3.テレパシーカチューシャ
翌日、僕は学校の先生に聞いてみた。
名字に「橋」の付く男子生徒は、校内に僕を除いて、あと三人いるそうだ。
一年の本橋、二年の大橋、そして三年の上橋だ。
その日の夜の僕の家のリビング。
夕食を終え、マナとハピは食器の洗い物をしていた。
僕とケイは洗濯物を畳んでいた。
こんなにふうに、我が家の家事は四人で分担している。
僕の両親は仕事で外国にいる。
中学生四人で暮らしているのだ。
昼間は学校に行っているのだから、家事はこうやって夜にみんなで分担して済ませなければならない。
宿題もあるから、なるべく手早く終わらせないと。
洗濯物たたみは苦手だ。
いや、たたみ方のうまい下手じゃなくて、洗濯物をたたんでいると、どうしてもケイ、マナ、ハピの下着が目に入ってしまう。
目の毒だ。
それらは避けて、タオルやら靴下やらをたたむのだ。
「あのさあ、三人に相談があるんだけど」
洗濯物たたみと食器洗いが終わったところで、僕は三人に声をかけた。
「え?」
「なに?」
「相談って?」
ケイ、マナ、ハピとともに、僕はリビングのソファーにかけた。
「先生に聞いたらさ、僕の他にあと三人、うちの学校に名字に『橋』の付く生徒がいるんだ。一年の本橋健児、二年の大橋勇、そして三年の上橋拓也先輩」
「ふうん」
「そうなんだ」
「それで?」
「それでさ……、ケイ、マナ、ハピにお願いなんだけれど……、しばらく、その三人のボディガードをしてもらえないかな……?」
ケイ、マナ、ハピは顔を見合わせた。
「絆君、分かってると思うけど、私たちは――」
「分かってるよケイ。みんなは敵勢力のモンスターに狙われている僕を守るために人間の世界にやってきたボディガードモンスターだってことは」
ケイ、マナ、ハピの三人が、ボディガードとしていつも僕のそばにいるわけはこれなのだ。
「あたしたちがその子たちのボディガードをするということは、絆ちゃんのボディガードがいなくなるということなのよ」
「うん、マナ、もちろん分かっている……」
「今回の通り魔が絆を狙っているのはおそらく間違いない。それが分かっているのに、絆を守らずに他の人間を守るというのは……」
「違うんだハピ、それが僕を守ることになるんだよ、僕の心を」
「絆君の心?」
「うん、ケイ。僕は今、心が苦しいんだ。僕と間違えられて、十人もの人間が襲われている。そしてあと三人さらに襲われるかもしれないという状況にある。僕はその人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。これ以上犠牲者が増えてしまったら、僕の心は罪悪感で押しつぶされてしまうだろう。だから、そうならないように、僕の心を守ってほしいんだ。その三人を守ることで」
ケイ、マナ、ハピは、しばらく顔を見合わせていたが、やがて互いにうなずいた。
「分かった絆ちゃん。じゃあ、その子たちに私たち三人で分担して付くことにするね」
マナが握りこぶしを作って見せた。
「でも、いざという時は、ボクらが直ぐに絆の元に飛んでいく。それこそ文字通りにね」
確かにハピなら、実際に空を飛んで来るだろう。
「だから、絆君はこれをいつも頭に付けていて」
ケイは何やら取り出した。
「それは――?」
カチューシャだった。
四つあったそれを、ケイ、マナ、ハピは一つずつ取って頭に付けた。
「ほら、絆君も早く」
「あ、う、うん……」
ケイに促され、僕はカチューシャを頭に付けた。
『絆君、聞こえる?』
ケイの声が聞こえた。
僕はケイを見た。
ケイは口を開いていない。
『あは、絆ちゃん、驚いた?』
今度はマナの声が聞こえた。
マナもやはり口を開いていない。
にこにこ僕を見つめている。
『絆、このカチューシャは、言葉を使わずに頭で考えたことを相手に伝えることができるんだよ』
今度はハピの声だった。
『それって、テレパシーみたいなもの?』
僕も心で伝えてみた。
『そんなとこね。絆君のSOSテレパシーをキャッチしたら、直ぐに駆け付けるから』
ケイも足が速いから、文字通りあっという間に駆け付けてくれることだろう。
『あーん、あたし、足が遅いからそんなに早く来れないけれど、頑張るからね、絆ちゃん』
『マナもありがとう。僕が無理に他の子のボディガードを頼んだんだから、そんなこと気にしないでね』
『あーん、やっぱり絆ちゃんって優しい~~』
「あ、でもさ……」
僕はカチューシャを外し、肉声で言った。
「このカチューシャ確かに便利なんだけど、男でカチューシャというのもな……」
「でも絆君、カチューシャは別に女の子の物というわけではないのよ」
ケイが言った言葉に、マナも同調する。
「そうよ絆ちゃん。人間の雑誌で見たけれど、ちゃんと男の子でもカチューシャしてるって」
「うん、髪の長い人は男女問わず使うんだよ。ボクの兄さんだって使ってるよ」
「へえー、ハピのお兄さんはカチューシャしてるんだ」
「うん、ロン毛だからね」
ハピのお兄さんだったら、イケメンだろうからカチューシャも似合うかもしれないけど……、別に僕ロン毛じゃないしなあ……。
「絆君」
ケイがじっと僕を見た。
「カチューシャして」
有無を言わさぬ迫力だ。
僕は「はい」と言うしかなかった。
ケイたちは他にもいくつかカチューシャを持っていた。
その中から、黒い細身の、なるべく目立たないやつにしてもらえたのが、せめてもの救いだった。




