一、掛橋豪快とマミーのマミ1
モンスターワールドでの戦いを終え、僕らは人間世界の僕の家に戻ってきた。
僕、ケイ、マナ、ハピ……、そして、嬉しいことに、僕の母さんも一緒だった。
「きーくん、結構きれいにして暮らしているじゃない、感心感心」
久しぶりに母さんの手料理を食べた夕食後、リビングでみんなで僕の入れた紅茶を飲んだ。
「僕だけじゃなくて、ケイもマナもハピも、みんなで分担して家の事やってるからね」
「よかったわね、きーくん」
ちなみに母さんの言う「きーくん」とは僕のことだ。
幼い頃からそう呼ばれているが、中学生にもなって「きーくん」と呼ばれるのは、やはり、ちょっと恥ずかしい。
「きーくんの入れてくれる紅茶はやっぱり美味しいわね」
母さんの顔は包帯でぐるぐる巻き。
片目だけが出ている。
口元の包帯が、紅茶を飲むときだけ開き、母さんはそこから紅茶を口に含んだ。
包帯が巻かれているのは、顔だけではない。
服から出ている首にも、腕にも、脚にも、体中に巻かれている。
別に怪我をしているからじゃない。
実は僕のマミー(母さん)の正体はマミー(ミイラ女)。
僕は、人間とモンスターとの間に生まれたハーフなのだ。
「お母様、私も絆君の入れてくれた紅茶を初めて飲んだとき、とても美味しくてびっくりしたんです」
僕を「絆君」と呼んだ深みのある茶色い髪のショートカットの女の子は陸守ケイ(りくもりけい)。
中学二年生の人間の女の子の姿をしているけれど、その正体は半人半馬のモンスター、ケンタウロスだ。
「そうなの。ケイちゃん、確かあなたが最初にきーくんのボディガードになってくれたのよね」
「はい、お母様」
な、なんというか……、ケイの言葉づかいがいつもとちょっと……、いや、相当違うような気がする。
「ありがとう。ケイちゃんみたいな子がそばにいてくれると、きーくんも安心だわ」
「そんな、ずっとそばにだなんて照れてしまいますわ、お母様」
「「言ってない!」」
そのケイの言葉に対し、二人の女の子が揃って突っ込んだ。
「お母様、私が焼いたんです。お茶うけにこちらも召し上がってください」
そう言って、ビスケットが盛られた皿をテーブル中央に置いたのは、たった今突っ込んだ二人の内の一人、海守マナ(うみもりまな)。
きれいにウェーブのかかった青いロングヘアーに緑の瞳。
マナも人間の女の子の姿をしているけれど、その正体は半人半魚のモンスター、マーメイド。
「ありがとう、マナちゃん」
母さんは、ビスケットを一つ口に運んだ。
「とても美味しいわ。マナちゃんみたいに料理が上手な子がいてくれて、きーくんも喜んでいるでしょう。いいお嫁さんになりそう」
「えー、そんな、お母様、絆ちゃんのお嫁さんにだなんて」
マナは両手をほっぺに当てて体をくねくねさせた。
「「違うでしょ!」」
そんなマナに対し、ケイと共にハモったのは空守ハピ(そらもりはぴ)。
さらさらストレートの金髪に青い瞳の人間の女の子の姿だが、やはりその正体は半人半鳥のモンスター、ハーピー。
「お母様、あんなことがあったからお疲れでしょう。ボクが肩をおもみします」
ハピは、そう言うと、母さんの両肩に手を置いた。
マナもハピもどうしちゃったんだ、いったい……。
やけに母さんへのサービスがいいな。
それに、みんな言葉づかいがいつもと違う。
「ハピちゃん、いいのよ、そんな気をつかわなくて……」
母さんは、自分の肩に置かれたハピの手の上に自分の手を置いた。
そのハピの指先から肩にかけては包帯が巻かれている。
先の戦いでハピは翼に大怪我を負った。
人間の姿になると、ハピの両肩からの翼は腕に変わる。
人間の姿の時は、翼の怪我が腕に反映されるのだ。
「きーくんは幸せよね。ハピちゃんみたいに、思いやりのある人がいてくれて」
「はい、絆と幸せになります」
「「なんでそうなるのよ!」」
今度はマナとケイがシンクロした。
なんだかんだ言って、三人とも息ぴったりだな。
「ハピちゃんも……、マナちゃんもケイちゃんも本当にありがとう。私たち親子のために、こんな大怪我までして……。何とお礼を言っていいか分からないわ」
マナは、スカートの下から伸びている両足に包帯を巻いている。
やはりこれも、先の戦いで負った傷だ。
ケイは、包帯こそ体に巻いていないけれど、先の戦いでは命を落としかけた。
母さんは、ティーカップを置いた。
「三人とも本当にありがとう。何度お礼を言っても言い足りないくらい。今回の件、感謝の気持ちでいっぱいよ。」
「そんな、娘として当然のことをしたまでです」
ケイが言った。
「はい、そうです。娘として」
マナも言った。
「ボクも。娘として」
ハピまで言った。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。
三人ともいつから僕の母さんの娘になったの?
「娘」じゃなくて「モンスター娘」でしょ。
単に「娘」っていうと、いろいろ違う意味になっちゃうじゃん。
「きーくん、本当にうれしいわよね、こんな素敵な女の子たちが三人も一緒にいてくれるようになって」
母さんが僕に話を振った。
ケイ、マナ、ハピが、じぃーーっと僕を見つめる。
「う、うん……。ある日突然、母さんがモンスターだったんだということが分かって以来、驚きの連続だったけれど……、ケイ、マナ、ハピの三人がいてくれるから、すごく助かってるよ」
ケイ、マナ、ハピの顔が、みるみる赤くなった。
「や、やだ、きーくん」
「そ、そうよ、きーくんたら」
「て、照れるよ、きーくん」
な、なんで三人とも急に僕を「きーくん」呼ばわりなんだ。
「見ていて微笑ましいわ。何だか、私が豪快さんと出会ったときのことを思い出しちゃう」
そうだよ。
その母さんの言葉で思い出したけれど、僕は母さんに聞きたいことがあったんだ。
ちなみに、「豪快さん」というのは、僕の父の名。
僕の父の名は掛橋豪快。
「名は体を表す」というが、名前がそのまんま父の性格を表している。
おじいちゃん、おばあちゃんが、豪快な人になることを願って名づけたんだろうな。
で、母さんの名前なんだけど……。
マミー(ミイラ女)であるマミー(母さん)の名はマミ(真実)。
掛橋真実――これが、僕の母の名だ。
冗談みたいだけれど、真実なのだからしょうがない。
「ねえ、母さん、話してよ。人間の父さんとモンスターの母さんって、いったいどうやって出会ったのさ……?」
僕の言葉に、ケイ、マナ、ハピも興味深そうに母さんの顔を見た。
「そうね……。こういうことになってしまった以上、きーくんにもきちんと教えてあげておいた方がいいわね……」
そう言って、母さんは話し始めた。
父さんと母さんの出会いの物語を……。




