【肆】夏祭り妖怪デート<序>
町内の神社の境内で夏祭りが開かれた。
僕は、陸守ケイ(ケンタウロス)、海守マナ(マーメイド)、空守ハピ(ハーピー)の、三人のモンスター娘たちといっしょに出かけた。
僕はTシャツにジーパンといった、普段の恰好だったけれど、ケイ、マナ、ハピはそれぞれ浴衣を着ておめかししてきた。
念のため説明しておくが、三人は普段は人間の姿をしているので、この日も人間の浴衣を着ている。
人馬や人魚、人鳥用にカスタマイズされた浴衣を着ているわけではない。
綿飴を食べながらの、金魚すくいやら、輪投げやら、射的やら……、初めて接する人間世界の日本の夏祭りに、ケイもマナもハピも夢中だった。
「次はあれやろう!」
「これ食べたい!」
三人とも、次から次へとお店をはしごする。
とうとう人混みに紛れて、僕は三人を見失ってしまった。
ま、いいか……。
ここではぐれても、最悪、家に帰れば会えるだろうから……。
僕は、夜店の並びから少し入った林の中にあるベンチにかけて休んでいた。
「お兄ちゃん、迷子なの?」
突然背中から声をかけられ、ちょっとびっくり。
振り向くと、背後の闇の中に一人の女の子が佇んでいた。
白いワンピースを着ている長い髪の女の子。
小学校の三、四年生ぐらいか。
髪で顔の半分くらいが隠され、片目しか見えない。
「い、いや、迷子じゃないよ。君のほうこそ迷子じゃないの?」
「あたし、迷子じゃないよ」
女の子は、とことこと歩いてくると、僕の隣にちょこんと座った。
「人間のお祭りはにぎやかね」
「うん、そうだね」
――と相槌を打ってから、僕は違和感を覚えた。
人間のお祭り?
「まるで自分は人間じゃないような言い方するんだね」
「まあね」
「……」
「お兄ちゃん、におうね」
え、におう?
僕、くさい?
ちゃんと毎日お風呂入っているんだけど……。
あ、でも、今日も暑くて汗かいたけれど、今日はまだお風呂入ってなかったな……。
僕は自分の腕をくんくん嗅いだ。
自分のにおいって……、自分では分からないなあ。
「ぼ、僕、そんなにくさい?」
「におうよ。すごく珍しいにおい……。人間でも、それ以外の者でもない、なんだかすごく不思議なにおいが……」
「な、なんだって?」
何を言っているんだこの子は?
いや、それよりなにより……、この子は、僕が普通の人間じゃないことを――人間とモンスターのハーフであること――を見抜いている!
この子はいったい何者なんだ……?
「絆くーーん、あーー、いたいた」
ケイがやって来た。
「いなくなっちゃったから、心配したよ」
「あーー、ごめん。なんか、はぐれちゃったよね」
「あれ、その子は?」
ケイが僕の隣に座る女の子を見て言った。
女の子はケイを見上げた。
「お姉ちゃんは……、人間じゃないね」
女の子の言葉に、ケイがさっと身構えた。
「何者?」
くっくっくっ……と、女の子は笑うと、顔の半分を隠していた髪を、ゆっくりとかき上げた。
「こういう者です」
「「ひ……っ」」
僕とケイは息を飲んだ。
かき上げられた髪の下には何もなかったからだ。
彼女が髪をかき上げる動作と共に、彼女の見えていた片目が顔の中央に移動し巨大化した。
顔の上半分が巨大な一つ目となり、僕とケイを見上げていたのだ。
「出たあーーーー!!」
ケイは絶叫すると、僕の腕をひっつかんで走り出した。
ケイの余りのスピードに、腕を引っ張られている僕の体が離陸する。
「ケ、ケイ! 腕が! 腕が抜ける~~~~」
夢中で走ってきたケイに引っ張って連れて来られ、着いたのは森の中だった。
辺りは真っ暗だ。
「ケイ、ここどこ?」
「分からない……。夢中で走ってきちゃったから」
「あっちが明るい。夏祭り会場はあっちだよ。早く戻ろう」
「うん、それにしてもさっきの女の子、なんだったんだろう。びっくりしたなあ……」
歩き始めると、ケイが僕の手を握ってきた。
「ケイ?」
「絆君。こわいから手をつないでいてね」
「弱虫だなあ。ケイのほうが僕のボディガードじゃないか」
「だってこわいんだもん」
「あれ? なんか聞こえない?」
「……。確かに。泣き声だね」
えーん、えーんという女の子の泣き声が聞こえてくる。
「こっちだ。行ってみよう」
僕とケイは、声のするほうに歩いていった。




