二、なあたんと美幼女モンスター、兄ハーピーに妹マーメイド6
僕らは、校内を歩き回り始めた。
高校生の制服は、僕にもマナにも少し大きかった。
もっとも、胸のあたりだけはマナはきつそうだったけど……。
「ララ、ここから来たの?」
歩きながらララにたずねる。
「うん、ゆうたんと」
「ゆうたんね……。マナ、ララの言うゆうたんて誰だろう? ララのお兄さんかお姉さんかな?」
「う~ん、そして多分高校生で……、この学校の生徒なのかもね」
マナも同様の考えのようだ。
いくらこの高校の制服を着ているとはいえ、五歳の女の子を連れて廊下を歩いている僕らは目立つようだ。
他の生徒たちがすれ違うたびに不思議そうに見てきた。
「ララ、どこに行くの?」
「う~ん、分かんない」
僕に問われてのララの答えがこれだった。
幼い子の記憶なんて、こんな風に不安定なものなのかもな。
昨日はどこに帰ればいいのか分からなかったララが、今日はちゃんとこの高校までの道を覚えていた。
まあ、昨日は車にはねられそになり、気が動転していたというのもあったのかもしれないけれど。
と、何か音楽が聞こえてきた。
エレキギターにドラムに……、どこかでバンド演奏でもされているのだろうか。
すると、その音に反応したかのように、ララが僕とマナの手を放して走り出した。
「あ、ララ!」
「走っちゃダメよ、見えちゃう!」
ララは、昨日と同じように足元まですっぽりとおおわれたスカートをはいている。
けれど、走るとスカートの裾がめくれて、ちょこちょことせわしく動いている蛸の八本の足が見えてしまうのだ。
この学校の人間の高校生たちに気付かれたら大騒ぎになってしまうぞ。
でも、そんなことはまるでおかまいなしという感じにララは走った。
僕とマナが追いかける。
ララは、あの音楽の聞こえてくる場所を目指しているようだった。
やがて一つの教室の前でララは止まった。
音楽室だった。
僕とマナも直ぐに追いつき、扉の前に立った。
音楽室の中から聞こえていた演奏がやんだ。
話し声が聞こえてきた。
「あたし……、やっぱり捜しに行ってくるよ」
「待ちなよ。やみくもに捜したって見つけられるとは限らないよ」
「そうだよ。もし帰ってきたときに、あんたが居なかったらどうするのさ」
「それは……、そうだけど……」
この会話って……、ララの事を言っているんじゃないか?
ということは、この中にララの言うゆうたんがいる?
「マナ」
僕が隣を見ると、見られたマナも僕を見返し、うなずいた。
よし、じゃあ、扉を開けよう……と思ったら、
「ゆうたん!」
ララがもうガラッと勢いよく扉を開けてしまった。
わ、ララ、待ってよ!
まだ心の準備が……。
中には……、四人の女子高生がいた。
ギターの子とベースの子……、それにキーボードとドラム。
四人とも制服が違う。
この高校の制服を着ているのは、ドラムの前に座っている子なのだが……。
「ララ!」
ドラムの子が立ち上がった。
「ゆーーた~~ん!!
ララは、ドラムの席を立ってきた子に飛びつくと、突然泣き出した。
お姉ちゃんに会えて、いろいろ今までこらえていたものがあふれ出してきたのだろう。
良かった良かった……、と、言いたいところなのだけれど――なんと、状況があまり良くなさそうなのだ。
「絆ちゃん、このメンバーって……」
マナの言葉に僕もうなずく。
「ああ」
四人の内、二人の制服姿には見覚えがあった。
一人は、グレイのベストに緑のスカート。
スカートと同じ色のネクタイを締め、外側にハネている紫のロングヘアー。
もう一人は、深緑色の蝶ネクタイに同じ色のスカート。
銀色の髪に、長いまつ毛のぱっちりとした瞳、厚めの唇。
この二人は、ラミアのミアと、スライムのライムが、人間の姿になったものだ。
ということは後の二人は……、よくよく見れば、モンスターの姿しか見ていないから最初は気付かなかったけれど、その顔は、アラクネのクオンとスキュラのユラだった。
ララの言っていたゆうたんとは……、スキュラのユラだったのか。
ユラだからゆうたん。
どうりでララを見たとき、初めてなのにどこかで会った気がしたのは、ユラと面影が似ていたからだったのだ。




