四、ジョギングで大騒ぎ3
しばらく行くと……。
何やら前方に人影が。
大きい影が二つと小さい影が一つ。
小さい影は――さっきも見かけた普見蘭だった。
大きい二つの影は……。
僕はその二つの影に見覚えがあった!
一人はツンツン尖った針山のようなヘアスタイル。
そしてもう一人はロン毛。
なんとこの二人は、先日プールでケイをナンパしようとしてケイにぶっ飛ばされた、あのガラの悪い連中だった。
「君、可愛いじゃん。俺たちといっしょに走らない?」
「い、いえ……、私、あの……、もう帰るところなので……」
「そう? 奇遇じゃん。俺たちも今帰るとこなんだ。奇遇だよねーー。じゃあ、いっしょに帰らない? 俺たちんちへ」
「あ、あの、でも、私……」
ツンツン頭とロン毛が、例によってあの下品な笑い方で代わる代わる普見蘭に声をかけていた。
進路をふさがれて、蘭は困っている。
「マナ、あいつらだよ。こないだ話した、ケイをプールでナンパしてきた連中」
「えっ、そうなの? でも、蘭なら問題ないでしょ。怪力でぶっ飛ばしちゃうわよ」
マナの言う通り、見かけは小柄でおとなしそうな女の子だけれど、普見蘭の正体はフランケン。
モンスター体のときは身長が倍の三メートルくらいになるのだ。
人間体のときでも、それなりの力はもっているだろうから、あんな連中その気になれば屁でもないだろう。
「ほら、行こうぜ」
ツンツン頭が、普見蘭の腕を取って強引に引っ張った。
「あん」
前によろめく普見蘭。
そのままロン毛の胸に倒れ込むようになる。
「あらあら積極的じゃーん。じゃあ、そろそろ行こっかあーー」
ロン毛がにやにや笑いを浮かべて普見蘭の背中に手を回す。
「マナ、なんか普見さんの様子おかしくないか?」
「うーん、言われてみればちょっとヘンかも……」
男二人は、普見蘭を挟むようにして強引に連れて歩き出した。
「マナ、やっぱり変だよ」
僕は言うと同時に走り出していた。
背中から、マナの「絆ちゃん」と言う声が聞こえた。
「おい、おまえら待てよ」
僕の声に、連中の歩みがぴたりと止まった。
「あん、なんだあ?」
凶悪に歪めた表情でツンツン頭とロン毛は振り向いた。
「げ! おまえは?」
連中は僕の顔を覚えていたようだ。
ツンツン頭が驚いた様子を見せた。
――が。
「あれ~~? でも、こないだの凶暴女はいないのかな~~」
周囲を見回し、ケイがいないことを確認すると、ロン毛が凶悪な表情に戻って僕に近づいてきた。
「おい、クソガキ! こないだはよくも痛い目にあわせてれたな」
ロン毛が僕の胸倉をつかんだ。
「ちょっと、やめなさいよ!」
「あんだと――、おや?」
僕の後からやってきたマナに気づいたロン毛は僕を離すと、さっさとマナに近づいた。
「なんだなんだ~~。クソガキのくせに、また可愛い子連れてんな~~」
ロン毛がマナの肩に触れようとしたが、マナがぴしゃりとその手を払った。
「――ってえな! 何しやがる、このアマ!」
ロン毛がマナに乱暴に掴みかかろうとした。
そのとき、甲高い歌声が響いた。
マナが突然歌い始めたのだ。
以前、プールでも聞いた人魚の歌。
ロン毛は、ふにゃ~~などと言いながら、その場にばたりと倒れてしまった。
「な、なんだ?」
普見蘭を掴んでいたツンツン頭が、再び驚いた様子を見せた。
先日のケイに続き、マナもまた只者ではないことに気づいたのだろう。
ま、気づくのが遅かったけどね。
マナは、ツンツン頭に向かって歌声を放った。
ツンツン頭もまた、へにゃ~~などと言いながら、その場にへたり込むように崩れてしまった。
ロン毛もツンツン頭も、いびきをかいて眠ってしまっていた。
「マナ、これは?」
「ただの催眠術よ。私の歌で眠らせただけ」
「そうだったのか」
僕は普見蘭に向き直った。
「その……、普見さん、大丈夫?」
普見蘭は、目に涙をいっぱいためていた。
「う……、あ、あの……、その……、ありが……と……」




