22.決着
その時、周囲の草木のツルが何本も何本も一瞬にして伸びて集まってきて、僕の目の前に巨大な壁を編み上げた。
それらが僕を襲おうとしたドロドロ大波の防波堤となり、僕を守ってくれたのだった。
「な、なんだ? 誰の仕業だ? は! そ、そうか! アルラウネ、お前の邪魔だな」
人の形の包帯の中から声がする。
『締め付けろ!』
僕は念じた。
「ぐ……、く、苦しい」
いつもいつも相手を体内に取り込み、苦しめているであろう、スライムのライム。
自分が捕らわれ、圧迫されるなど初めての体験だろう。
「スライム、卑怯ですよ。あなたにはモンスターの誇りはないのですか。仮にもこれはお互いルールを定めた上での一対一での戦い。今の大波はルール違反です。審判として干渉させていただきました」
ルネの言葉に、ライムはもう何も言わなかった。
いや、言わなかったのではなく、僕の包帯による圧迫で何も言えなかったのかもしれない。
「掛橋絆さん。この戦いはあなたの勝ちです」
ルネはまず僕に、続いてライムに言った。
「スライム、負けをお認めなさい。そして、掛橋絆さんのお母様とお仲間のケンタウロスを返すのです。従わないのなら、及ばずながら、今度はこのアルラウネのルネがお相手になりましょう。モンスターの誇りをかけて」
言葉を発せられないスライム少女は、かすかに首を上下に動かした。
これは首肯ということだろう。
でも、これで包帯の拘束を解いても大丈夫だろうか?
「掛橋絆さん、スライムを解放してあげてください。大丈夫です。もし、スライムが何かしてきたら、私が対処します」
確かにルネは、今も僕をライムの沼のドロドロ大波から守ってくれた。
ルネの言葉を信じよう。
『戻れ』
僕は念じた。
たちまちライムの全身に巻き付いていた包帯はほどけ、しゅるしゅると僕の手に戻り、元の小さな切れ端になった。
仰向けになって倒れていたライムは、いったん体を崩し、直立した姿になると、僕をにらみつけた。
「掛橋絆……、忌々しい……」
「さあ、スライム」
「分かったわよ、アルラウネ!」
僕の母さんと、ケイをとらえていた二つのドロドロの箱が岸辺に移動してきた。
そしてドロドロは箱の形から手のような形になり、母さんとケイを掴んでゆっくり地上に降ろすと、沼の中に戻った。
「母さん!」
「ケイ!」
僕、ハピ、マナが二人に駆け寄った。
え、マナも?
「マ、マナ、目は?」
「え、やだ! 見えてる、あたし」
走り出してからマナも気付いたようだ。
アルラウネのルネのエキスのおかげだろう。
「母さん! 母さん!」
僕は母さんの上体を抱き起した。
僕の声に反応し、包帯の中から唯一見えている母さんの片方のまぶたがぴくりと動いた。
「母さん、しっかりして。絆だよ!」
今度は母さんの口元がゆっくりと動くのが包帯越しに分かった。
「きー……くん?」
懐かしい呼び名。
実は僕、母さんからはずっと「きーくん」と呼ばれていたのである。
母さんの目が開いた。
「きーくん……、どうして?」
「僕……、助けに来たんだよ、母さんのこと。ボディガードのあの子たちと一緒に」
僕は、ケイ、マナ、ハピを視線で示した。
ケンタウロスの姿のまま気を失っているケイの上体を、人間の姿のハピとマナが両脇から抱きかかえている。
「ケイ! しっかりしろ」
「起きて、ケイ!」
ケイもゆっくりと目を開けた。
「ハ……ピ……? マナ……。マナ……、よかった、目が治ったの?」
「もう、ケイったら……。こんな時に人の心配なんかしないでよ」
見えるようになったマナの瞳から涙が溢れだした。
「良かった……。ボクら三人そろって陸・海・空の守りだもんな」
ハピの頬にも涙の筋が光っていた。
「そうだ絆君は? 絆君のお母さんは?」
ケイが慌てて周りを見回した。
「ケイ、大丈夫だよ。母さんも無事だ」
僕はケイの傍らにしゃがみ、ケイの顔を覗き込んだ。
「絆君……、良かった!」
ケイが僕の首に抱きついてきた。
「うわったった、ケイ!」
母さんの目の前で女の子に抱きつかれちゃ、さすがに恥ずかしい。
「あー、もう、ケイ、だめだったら」
「ケイ、気絶してたからってずるいぞ!」
マナとハピがあわてて僕からケイを引き離そうとした。
気が付くと、スライムのライムは、アラクネのクオン、スキュラのユラ、ラミアのミアの三人もろとも姿を消していた。
ともかく良かった。
無事に母さんを取り戻すことができたのだ。
また、今回の一件で、僕には不死の他に、何とマミーの包帯を操るという、更に特別な能力があることが判明した。
この能力と僕はこれからどのように付き合っていけばいいのだろう?
僕の――、そして、美少女モンスターたちとの今後については、またの機会に語ることとしよう。
<完>




