5.冴の戦い
「私はラミアのミア。掛橋! 命はもらうぞ!」
ミアと名乗ったラミアは、鋭く尖らせた尾の先端を僕に放ってきた。
僕の前に冴が立ちはだかった。
冴がその尾をなぎ払った。
「む……、お前は?」
ミアがちょっと驚いたような顔をした。
冴は両手に鋭い爪を生やしていた。
「ヴァンパイヤか……、近頃のヴァンパイヤは太陽の下でもうろちょろするようになったと聞いたが、本当のようだな」
ミアは、その鋭い尾の先端をこちらに向け、狙いをつけるように揺らしている。
「この掛橋絆は私の獲物だ……。他の者には指一本揺れさせない」
そうなのだ。
僕と冴が初めて出会ったのは、冴が僕の血を吸おうとした時だった。
あの時はケンタウロスのケイが助けてくれたんだっけ。
今は逆だ。
あの時僕を襲った冴が、今度は僕を守るために戦ってくれている。
「ふふん。できるかなヴァンパイヤ? 蛇はしつこいんだよ!」
ミアは、高速で尾の突きを繰り出してきた。
まるでフェンシングのようだが、スピードが段違いだ。
尾の先端が前後に往復しているが、目にも止まらない速さとはまさにこういうのを言うのだろう。
それを冴が同じく目にも止まらぬスピードでなぎ払う。
けど、少しずつ冴は押され、後ずさりしてきた。
「さ、冴!」
「ばか、来るな、離れていろ!」
僕と話をして一瞬スキができたのだろう。
ミアの尾が、冴の顔をかすった。
冴の頬に横一線に赤い筋が走り、そこからゆっくりと血が流れ始めた。
ミアがいったん攻撃をやめた。
「あらら……。ちょっと本気になったら、可愛いお顔に傷つけちゃったわね~~」
ミアは、鋭い尾の先端をこちらに向けてふりふりさせなが余裕の表情だ。
一方、冴の方は、十本の爪の内のいくつかを折られてしまっている。
明らかに戦況は不利だった。
『ケイ、マナ、ハピ、今すぐ来てくれ! 襲われている! 冴が危ない』
僕はカチューシャから、三人のボディガードモンスター娘にSOSテレパシーを送った。
睨み合う、冴とミア。
冴の目が赤く光った。
口には小さな牙が生え、制服の背中を引き裂いてコウモリ型の翼が飛び出した。
「ふうん。あんたも今までは本気じゃなかったって言いたいわけね」
ミアは相変わらず余裕の表情で尾の先端を振っている。
翼をはためかせ、冴が飛び上がった。
冴は上空で体の方向を変えると、翼をすぼめ、片手の爪を繰り出しながらミアに向かって急降下してきた。
「しゃらくさい!」
ミアが、急降下してくる冴に向かって尾を放つ。
冴の体とミアの尾が僅差で擦れ違った。
冴はミアの顔の横をかすめ、その背後に着地した。
ミアの頬に横一線の赤い筋が走り、続いてそこからゆっくりと血が流れ始めた。
「お返しだ」
低い声で冴。
「貴様……」
ミアは長い舌で頬の血を舐めとった。
その顔が怒りに歪んだ。
ミアが再び尾を冴に放った。
「ふん、何度も同じ手を」
紙一重で冴がそれをかわす。
だが、ミアは、今までのように尾の往復をさせなかった。
尾の先端の向きを百八十度変えると、冴の体の反対サイドに回り込ませたのだ。
尾をかわしたと思っていた冴は、予想しなかったその動きに、一瞬反応が遅れた。
上空に飛び上がれば逃れられたのかもしれない。
しかし、横に移動したことで、ミアにチャンスを与えてしまったのだ。
ミアは、そのままあっという間に冴の体に尾を巻きつけてしまった。
「シッポにはこういう使い方もあるんだよ。何度も同じ手を繰り返すと思ったかい? 浅はかだねえ……」
「く……」
冴の顔に苦悶の色が浮かんだ。
「冴!」
僕にはどうすることもできない。
「くっくっく……、ヴァンパイヤ……。このまま全身の骨を砕いてあげるわよ」
ミアは残忍な笑みを浮かべ、冴に巻き付けた尾に力を込めた。
その時、僕の背後から誰かが走ってきた。




