四、ジョギングで大騒ぎ2
次は、足を開いて地面に座り、体を前に倒す。
マナは体が柔らかい。
両足は百八十度開くし、ぺたーーっと上半身が地面に着くのだ。
僕が背中を押してやるまでもない。
「じゃ、交代ね」
「う、うん……」
この運動はいつも僕は気が進まない。
僕は体が固いのだ。
「はい、息を吐いてーー」
マナが僕の背中を押す。
「い、い、いでででででーー」
「これしかイカないの? カタいな~~」
「じゅ、柔軟体操は、無理矢理やっちゃいけないんだよ。お、お、お、」
「なに? おっとせいのまね?」
「お、お手柔らかに頼む~~」
「じゃあ、ゆっくり押してあげるから」
マナは僕の背中に自分の上半身を密着させるとゆっくり体重をかけてきた。
あ……。
なんだか、背中にやわらかいものの感触が……。
い、いかん、健全な男子中学生であるこの僕が、ふしだらなことを考えては……。
――て。
「マ、マナ! 痛い、痛い!」
「この程度で? もうちょっとイカないの?」
「む、無理です~~」
マナは僕の背中から離れた。
やめてくれたのか。
ほっ。
――と、安心できたのはわずか二秒。
むにゅ。
さっきとは別の柔らかな感触が背中に。
その感触は僕の背中を押して、一気に僕の上体を地面に倒さんとする。
マナが後ろ向きになって僕の背中に腰かけるみたいに座っているのだ。
「ほらほら~~、絆ちゃん、ガンバレ~~」
「ひ~~、マナ! やめて! ホントに! マジに! ひぬ! ひぬ~~!」
でもマナはやめてくれなかった。
マナがお尻をどけてくれるまで、時間にしたら三十秒ぐらいだったんだと思う。
だけど、僕にはそれが永遠の三十秒に感じられた。
無理矢理開きすぎて、足の内側の付け根がじんじん痛い。
「ほーーら、絆ちゃん、結構倒せたじゃない」
「もうーー、ニろと、やめちくれ……」
僕は地面にうつ伏せに倒れたまま動けなくなった。
「あれ?」
「……」
「ねー、ねー、絆ちゃん」
「……」
「絆ちゃんってば!」
「どうしたんだよ。今、僕は強制柔軟体操のダメージから一生懸命回復してるとこなんだぞ」
僕は地面に突っ伏したまま、顔を上げなかったのだけれど、
「普見蘭だよ」
のマナの言葉で、
「え?」
と、体を起こした。
マナが指差した方を見ると……。
向こうに、トレーニングウェアを着た、日本人形みたいなおかっぱ頭の小柄なおとなしそうな印象の女の子が走っているのが見えた。
間違いない、普見蘭だ。
「ほんとだ、普見蘭だね」
「普見蘭も、走る練習しているのかな? 絆ちゃん」
「まあ、マナより足遅かったし……。彼女は彼女なりに努力の必要を感じたんじゃないかな?」
「あたしより足遅かったって、どういう意味よ」
「な、なに、言ってんだよ。マナは足が速かったって、ほめたんだよ」
「え、そ、そーだったの? やだもー、絆ちゃんたらーー。照れちゃう~~」
マナはまあるいほっぺに両手をやり、体をくねくねさせてはにかんだ。
こういう動作が、なんか魚っぽい。
さすが人魚だ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかマナ」
「うん絆ちゃん。帰りはいっしょに手つないで帰ろ」
「何言ってんだよ。帰りもジョギング!」
「えーー」
マナは、ほっぺをぷーとふくらませた。
丸顔がますます真ん丸になって可愛い。
「さ、行くぞ」
僕は走り出した。
「あん、待ってよーー」
マナのペースに合わせてゆっくり走る。
「絆ちゃん、おなか空いちゃったねーー」
「ジョギングの帰りは、マナはいつもそれだな」
「だって走るとおなか空くじゃない」
あんまり食べると太るぞ――などとは僕は言わない。
マナのスタイルは――、その、よく言えばトランジスターグラマーだ。
ケイやハピに比べると、ちょっとぽっちゃりしている。
そこがまた可愛いんだけどね。




