三、プールで大騒ぎ4
結局ケイはそれからずっと眠り続けてしまった。
プールの終了時刻が近づいたので、ケイを起こしたが、寝ぼけた感じでどうにもしゃきっとしない。
肩を貸すようにしてやっとこすっとこ歩かせ、更衣室の入り口まで行ったけど……、弱ったな、女子更衣室じゃ入れないじゃないか。
困って立ち往生していると、後ろから「おい」と声をかけられた。
その、可愛いけれど凄みのある女の子の声に振り向くと……、立っていたのは黒髪のツインテールの女の子、血祭冴。
僕の命を狙う――でも僕は不死の能力があるから死なないもーん――正体はヴァンパイヤの女の子だ。
血祭冴は黒のビキニを着ていた。
さすがに彼女もスクール水着では来なかったんだな。
「血祭冴……」
「人前でずいぶんくっついているもんだな」
僕がケイを支えるようにして立っているのがそう見えたのだろう。
「い、いや、そうじゃないよ。ちょっと、ケイ気持ち悪くなっちゃってさ……。血祭さんは……、その……、一人で来たの?」
「そうだ。いけないか」
「ううん、全然いけなくないけど……」
ここで顔見知りに会ったのは天の助けか……。
敵の血祭冴だけれど、これは頼んでみるしかない。
「あ、あのさ……、血祭さん、お願いがあるんだけど」
「お願いだと……」
血祭冴が意外そうな顔をする。
「ケイが着替えるのを助けてくれないかな……、ほら、彼女いま、こんなだし……」
「断る。なんで私がそんな面倒くさいことをしなければならないのだ」
「じゃ、じゃあ、せめて、ケイの服をロッカーから出してやってくれない? そうしたら、更衣室から出たところで僕が服をケイに着せるから……」
「……」
「ダメ……かなあ?」
血祭冴は、僕にずいっと近寄ってきた。
「掛橋絆、いいのか? ケンタウロスは今、動けない。それをいいことに、私がこいつをぼこぼこにするかもしれないのだぞ」
血祭冴は、値踏みするように僕の顔をじっと見てる。
その真っ黒な瞳に吸い込まれそうだ。
「血祭さんは、そんなことしないよ。だって、今までだって僕のこと何度も助けてくれたじゃない」
「……」
血祭冴は横を向いた。
夕焼けのせいだろうか。
その頬が少し赤く見えた。
血祭冴は、手のひらを僕に向けて出した。
「?」
「カギ」
「え?」
「こいつのロッカーの鍵を寄こせ」
「じゃ、じゃあ、頼まれてくれるの?」
「一回貸しにしておく」
「あ、ありがとう、血祭さん」
僕はケイの手首からロッカーの鍵を外し、血祭冴に渡した。
血祭冴はケイに肩を貸して歩かせながら、二人で女子更衣室に入っていった。
僕も大急ぎで着替え、男子更衣室を出た。
少し遅れて、血祭冴とケイが出てきた。
ケイは服を着ていた。
ケイは、まだなんだか、酔っ払っているんだか寝ぼけているんだか、しゃきっとしない。
「あ、ありがとう。服、着せてくれたんだ」
「水着の上からだがな。乾いていたので問題ないだろう。この中にこいつの下着が入っている。中を見て確認しろ」
「あ、ありがとう」
僕は血祭冴からケイのプールバッグを受け取った。
中の確認はしなかった。
だって、女の子の使用済み下着の入ったバッグの中を覗くなんてヘンタイチックなこと、できるわけないじゃないか。
「じゃあ、私は行く。貸しだからな」
「ね、ねえ、いっしょに帰らないの? 同じ駅でしょ」
「いい。一人で帰る」
夏なのに黒のワンピースをまとった血祭冴は、背中を向けて歩き始めた。
「あ、ありがとう、血祭さん」
僕はその背中に叫んだ。
「――っていうことがあってさ、たいへんだったんだよ」
自宅に戻り、その日の夕食を僕、ケイ、マナ、ハピの四人で食べているとき、僕はプールでの出来事をみんなに話した。
「うそーー。ほんとにーー。全然覚えてないなーー」
実は電車の中でもケイはずっと寝ていたのだが、降りる駅が近づくころ、ぱっと目を覚まし、うそみたいに元通りになったのだ。
「じゃあケイったら、せっかく絆ちゃんとお出かけしたのに、ほとんど寝ていたのね」
「絆の話によると、どうやらコーラかキャロットジュースのどっちかに、ケイが酔っ払ってしまった原因があるようだな」
「うん……。だから、ケイはもうキャロットジュースもコーラも飲んじゃだめだよ。酔っ払っちゃうから」
「えーーーー? おいしいのにーー」
ケイは心底困ったような顔をした。
「あとさ、今度血祭冴に会ったら、ちゃんとお礼言ってね」
「うーー、分かった……」
ケイは、そこのところはちょっと不満そうだったけれど、世話になったのは事実なんだから、ちゃんとお礼は言わないとな。
そういえば、血祭冴は、「貸し」と言っていた。
この借りはどうやって返せばいいのかな?
まさか僕の血を吸わせるわけにはいかないし……。
どうしたものだろう?




