二、なあたんと美幼女モンスター、兄ハーピーに妹マーメイド3
僕はほっとして膝をついた。
耳に詰めておいた包帯を取り除く。
「なあたん、へーき?」
ララが僕の顔を覗き込んだ。
「ああ、ララ。大丈夫だよ。――こわかった?」
ララはこっくりとうなずいた。
心細そうな瞳。
僕はララをぎゅっと抱きしめた。
「なあたん」
「大丈夫だよ、ララ。僕が守ってあげるから」
「なあたん」
「心配いらないから」
「あのね、なあたん」
「どうしたんだい、ララ?」
「ララね、おなかすいちゃったの」
「おなかすいちゃったの?」
僕はララを放すと、買い物袋を覗き込んだ。
買ってきたのは夕食の食材ばかりで、お菓子の類は買っていない。
父さん母さんから毎月送られてくる生活費をやりくりして暮らしているのだ。
無駄遣いはできないからな。
でも、何かララのおなかの足しにできるようなものはないか……?
にんじん。
ケイなら生でもバリバリいけるんだろうけどな……。
とうもろこし。
やっぱりハピなら生でもいけるかもしれないけど、さすがにララには無理だろう。
梅干し。
同じ海のモンスターである、スキュラなら、塩の香りの食べ物は好きかも知れない。
僕はララに「食べる?」と聞いてみたが、ララは興味を示さなかった。
ビニール袋入りのラッキョウを取り出した。
カレーライスの付け合せ用に買った物だ。
すると、ララがそのビニール袋に鼻先をくっ付けんばかりに顔を近づけた。
「いいにおい! おいしそう!!」
え?
ラッキョウが食べたいの?
それにしても、ビニール越しでもにおいが分かるなんて、さすが幼くともモンスター。
鼻がいいんだな。
「じゃあ、ララ、これ食べてみる?」
ララが嬉しそうにうなずいた。
少し歩くと公園があったので、僕らはそこのベンチに並んでかけた。
汁をこぼさないようにラッキョウのビニール袋を開けた。
「はい、あ~ん」
一粒つまんで、大きく開けたララの口の中に入れてやった。
「どう?」
「おいひい! もっと!」
リクエストに応えて、また一粒ララの口に入れてやる。
ララが早めに口を閉じて、僕の指まで口に含んでしまった。
僕の指までもぐもぐされてくすぐったい。
それにしても、蛸ってラッキョウが好きなのかな?
結局ララには十粒ラッキョウをあげた。
ララはもっと食べたそうだったけれど、とりあえずこれでおなかは落ち着いたようだった。
うちに帰ったら、もっと何か食べさせてあげよう。
「ただいまーー」
自宅に帰ると、ハピとマナが飛び出してきた。
「お帰り絆ーー」
「あのね、あのね、絆ちゃん、お客さんが来てるの!」
ハピもマナもなんだかテンションが高い。
「あれ、絆、その子は……?」
ハピが僕が手をつないでいるララに直ぐ気付いた。
マナも鼻をくんくんさせる。
「潮の香り……、絆ちゃん、まさかその子、海のモンスターなんじゃ?」
ハピもマナも直ぐに気付いた。
「やっぱり気付いた? 実はこの子……、スキュラなんだ。道路で車ではねられそうになったところを助けたんだけど、迷子らしくて……。人間の警察に届けるわけにもいかないし、ケイ、マナ、ハピたちなら何とかしてくれるんじゃないかと思って連れて帰ってきたんだけど……」
ハピとマナが顔を見合わせた。
「マナ、ひょっとして……?」
「ええ、二人が言っていたのは絆ちゃんたちのことだったのかも」
え、二人って……?
「「「あ!」」」
ハピとマナが言った“お客さん”はケイと共にリビングにいた。
一人は長い金髪を後ろで束ねた青い瞳の長身の青年。
もう一人はウェーブのかかった紫の髪に緑の瞳の少女。
そう。
さっき道端で遭遇した、あの美男美女の二人連れだ。
僕とその二人は同時に声を出していた。
ララは、僕の背後にさっと隠れた。
「あれ、絆君、二人と知り合い? ――ていうか、その子は?」
ケイが僕の様子に、矢継ぎ早に質問してきた。
「この子は……、この子はさっき知り合いになった迷子のモンスターだよ。スキュラのララって子なんだ。ケイこそ……、その二人と知り合いなの?」
ケイは、僕の背後のララを覗き込んだ。
「へえーー、じゃあ、この子が、さっきラキとカナが言っていた子か」
「ラキとカナ?」
「あ、ごめん。この二人のこと」
ケイは、男女二人を指し示した。
「あたしたちの兄妹なの」
マナとハピが後ろに来ていた。
「兄妹? マナとハピの?」
「うん、紹介するよ。僕の兄さんでラキ」
ハピが青年のかたわらに、
「私の妹でカナ」
カナが女の子のかたわらに立ち、それぞれの兄妹を紹介した。
なんと、ハピの兄さんのラキに、マナの妹のカナか。
どうりで、どこかで見たような気がしたのは、面影が似ていたからなのだな。




