17.地に沈むケイ
ミアは突然、頭から地中に潜った。
ミアが地中を移動しているのだろう、地響きで辺りが揺れる。
ケイは、きょろきょろと周囲を見回した。
おそらく、どこかからミアが出てきて襲ってくるはずだ。
案の定、ミアが地中から飛び出してきた。
場所はなんと、ケイの真下だ。
ケイは垂直に跳び、器用に空中で一回転すると馬の前足後足全てを揃えた蹴りの態勢でミアに向かって急降下してきた。
しかし、ミアはまた直ぐ地中に潜り、ケイの強烈な蹴りはミアのいた辺りの土をえぐるのみだった。
再び、辺りを不気味な地響きが揺らす。
今度は、ケイの真正面の土中からミアがその上体を現した。
ケイは後ろに跳んだ。
ところが、ミアはそれを予測していたようだ。
ケイの着地点の土中から尾を素早く出現させると、それをケイの上半身にあっという間に巻きつけてしまったのだ。
「ひー、ひっひっひっ。かかったね!」
ミアがケイの上半身を両腕ごとぎりぎりと締め付けた。
ケイの顔が苦悶に歪んだ。
「ひー、ひっひっひっ。どうだい? 上半身を捕えたよ。今度は人間の姿になっても逃げられやしないよ!」
ケイもそれは分かっているのだろう。
今度は人間の姿にならなかった。
両腕の自由を奪われては弓矢も使えない。
いったい、どうするんだ?
「ハピ! マナ! このままじゃケイが……」
「絆、ケイを信じるんだ」
そうは言ったものも、ハピも心配そうに戦況を見つめていた。
目が見えないマナは、耳を澄ませて戦況を感じ取ろうとしているかのようだった。
ハピだってマナだって助けて行きたいに違いない。
だが、傷ついている二人が加勢しても、強敵のラミア相手では、かえってケイの足手まといだろう。
「ほーら、ほーら。もう直ぐ全ての骨が砕けるよおお~~~~」
勝利を確信し、ミアは残忍な笑いを浮かべた。
その時、ケイが僕の方を見た。
目が合った。
苦しそうな顔ながら、ケイが僕を見てわずかに微笑んだ。
口がゆっくり動き、僕にメッセージを伝えた。
その口の形は、こう読めた。
「さ」
「よ」
「う」
「な」
「ら」
――!
「さようなら」だって!?
ケイ、いったい何を言うんだ。
ケイは僕に別れを告げると、笑顔を凄まじい形相に変え、馬の前足で地面を踏んだ。
大地に鈍い音が響いた。
「地団駄踏むほど苦しいかい? ひっひっひっ……」
ミアはケイの動きを苦悶のあまりのものと思ったようだ。
だけど、ケイは何かをしようとして、前足で地面を踏んだのだと思う。
ケイは、再び前足で地面を踏んだ。
再び辺りに鈍い響きが伝わる。
すると――。
ゆっくり、ゆっくりと、ケイとミアの体が下降し始めた。
「ケイ?」
ケイとミアの周囲の地表の形状が、まるですり鉢のようになっていく。
その中央のケイとミアは、アリジゴクの巣の中心にいるかのようだ。
「う? なんだ? ケンタウロス! 貴様なにをした」
「……」
ラミアは叫んだが、きつく締め付けられているケイは言葉を発せられない。
「な、なにが起こっているの?」
音でただならぬ気配を察したマナが、僕らにたずねた。
「ボクが風を……、マナが水を操るように、ケイは大地を操る。ケイは流砂を作ってラミアごと地の底に沈むつもりだ!」
「な、なんだって、そんな! ケイ、だめだ! だめだよ!」
飛び出そうとする僕を、ハピが止めた。
「よせ、絆。今飛び出していったら、絆まで流砂に飲み込まれてしまうよ!」
「しかし、あのままじゃケイが……」
ケイとミアはどんどん沈んでいく。
「ええい、貴様と心中なんて真っ平だ!」
ラミアは、ケイの上半身を縛り付けていた尾をほどくと、脱出しようと体をくねらせた――が。
「うう、か、体がどんどん地中に引きずり込まれる! た、助けて」
ミアは流砂の流れに巻き込まれるがままだった。
「ケイ!」
ケイとミアは……、アリジゴクの底に消えた。
「ケーーーーーーーーーーーーイ!!」




