二、なあたんと美幼女モンスター、兄ハーピーに妹マーメイド1
夕方、僕は夕食の材料の買い物に出かけた。
僕、掛橋絆は、三人のモンスターの女の子たちと四人暮らし。
買い物や掃除、洗濯、食事の支度などの家事は、四人で当番制で分担している。
母さんは父さんの仕事を手伝うため再び海外へ出かけ、元の四人暮らしに戻ったのだ。
買った物の入ったビニール袋をさげての帰り道。
ふと、小さな女の子が目に入った。
横断歩道を渡ろうとしている。
歳は……、四、五歳ぐらい?
足元まですっぽり覆われたふりふりのスカートをはいている。
僕は何か違和感を感じた。
歩き方がちょこちょことしていて……、何か個性的というか特徴があるのだ。
なんだろう、この違和感。
なぜか僕はその子が気になり、じっと見てしまった。
車の流れが途切れた。
横断歩道の信号はまだ赤である。
なのにその女の子は、横断歩道をその特徴的な歩き方でちょこちょこと渡り始めたのだ。
車は来ないとはいえ、まだ赤だぞ?
僕は左右を見た。
「!」
左からけっこうスピードを出した車が走ってきた。
「危ない!」
僕は駆け出した。
けたたましいクラクションの音。
女の子も迫りくる車に気付いた。
表情が凍り付いて動けないでいる。
僕は女の子に跳び付くと、そのまま抱きかかえて横断歩道の反対側までごろごろと転がった。
車はもう一回クラクションを鳴らすと、走り去っていってしまった。
危ないなあ。
いくら赤で渡っていたとはいえ、小さな女の子なんだぞ。
弱者保護の原則を知らないのか!
「大丈夫かい?」
僕は女の子に話しかけた。
女の子はまだ顔が強張っている。
路上を転がったので、スカートが汚れてしまった。
僕は汚れを払ってやろうとして手を止めた。
スカートが少しめくれ、中が見えたのだが……それが人間の足ではなかったのだ!
女の子の足は二本ではなかった。
その数は八。
なめらかな曲線で表面はつやつやと光るピンク色。
さらに吸盤が付いている。
そう、蛸の足だ。
この子は半人半蛸のモンスター、スキュラなのだ。
僕はすばやくスカートの裾を引っ張り、女の子の足を隠した。
周りをきょろきょろと見回す。
幸い、気付いた人は誰もいないようだ。
「き……、君、どこから来たの?」
女の子は緊張した面持ちで僕を見返した。
「心配しなくていいよ。君、もしかして迷子なのかな?」
すると、女の子は首をこっくりと動かした。
そうか……、この子は迷子のモンスターなんだ。
歩き方に特徴を感じたのは、八本の足で歩いていたからなんだな。
たぶん、人間の姿に変身することはできないんだろう。
大きめのスカートをはいていたのが幸いした。
うまく下半身がカムフラージュされている。
かつて、僕の父さんがモンスターの世界に迷い込んで母さんと出会ったように、この子も何かの拍子に人間の世界に来てしまったのかもしれない。
それにしてもなあ……。
モンスターの迷子なんて、どうすればいいんだろう?
警察に届けるわけにもいかないし……。
とりあえず家に連れて帰って、うちの三人のモンスターの女の子、ケイ、マナ、ハピに相談してみるか。
僕は女の子の手を取った。
女の子が不安げに僕を見上げる。
「大丈夫だよ。君のおうちの人、一緒に捜してあげるから。僕の名前は絆。掛橋絆っていうんだ。君のお名前は?」
僕の問いかけに対し、初めて女の子が口を開いた。
「ララ」
「ララ? ララちゃんっていう名前なの」
「うん」
「僕の名前覚えた?」
「き、ず……な……?」
「そう、絆」
「きずなたん? なあたん!」
「なあたん?」
「なあたん!」
なあたんって僕のこと?
「なあたんか。まあ、いいや」
僕はスキュラの幼い女の子、ララの手を引いて歩き出した。
見えないけれど、ララのスカートの下では八本の蛸の足がせわしく動いているのだろう。
ララが、すっぽり足を覆うスカートをはいてくれていて本当に助かったよ。
蛸の足がむき出しだったら、それこそ周りの人間に怪物扱いされて大騒ぎになっていただろうから。
「なあたん、どこ行くの?」
「僕んちだよ。ララがおうちに帰れるように助けてくれる人がいるからね」
「ララ、おうち帰れる?」
「帰れるよ」
「良かった」
ララが初めてにっこり笑った。
このララの顔、どこかで見たような覚えがあるが……、まあ、気のせいかな。
それにしても、これって迷子を警察に届けもしないで連れ回しているってことになるのかな?
見ようによっては、僕、この子を誘拐していることになったりして……。
でも、モンスターの迷子を助けるのに人間の警察の手を借りるわけにはいかないし……、やっぱり、僕がうちに連れて帰って、ケイ、マナ、ハピの力を借りるしかないよな。




