取っている、冴とハピの方が特別なんだな。
「絆、行こう」
ハピが来た。
補習を受ける生徒たちの気が散るということで、友達を廊下で待つことは禁じられている。
「ケイもマナも頑張って……」
僕は心の中で二人にエールを送り、ハピと一緒に校門を出た。
帰りにどこかへ行くと行っても、中学生が制服姿で寄り道するわけにはいかない。
僕らはいったん帰宅して、私服に着替えてから出かけることにした。
「ねー、絆、どこへ行くんだ?」
「どこって、そうだなあ……」
「ねーねー、ボク、こういうのやってみたいよ」
ハピは、雑誌の切抜きをポケットから出した。
女の子向けの情報誌『もちれもん』のページと思われる。
マナがよく読んでいるんだけれど、もしかして、ハピったらマナの雑誌勝手に切り抜いてきちゃたのかな?
そこには、男女が向かい合って一つのグラスから二本のストローでジュースを飲むイラストが描かれていた。
「こ、こ、こ、これは……」
「なー、いいだろう、これ」
「し、しかし……」
「何か問題でも?」
「いやあ……、話に聞いたことはあるけど、実際にこういうのやっているカップルっているのかな」
「えー、いいじゃんか。人は人、モンスターはモンスター」
「いや、しかし、うーむ……」
ファーストフード店かファミレスに入って、これをハピとやったとして……。
こんなところを誰かに見られたら、たちまち学校中のうわさのまとになって、僕は学校に行けなくなる気がする。
そうじゃなくたって、すらっとしたスタイルで金髪に青い瞳のハピは一緒にいて目立つから、これやったら見ず知らずの人たちからもじろじろ見られるんだろうなあ……。
「ねえ、絆」
「……」
「絆ってば」
「え? ――あ、はい」
「あれ、見てよ」
ハピが示した方を見ると……。
女の子が一人、三人のガラの悪い男に絡まれていた。
ナンパして断られたものの、男たちがしつこくまとわりついているらしい。
黒髪のツインテールに、キツい目つき。
全体的に黒っぽいゴスロリの私服……。
「血祭冴だ」
「人間の男たちに囲まれているよ」
僕たちはちょっと離れたところから様子をうかがった。
「よー、姉ちゃん。もうちょっと断り方があるってもんだろうが」
ニキビ面の男が冴の腕をつかんだ。
「うるさい。お前らなどに興味が無いから無いと言ったのだ。これ以上私にかかわるな。ゲスが」
冴が強引にその腕を振りほどく。
「元気がいーなー、ええ? 俺たちがその気になれば強引に連れてっちゃうことだってできるんだぜ」
反対側から、今時どうなのその髪型というリーゼント頭の男が、覆いかぶさるように冴の肩に腕を回した。
「ち、離れろ! 汚らわしい」
冴がリーゼントを突き飛ばす。
「いやあ、全く元気がいい。嫌いじゃないぜ、こういうの」
耳にジャラジャラとピアスを付けた男が下卑た笑いを浮かべた。
あんなにピアスぶら下げてたら、耳たぶが千切れちゃうんじゃないかと僕なんか思ってしまうのだが。
ピアスが冴の顔の間近に、ぐっと自分の顔を近づける。
冴が一歩さがった。
ピアスに気圧されたというより、不快だから距離を取ったという感じだ。
モンスターの冴が本気を出せば、もちろん三人の命は瞬時に絶たれることだろう。
だが、こんな街中でそんなことをやらかしたら大騒ぎだ。
冴もそうするわけにはいかないから、ここは人間の女子中学生としてこの場を切り抜けなければならない。
周りの通行人たちは、みな見てみぬ振りをして通り過ぎている。
正直、知らない子だったら、僕もそうしていただろう。
けど、クラスメイト(僕の命をねらうモンスターなんだけど)の女の子がガラの悪い男どもに囲まれているのを、黙って見過ごしていいものかどうか。
――と、心は逡巡しながらも、足は冴の方に向かってどんどん歩き出していた。
「や、やあ、血祭さん」
ガラの悪い男どもに囲まれている女の子に「やあ」もないもんだが、他に言い方が思いつかなかったので、僕はそう声をかけた。
「掛橋絆……」
冴がつぶやいた。
「ん、なんだオメエ」
「カノジョはよオ、今、俺たちと遊びに行く相談してたところなんだよ」
左右両側からニキビとリーゼントが僕に迫ってきた。
何だか、妙なコロンの匂いがキツい。
「そ、その……、僕……、その子と実は待ち合わせ中で……、これから出かけるところなんだけど……」
「ああん? なんだあ、聞こえないなあ?」
さっき冴の眼前に顔を近づけたピアスが、今度は僕の至近距離まで顔を近づけてきた。
耳だけじゃなかった。
日焼けした鼻だの唇だの目の下だの、顔中ピアスだらけだ。
僕も思わず一歩下がった。
情けないけど、冴と違って、明らかに迫力に負けて下がってしまったのだ。
「よお、ねえちゃん、あんた、ほんとにコイツと知り合い?」
ニキビが冴に振り返った。
「――そうだ。一緒に出かける約束をしていた」
冴が僕の話に合わせてきた。
「じゃあ、その約束はキャンセルな。そういうわけで、痛い目見ない内にとっとと行きな」
リーゼントがドンと僕の肩を押した。
押されて僕は後ろへ二、三歩よろめいた。
その肩を両側から支えられた。
振り向くと、ハピだった。
「お、なんだあ? こっちにも可愛いおねーちゃんいるじゃないの」
「なんだボウズ? ガキのくせに二股かけてんのか」
ニキビとリーゼントが、今度はハピの両脇に来た。
「よお、ねーちゃん、どうだ? 俺たちと……」
ニキビが喋り始めると、ハピは大きく息を吸った。
そして――




