二、なあたんと美幼女モンスター、兄ハーピーに妹マーメイド4
「君が、なっくんだったのか」
ラキが口を開いた。
「なっくん?」
「ああ、『きず“なくん”』だから、なっくんさ。さっきは驚かせてすまなかった。説明するけれど、ちょっと事情があってね。妹のハピが世話になってるな。よろしく」
ラキが右手をこちらに差し出した。
握手か。
ハピの兄さんなら、拒む理由は無い。
さっきのこともわけありということだし。
僕も右手を出した。
僕の右手首には母さんの包帯が巻かれたままだ。
ラキが、ちょっと手を引っ込めた。
「おっと、なっくん。さっきみたいに、その包帯で攻撃するのはやめてくれよ」
「しませんよ、そんなこと」
「はは、ちょっと言ってみただけさ」
ラキはぎゅっと僕の手を握ってきた。
「僕らハーピーはモンスターの姿の時は、腕が翼になっているからね。こういう握手の習慣は無いんだ。新鮮だな」
「はあ、そうですか」
ラキとの握手を終えると、カナが入れ替わるように僕の前に来た。
「絆様、マナ姉様の妹のカナです。姉がいつもお世話になっております」
カナも僕に右手を差し出した。
「あ、ああ、こちらこそ」
カナとも握手する。
妹だけれど、カナはマナより背が高い。
「絆ちゃん、今、なんか思ったでしょう?」
僕の心を見透かしたように、マナが僕の顔を覗き込んできた。
「え、い、いや、そんな『カナの方が大きいんだな』なんて思ってないよ――って、しまった!」
「あーー、やっぱりい」
「まあまあ、姉様」
カナがマナをなだめる。
こうして見ていると、本当にカナが姉でマナが妹みたいだ。
僕らはリビングでテーブルを囲んだ。
僕、ケイ、マナ、ハピ、ラキ、カナ、ララの六人だ。
ララはちょこんと僕の膝の上。
「――というわけでね、どうしたはずみか、僕らモンスターの世界と人間の世界が勝手にあちこちつながってしまった。そのため、人間世界に迷い込んでやってきてしまったモンスターが何人かいてね。それを連れ戻すという任務で僕とカナが派遣されてきたんだ」
ラキが説明した。
「ほとんどのモンスターは人間の世界に来たくて来たのではない者たちばかりだったので……、私たちが声をかければ直ぐにモンスターの世界に帰って行ったのです。私たちはなるべく騒ぎを起こさずに迷いモンスターたちを連れ戻すように指示を受けていました。さっきは絆様と争うと騒ぎになりそうだったので戦いを控えたのです」
そうだったのか。
「ララ、良かったじゃないか。ラキとカナと一緒に元の世界に帰れるんだぞ」
僕は膝の上のララに話しかけた。
ところがララは、僕の方に体を向けると、
「やーー」
と言って抱き付いてきた。
「どうしたんだよ、ララ?」
ララは答えない。
「ふむ。どうやらララは、なっくんのことが気に入ったようだな。と言うより、僕とカナが嫌われちゃったか」
「ララ、おうちへ帰りたいだろう?」
僕の問いかけに、ララはこっくりとうなずいた。
「ラキ、カナ。その、人間の世界とモンスターの世界を突然つなげてしまったというトンネルはどこにあるんだい?」
「なっくん。それを聞いて君がララをそこへ連れていってやろうというのかい」
「そうだけど……」
「残念だが、それは難しいかな」
「難しい? どうして」
「トンネルの場所は一定していない。ある場所に突然開いたかと思えば、次の瞬間には消えて、全く別の場所にできていたりするからなんだ」
「そうなのか……」
言われてみれば納得だ。
トンネルの場所が決まっているならば、人間の世界に迷い込んできたモンスターたちは、来たトンネルを戻ればいいだけのこと。
でも、来たトンネルが消えてしまったから、こんなララみたいな迷いモンスターが出てしまったのだろう。
「さっき、ラキとカナは、僕に『ララを渡せ』と言ったよね。どうする気だったの?」
「それはもちろん、モンスターの世界に連れて帰るつもりだったのさ。人間世界に迷い込んだモンスターのほとんどは僕らが導いてモンスターの世界に帰してやった。後は多分、その子だけだ」
ラキの言うことは間違いないだろう。
「でも……、モンスターの世界に帰った後はどうなるの? モンスターの世界って一口に言っても広いんでしょう? ララはちゃんと自分の家に帰れるの?」
「それは……」
ラキが言いよどんだ。
カナが言葉をつなぐ。
「絆様。残念ですが、絆様の推測は当たっています。人間世界で言う……、いわゆる警察みたいなところにその子を預ける事になりますね。保護者が現れるまで……」
「現れるまでって……、現れるの? っていうか、現れない可能性もあるの?」
「なっくん、一人の迷子の家族を全世界総がかりでいちいち捜すなんてことは、人間の世界でだってしないだろ? モンスターの世界も同じだ」
ラキの言葉はドライに聞こえたけれど、事実だろう。
でも、もし家族に会えなかったらララが可哀想だ。
家族に会えるかどうかも分からないのにモンスターの世界に帰してしまっていいものなのだろうか。
そんなら、いっそのことララをうちで引き取ったらどうだろう?
家族が現れるまで。
幸い、ララは僕に懐いてくれているし、モンスターの女の子のケイもマナもハピも一緒に暮らしているのだ。
あと一人ぐらい増えたって大した違いは無い。
「じゃあ、ラキ、カナ。ララをしばらく僕の家で預かるというのはまずいかな?」
「絆君、本気?」
ケイが僕の顔を見る。
「もう、四人で暮らすのも五人で暮らすのも一緒じゃない?」
なんだか自分の言葉ながらけっこう大雑把というかいい加減だな。
「だめかな? ケイ、マナ、ハピ」
「だめも何も……、ここは絆ちゃんのおうちだし……」
「ボクらは構わないよ。兄さんと……、カナはどうなの?」
マナは反対しなかった。
ハピも兄ラキにたずねてくれている。
ラキとカナは顔を見合わせた。
「まあ、その幼いスキュラなら人間に悪さもしないだろうし……、ボクは何も見なかったし、聞かなかったことにするよ」
「私も。姉様のお気持ちを尊重します」
やった。
ラキもカナも話が分かるじゃないか。
「ララ、おうちの人が見つかるまで、僕の所にいていいぞ?」
「ほんと? やたーー」
ララが、今日見せた中でいちばん嬉しそうな顔をしてくれた。




