19.戦うのは誰が?
ほどなく、第四の場所に着いた。
第一の戦いはハーピーのハピとアラクネのクオンによる空中戦。
第二の戦いはマーメイドのマナとスキュラのユラによる水中戦。
そして、第三の戦いはケンタウロスのケイとラミアのミアによる地上戦だった。
第四の戦いはどうなるのか。
そして、戦うのは誰が?
ケイは失われ、マナもハピも傷ついている。
では、誰が戦うのか。
僕が戦うのか。
だが、今までろくにけんかすらしたことのない僕が、しかもモンスター相手に、戦うことなどできるのだろうか。
森が開け、第四の場所に到着した。
そこは――小さな沼だった。
なにやらドロドロとした表面にぶくぶくと泡が立っている。
この感じ……。
出てくるのは、アイツだろう。
沼の中央がゆっくりと盛り上がった。
盛り上がったドロドロの粘液は、やがて人の形となり……、先日ラミアのミアと共に僕らと戦ったあのスライムのライムの姿になった。
「ようこそ、掛橋絆さん。よくここまでやって来られたわね」
ライムを形作っている物と沼の成分とは同じように見えた。
沼の一部がライムとなり、まるで沼の表面からライムが生えているようだ。
「僕の母さんはどこだ? 母さんを返せ!」
「ふふふ……、まあそう慌てないで」
ライムがそう言うと、彼女の周りの表面五か所が四角く盛り上がった。
ドロドロの粘液でできた、人一人入れるぐらいのその箱は、まるで沼から棺がせり出してきたかのように見える。
ライムの背後に一つ、左右に二つずつ計五箱。
左右の箱、計四つがゆっくりと開いた。
その中に横たわっていたのは……、さっき戦ったアラクネのクオン、スキュラのユラ、ラミラのミア、そして僕のボディガードモンスター、ケンタウロスのケイだった!
「ケイ! 無事だったのか?」
ケイも……、クオンもユラもミアも、目を閉じたまま動かない。
気絶しているだけなのか?
それとも……。
「ふふふ……、心配ないわ。四人とも気を失っているだけ。――といっても掛橋絆さんが心配しているのは、そのケンタウロスの子のことだけでしょうけれど」
僕は沼の中に入ろうと、足を踏み出した。
ずぶずぶと足首までめり込んだ。
「待て、絆」
ハピが僕の肩をつかんだ。
「スライムの沼は底なしだ。沈んだら最後、浮かんでくることはできない」
「しかしハピ。ケイがあそこに……」
「大丈夫。呼吸音が聞こえるわ。ケイは生きている」
ハピもマナも僕にうなずいて見せた。
「心配ない。スライムを倒せば、全て解決だ」
「だけど……」
僕は言いかけてやめた。
「誰が戦うんだ?」と僕が言えば、間違いなくハピが「自分だ」と答えるだろう。
マナの目が見えない現状では、ハピが唯一の戦力だ。
いや、もう一人、無傷の者がいたじゃないか……、それは、ほかならぬこの僕!
だが、それを見透かしたようにハピは言った。
「絆、まさか絆が戦おうなんて思ってないよね」
「ハピ……」
「心配するな。前回の戦いを見たろう? スライムが襲ってきても、ボクは吹き飛ばしてしまう。スライムの攻撃はボクには通じない」
確かに前回の戦いで、ハピはその翼のはばたきで襲いくるスライムのライムを散り散りに吹き飛ばしてしまった。
でも、あの時のハピはベストコンディション。
今のハピはアラクネのクオンとの戦いでその羽根の多くを失ってしまっている。
ライムを吹き飛ばすどころか、飛ぶことさえままならない。
男の僕を守らせるため、傷だらけの女の子を敵の前に立たせるのか?
そんなこと、できるわけがない。
「ハピの気持ちはうれしいけれど、今のハピをあいつと戦わせるわけにはいかないよ。それに元々は、僕の母さんを助けるための戦いだ。僕の家族の問題なんだ。ハピを――、マナをケイを、これ以上巻き込むわけにはいかない」
「くさいよ、絆」
「え、僕なんかにおった?」
「やーねハピ。それを言うなら“水くさい”よ」
マナが訂正した。
なんだ、ハピの言い間違いか。
「絆、水くさいよ。ボクらはもう絆の家族のつもりなんだ。だから、絆のお母さんなら、ボクらのお母さんでもあるんだよ」
「ハピ……」
「そうよ。ここまで来て、今さら戦いを投げ出すつもりなんて、私たちにはないわ」
「マナ……」
僕らのやり取りに茶々を入れるようにライムが口を挟んできた。
「ほほほ……。仲間内での感動的なやり取りはそれくらいにしておいてくださるかしら? 私は誰が相手でも――、なんなら三人まとめて相手でも構わないのよ?」
「その前に確認したい」
僕はライムをにらみつけた。
「何かしら?」
「マミーは……、僕の母さんはどこだ? ここに来れば会えることになっていたはずだ」
「ふふふ……、そうだったわね。心配は要らないわ。ここよ」
ライムがそう言うと……。
彼女の背後にあった、最後の一箱が沼表面から更に高くせり上がった。
ドロドロの沼の成分で形作られた、まるで棺のような長四角の箱。
それが縦長に立てられ、ゆっくりと僕らに向かって開かれた。
はたしてその中には――。
マミーが、僕の母さんがいた!




