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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅴ.僕と美少女モンスターと家族たち
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一、掛橋豪快とマミーのマミ2

 掛橋豪快は考古学者。

 体が大きく、いかつい顔をしていて、とても学者には見えない。

 プロレスラーだと言われたら、誰もが納得するような外見だった。

 豪快は、世界各地を回って遺跡の発掘調査を行っていた。

 その日も単身、ヨーロッパの古代遺跡の発掘調査に赴いていた。

 遺跡の発掘というのは通常調査団を組織し、大なり小なりある程度の規模を伴って行われるものだ。

 豪快のように単身で行うことなどほとんどありえない。

 豪快は、他の考古学者が見向きもしないようなマイナーな遺跡に目を向け、それを発掘調査することに喜び、生き甲斐を見出すような男だった。

 学会では「変わり者」とのもっぱらの評判。

 豪快が発掘調査に向かう遺跡に同行しようなどという物好きはいなかったのである。

 ヨーロッパの山奥に豪快が見つけたのは、古い小さな建造物。

 崩れかけた石造りの小さなピラミッド型のものだ。

 大きさは日本の平均的な一戸建てぐらい。

 建造物正面には人一人入れるくらいの穴が開いている。

 もともとは出入口だったのだろう。

 豪快は、被っているヘルメット備え付けのライトを点灯させると、その穴の中に入っていった。


 少し進めばどこかへ突き当るだろう――そう見当を付けていたのだが……。

 いくら歩いても、暗いトンネルがどこまでもどこまで続くだけ。

 外から見た感じでは、こんなに長い通路があったようには見えない。

 それでもしばらく進むと、少々広いスペースに出た。

 十畳ぐらいのその中央に、四角い箱が置かれていた。

 大きさは……、人間の棺桶を思わせるサイズ。

 となれば、中にはおそらく大昔の遺体が眠っているはずだ。

 豪快はふたを開けることを試みた。

 幸い、ふたは重いだけで鍵はかかっておらず、豪快の力であれば、一人で開けることが可能であった。

 ふたも貴重な資料だ。

 豪快は傷付けないように慎重にふたを開け、床に置いた。

 ホコリが舞う。

 それらがやみ、豪快のヘルメットのライトの光の中に浮かび上がったのは――。

 箱の中に横たわる、一人の美しい女性の姿だった。

 顔以外、全身に包帯が巻かれている。

 この状態から誰もがそう思うであろうが、豪快もまたこの女性を大昔の人間の遺体だと判断した。

 だが、驚くべきはその保存状態だ。

 肌はみずみずしく、とても大昔の遺体には見えない。

 全身に巻かれた包帯越しでもそのスタイルの良さが分かる。

 健康な若い女性がただ眠っているようにしか見えなかった。

「何ということだ……。こんな良好な状態のミイラは初めて見る」

 豪快は、ポケットからカメラを取り出した。

 まずは写真撮影だ。

 フラッシュを光らせ、二枚、三枚と次々写真を撮る。

 いろいろな角度から写真を撮っていると……。

 ミイラのまぶたがかすかに動いたように見えた。

「?」

 あちこちから焚いたフラッシュの光の加減でそのように見えたのだろう。

 そう思い、豪快は写真撮影を続けた。

 最後に、顔のアップを撮ろうと、豪快はカメラをミイラの顔に近づけた。

 それにしても何という美しい顔立ちだろう。

 長いまつ毛、通った鼻筋、きめ細やかな肌……。

 ミイラといえば、しわくちゃの干からびた姿と相場が決まっている。

 だが、このミイラは違っていた。

 もろ、豪快の好みのタイプの顔だった。

 ああ、生きた人間だったらな……そう思いながらシャッターを切ろうとした瞬間、

「!」

 豪快は自分の目を疑った。

 やはり、ミイラのまぶたがぴくりと動いたのだ。

 間違いない。

 このミイラは生きている。

 豪快はもっとよく見ようと、自分の顔を近づけ、まじまじとミイラの顔を見つめた。

 ミイラのまぶたがゆっくりと開かれた……。

 開かれたまぶたの下のその瞳は、ゆっくり左右に動き、やがて豪快の目と合った。

「……」

「……」

 見つめ合う瞳と瞳。

 ミイラの口がゆっくりと開き……。

「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!」

 まさに「絹を引き裂く女の悲鳴」と形容するのがふさわしい絶叫が、大して広くないその場に響き渡った。

 滅多な事には動じない豪快だが、この悲鳴の大きさには思わず両手で耳を覆った。

「だ、だ、だ、誰ですか、あなたは?」

 ミイラ女はあたふたと上体を起こし、右手で豪快を指した。

「だ、だ、だ、誰ですかも何も……、あんたこそ、何者だ? 死んでたんじゃないのか」

 普通の人間だったら、ミイラが突然大きな叫び声を上げて起き上がったらびっくり仰天して気絶するか、悪くすればショック死だろう。

 だが、そこは肝っ玉の大きい掛橋豪快。

 ミイラ女と普通に会話を始めてしまったのである。

「し、し、し、死んでなんかいませんよ……。っていうか、私は死にません! アンデッドなんですから……、マミーなんですから……」

「あんた、人間じゃないのか?」

「何を言ってるんですか。見ての通りマミーです。あなただって、その顔、人間じゃないでしょう?」

 ミイラ女は豪快の顔をにらみつけた。

 掛橋豪快は、顔のつくりもまた豪快なのだ。

「あのなあ、そりゃあ、俺は人間離れした顔してると何度も言われたことがあるが……、れっきとした人間だよ! ちぇ、自分で言ってて傷つくぜ」

「う、うそ! あ、あなた、人間なの? 実物、は、初めて見た」

「俺だって、しゃべるミイラの素顔を見たのは初めてだぜ」

「え、素顔?」

 豪快の言葉に、ミイラ女は自分の顔に手をやった。

 指先まで包帯の巻かれたその手で、ミイラ女は自分の顔を触った。

「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!」

 二度目の「絹を引き裂く女の悲鳴」が、その場に響き渡った。

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