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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅴ.僕と美少女モンスターと家族たち
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一、掛橋豪快とマミーのマミ3

 ミイラ女に案内されて、掛橋豪快は“反対側”に出た。

 その風景に豪快は絶句した。

 見たこともない派手な色と形の巨大植物。

 遠くには噴煙を上げる鋭角的に尖った山々。

 空には、長い長いシッポに四枚の羽根を持った鳥のような生き物が舞っているかと思えば、地には二つの首を持ったトカゲのような生き物がはっていた。

 ここは、南米のジャングルか?

 それとも恐竜時代?

 見たことのない風景に動植物ばかり。

 そもそも、地球なのだろうか……?


「人間さん」

「豪快と呼んでくれ。俺の名は掛橋豪快だ」

 ミイラ女に豪快は名乗った。

「そうですか……」

「ちなみに、あんた、名前はなんというんだ?」

「私ですか? ――私はマミ。マミー(ミイラ)のマミです」

「へえー、マミーのマミちゃんか。覚えやすいな」

「マミちゃんなんて気安く呼ばないでください」

「は、は、は……、そう怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ」

「そんな……、可愛いだなんて……」

 マミと名乗ったマミーは顔を赤らめた。

 今のマミは、顔以外は全身に包帯が巻かれている。

 素肌に直接巻かれているのだろう、マミのボディラインから豪快にはそのスタイルの良さがよく分かった。

「で、マミちゃん、ここはどこだい? 俺をどこへ連れて行こうってのさ」

「ここはモンスターワールド。あなたがた人間たちの住む世界とは別の、我々モンスターたちが住む世界です。豪快さん、あなた元の世界に帰りたいでしょう?」

「そりゃあ、まあな……」

「帰してあげます」

「ほんとか? そいつはありがたい」

「そのための鍵が私の家にあるんです。ですから、一緒に来てください」

「あ、ああ……」

 マミの言い方に、豪快は何か差し迫ったようなものを感じた。

 しかし、聞いてはいけないような気がし、豪快は何も聞かなかった。

 しばらく無言で歩く二人。

「豪快さん、あなた、あの場に何しに来たんですか?」

「あの場って……、あんたが昼寝していたあの小部屋のことかい」

「ま、まあ、そうですけど……」

「俺は考古学者なんだ。いろいろとマイナーな遺跡を単身調査して回っている。今回も調査の最中に、たまたまあんたが眠っていた所に辿り着いた」

「エラーというか何らかのトラブルで、たまたま人間の世界とモンスターの世界がつながってしまったのですね。そしてあなたが私のところへやってきてしまった……」

「まあ、そうだな。しかし、驚いたぜ。これは、世紀の大発見だ。しゃべって歩く生きたミイラのあんたもそうだが、このモンスターの世界のことだって学会で発表したら考古学の常識がみんな引っくり返るぜ」

 そのとき、豪快の頭上からキエエエエーーーという奇声が響いた。

 空を見上げる豪快。

「!」

 さきほどから上空を舞っていた、長い尾を持つ四枚羽根の怪物が豪快とマミに急降下してきていた。

 その顔は、あえて人間の世界の生き物に例えるならばトンボのようであった。

 だが、トンボよりはるかに醜怪で邪悪な顔つきであり、それが巨大な口を開いて二人に襲いかかってきたのである。

「危ねえーー!」

 豪快はマミを抱えて横に跳んだ。

 すんでの差で怪物の口は空を噛み、上昇した。

 怪物の四枚羽根のはばたきで土ぼこりが舞い上がる。

「大丈夫か、マミ?」

「え……、ええ、ありがと」

 怪物はいったん高く上昇すると、再び二人めがけて急降下してきた。

「ちぃ……」

 豪快は携帯していたナイフを抜いた。

「豪快さん、下がっていてください」

「何だと? マミ、まさかお前が戦うってのか。武器も何も持ってないじゃないか」

「大丈夫です。武器なら身に付けていますよ。さ――」

 豪快は意味が分からなかったが、マミが強い意志で手のひらを自分に向け、動きを制するので、黙って見守ることにした。

 怪物が目の前に迫った。

 マミは両手を挙げた。

 すると、どうだろう。

 マミの両腕に巻かれていた包帯が、ものすごい勢いで怪物に向かって飛び出したのだ。

 いや、そのあまりのスピードで飛び出したように見えたのであって、正確には伸びたのであった。

 マミの両腕から伸びた二本の包帯は、あっという間に怪物の胴体を羽根ごと縛り上げ、その自由を完全に奪った。

 包帯にぐるぐる巻きにされ、地を震わせて落下する怪物。

「すげえ……」

 口をあんぐりと開け、次の言葉が出ない豪快。

「さ、お行きなさい。もう、こんないたずらをしてはだめよ」

 マミはそう言うと、怪物の包帯の拘束を解いた。

 包帯はしゅるしゅると縮み、マミの両手首に収まった。

 自由になった怪物は、その巨体に似合わずしゅんとすると、まるで叱られた子犬のようにすごすご空へと戻っていった。

「マミ、あんたすごい力をもっているんだな」

「ええまあ……。私の体に巻かれている包帯は伸縮自在。今のように武器として使うこともできるのです」

「なんだ……。じゃあ、さっきみたいに俺があんたを抱えて跳ぶ必要なんかなかったのか」

「いえ……、そんな……、嬉しかったですよ。助けてくださって」

 マミの頬は少し赤く見えた。

 戦いの直後で上気しているからだろうと豪快は思った。


「着きました」

 ジャングルを抜けたところに小さな一軒家があった。

 人間の世界のどの国の家とも違う、奇妙な造形の家だ。

「ここがマミの家か?」

「ええ、入って――。父さん、母さん、ただいま」

 ドアを開け、マミが大きな声で両親を呼んだ。

 すぐに、マミの両親がやってきた。

 当然のことながら、全身に包帯を巻いたミイラ男とミイラ女。

 二人とも、片目だけが出ていた。

「マミ、その方は?」

 父親と思われる方のミイラが娘にたずねた。

「掛橋豪快さん。人間のお客様よ」

「!!」

 マミの言葉に、両親は絶句した。

 母親がマミの腕を取り、部屋の隅に連れて行った。

「マミ、人間ってどういうことなの……?」

「母さん……、いつもの場所でお昼寝していたら、たまたまあの人がやってきちゃって……」

「たまたまって、あなた、包帯してないじゃない。素顔を見られてしまっているのよ」

「ごめんなさい。包帯を巻かずにお昼寝しちゃっていたの。まさか、人間が来るなんて思わなかったから……」

「掟のことは分かってるんでしょうね? 我々マミーは、人間に素顔を見られたら――」

「分かってるわよ、母さん」

 マミは母親の言葉を遮ると、取り残された形になっていた自分の父親と豪快に顔を向けた。

「豪快さん、慣れないモンスターの世界に来てお疲れになったでしょう? 今夜はゆっくり休んでください。明日、人間の世界にお送りします」

 その日は簡単な夕食が用意された。

 モンスターの世界の料理だ。

 見たこともない物だったが、豪快は豪快に平らげた。

 並の人間だったら、その見かけだけで食欲を無くしてしまっていたかもしれない料理だったが、豪快はそんな繊細さとは無縁な男だった。


 個室に通され、豪快は休むように言われた。

 だが、なかなか寝付けない。

 ――と、小さな話し声がしてくるのに気付いた。

 豪快は、あてがわれた個室を出ると、話し声がしてくるドアの方へそっと近づいた。

 話していたのは母親とマミだった。

「マミ、掟のことは分かってるでしょう。このままあの人間を帰してしまうつもり?」

「だって……、しょうがないでしょう。顔に包帯を巻いていなかった私が悪いんだもの。豪快さんに落ち度はないのだから」

「それはそうだろうけど……」

「マミーの女は、人間の男に素顔を見られたら夫婦めおととならなければならない。これは我々マミーの掟だ。だが、神話の時代ならいざ知らず、人間とモンスターが結ばれたという例はもう何万年もない。この掟も形骸化していると思っていたが、まさか自分の娘にこんなことが起きるとは……」

 今度は父親の声だった。

 マミーの女は人間の男に素顔を見られたら夫婦めおとにならなければならないだと……?

 それはつまり、マミと俺が結婚しなければならないということなのか――豪快は思った。

「豪快さんが……、いえ、人間なら誰だって、モンスターなんかと……、ましてやミイラなんかと一緒になりたいなどと思うわけないわ。だから、返してあげるの、人間の世界へ」

「マミ、それがどういうことか分かっているの?」

「ええ、母さん」

「我々アンデッドは死なない。その代わり掟を破った代償として不死ののまま闇の中に永遠に封印され続けなければならないのだ」

「ええ、父さん」

「マミ、自由を奪われたまま永遠に生き続けなければならないのよ」

「それを回避するには……、おまえがあの掛橋豪快という人間の男と結婚するか、はたまた、あの男の命を奪うかしかないのだぞ」

 なんだと!?

 豪快は内心驚愕した。

 では、マミは俺を殺そうとして、自分の家に連れてきたのだろうか。

「父さん、母さん……。できないよ。なんの罪もないあの人間の豪快さんの命を奪うなんて……。それに……、豪快さんがミイラの私のことなんか好きになってくれるわけもない。明日、人間の世界にお送りしてお別れするわ」

「マミ……」

 マミの言葉に、もう両親は何も言わなかった。

 豪快は、音を立てないように、またそっと自分の部屋に戻った。

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