18.アルラウネのルネ
第四の場所に向かって僕らは無言で歩いた。
ハピもマナも重傷。
マナは視力すら失った。
そしてケイは、敵モンスターのラミアのミアと共に土の中に消えてしまった。
あまりにも失ったものが大きすぎる。
僕の母さんを助けるためとはいえ、ケイ、マナ、ハピにここまでさせる権利が果たして僕にあるだろうか?
「そこを行くお三方、お待ちなさいな」
考えごとをしている僕に、横から誰かが声をかけた。
声のした方を見るが、誰もいない。
「誰だ?」
ハピが僕を背にして声のした方に立った。
「ふふふ……、ここですよ、ここ」
目の前には、奇妙な形の木や草にまじって、大きな花のつぼみがあった。
きれいなピンク色をしていて、周囲の植物のような派手さはないが、上品な色合いだ。
そのつぼみがゆっくり開き、中から女の子が姿を現した。
「キミはアルラウネか……」
「あるらうね?」
「ああ、絆。上半身が人間、下半身が花のモンスターだよ」
長いピンク色の髪にピンクの瞳、上半身は人間だったけれど、下半身はなんと花だった。
花の中心から人間の女の子の体が生えているような姿をしている。
髪には花飾りを付けているように見えたが、あれは“飾り”ではなく“自前”なのかもしれない。
「はじめまして、ハーピーにマーメイド。それと……、あなた……、あなたは人間……ではないようね、かといって我々モンスターの仲間でもない。いったい……」
「アルラウネさん。僕の名前は掛橋絆。人間の父とモンスターの母から生まれたハーフだよ」
「そう……、あなたがお噂の方だったのですね。この近くでモンスターの二つの勢力の者たちが戦っているという話を聞きました。もしや怪我をしているお二人はその戦いのせいで?」
「ああ、そうだよ。アルラウネさん。悪いけどあまり話をしている時間はないんだ。先を急いでいるんでこれで失礼するよ」
「待ってください、掛橋絆さん」
「まだなにか? アルラウネさん」
「その前に……、私の名前はアルラウネではありません。あなたのお友達のハーピーやマーメイドだって名前があるでしょう? 私にもルネという名前がありますので、ルネと呼んでいただけませんか?」
「ではルネ、僕らになにか用事が?」
「この滴を、あなたがおぶっているマーメイドの目にさしてあげてください」
ルネと名乗ったアルラウネは、一枚の葉を僕に差し出した。
葉の上には丸い滴が一つのっている。
「これは?」
「これは私の体のエキスです。傷を癒す効果があるのです。マーメイドの目にさしてあげれば、失われた視力を回復することができるでしょう」
「本当かい?」
「そういえば絆、僕も聞いたことがあるよ。アルラウネのエキスには癒しの効果があるって……」
ハピもそう言うなら間違いないだろう。
僕はマナをそっと地面に寝かせた。
「マナ、聞こえていた?」
「ええ、絆ちゃん……」
「これから、アルラウネのルネからもらった滴を、マナの目にさすよ」
「絆ちゃんやハピが信じたんだもの……、私もそのアルラウネの子を信じるわ……」
僕は片手でマナの閉じられたまぶたをゆっくり開き、ルネからもらった滴を半分ずつ左右の瞳に点眼した。
「……どう、マナ?」
「絆さん、あわててはいけません」
「ルネ?」
「少し時間を置いてください。視力はゆっくりと戻ってきますから……。それともう一つ」
ルネは僕に小さな壺を差し出した。
「これは?」
「これは私の葉でこしらえた壺で、この中にも先ほどとは違う種類のエキスが入っています。こちらは怪我によく効くので、ハーピーとマーメイドの体に塗ってあげてください」
「ありがとう、ルネ。だけど――」
「なんですか?」
「君はどうして僕たちを助けてくれるの? ここにいるということは、君は強硬派のモンスターなんだろう?」
「このあたりのモンスターは強硬派でも穏健派でもありません。言ってみれば中立派です」
「中立?」
「ええ……。絆さん、あなたのお母様が強硬派のモンスターにさらわれ、あなた方はたった四人でそれを取り返しに来たと聞きました。あなた方の戦いぶりは草花たちの伝令で私の元にも届いています。その様子を聞くにつけ、私はあなた方のお力になりたいと考えるようになったのです。おかしいですか?」
「おかしくはないよ……。むしろ、とてもありがたい」
「受け入れてくださって私もうれしいです。では、ハーピーとマーメイド、お大事にしてくださいね」
アルラウネのルネは、再びつぼみの状態に戻り、どんどん小さくなると土の中に消えてしまった。
僕の手元には、アルラウネの葉で作った壺が残った。
「ハピ、マナ、せっかくだから、このエキスを二人の怪我に使わせてもらおう」
僕はハピとマナを太い木の根元に座らせた。
二人のそれぞれ両腕、両足の包帯を解いてやろうと手を伸ばした。
するとどうだろう。
二人の手足の包帯が、独りでにするするとほどけたのだ。
まるで僕の意思を感じ取ったかのように。
僕はアルラウネのルネからもらった壺の中のエキスを自分の手のひらに取り、ハピの両腕、そしてマナの両足に丁寧にぬってやった。
「二人とも大丈夫? 染みたりしない?」
「ありがとう、大丈夫だよ絆。むしろ、心地いいくらいだ」
「うん……、あたしは……、きゃは、絆ちゃん、ちょっとくすぐったい」
二人の手足にエキスを塗り終えた。
僕は試してみることにした。
もしかしたら……、また、僕の意思で手を使わずに、この包帯をハピとマナの手足に巻けるのではないだろうか。
僕は念じた。
するとやはり、ほどけて地面に落ちていた包帯は、自ら宙に浮き、ハピとマナの手足に巻き付いていったのである。
そうなのだ!
なんと僕は、母さんの包帯を手を使わずに自由に操ることができるるのだ。
しかも包帯は、無限にいくらでも伸び、途中でのカットも自在。
これは便利だ。
僕にもこんな特殊な能力があったのだ。
ただ、人間とマミーのハーフというだけで、不死以外、なんの特殊能力もないと思っていたけれど、僕にこんな力があったなんて。
これで、僕もボディガードの三人の役に立つことができる!
三人……。
いや、二人か。
ケイはもういないのだ。
「どう? ハピ、マナ」
包帯を巻き終え、僕は二人にたずねた。
「なんだか……、よくなった気がするよ」
「私も、絆ちゃん。痛みが薄らいできた」
「よかった……。ルネのエキスは本当に効いたんだね」
「絆ちゃん、あたし痛みが和らいだからもう自分で歩ける」
「よかった……、目の方はどう?」
「……。目はまだみたい。でも大丈夫。絆ちゃん、肩に手を置かせてね」
「ああ、いいよ」
僕ら三人は再び歩き始めた。
思いもかけなかったアルラウネのルネのおかげで体の傷を癒され、心の傷まで少し癒えた気がした。
といって、ケイを失った悲しみが消えたわけではないのだれど。




