12.総力戦
五人が僕を囲んで戦ってくれている。
ケイやマナは分かるけど、なぜ、血祭冴や普見蘭、そしてさっきケイと戦ったばかりの大神浪子までが僕のために戦ってくれるのか。
セイレーンの一匹が僕に向かって蹴りをしかけてきた。
鋭い鉤爪。
痛そうーー!
それをはばんでくれた者がいた。
血祭冴だった。
冴の両手の十本の爪が、セイレーンの鉤爪の蹴りを払ってくれたのだ。
「な、なぜ僕を守ってくれるんだ?」
僕は叫ばずにはいられなかった。
冴の答えは、普見欄から僕を救ったときと同じだった。
「別に守ったわけじゃない。
お前を殺すのは私だからだ」
普見蘭と大神浪子がセイレーンから僕を守ってくれているのもまた、同じ理由からだろう。
――自分が僕を殺すために、今は僕を守ってくれている――。
でも、理由はどうあれ、今、彼女たちが、僕を守るために体を張って戦ってくれているのは事実なのだ。
そしてそれは、いつか単独で僕の命を奪うため。
ありがたいけどありがたくないような……。
でも今はとにかく僕のために戦ってくれている。
……あ、そうだ。
水中でこそ本領を発揮するであろう、マナはどうやって戦っているのだろう?
僕は闘いの中からマナを探した。
いた!
マナは、人魚の下半身をJの字にして立っていた。
そして何やらオーケストラの指揮者のように両腕を振っている。
「おお!」
なんと、破れた体育館の窓から吹き込む大量の雨粒が、マナが指揮者のように動かす手に操られて、細い矢のようになり、セイレーンたちを攻撃しているではないか。
マナは念力のような力で水を操ることができるのだ!
ケイは、後ろ足の蹴りと、弓矢で戦っていた。
血祭冴は、爪を振るい、黒マントをコウモリの翼のように大きく広げてセイレーンたちと空中戦を展開していた。
普見蘭はその強大なパワーで、そして大神浪子は牙と手足の爪で、それぞれ戦っていた。
ケイもマナも冴も蘭も浪子もみんな強い!
五対二十なのに互角の戦いだ。
だけど……、やはり人数差はいかんともしがたい感じだ。
セイレーンを十匹までは戦闘不能にしたのだが、その時点で五人も傷だらけだった。
なのに、五人は僕を取り囲んで戦ってくれている。
セイレーンが十匹固まった。
「ち……、さすが送り込まれた精鋭だけのことはあるね……。
ちょっとなめていたよ」
こちらもまた同じく傷だらけになっているリーダーのセイレーンが言った。
「私たち十体そろっての歌声で、地獄に落ちるがいい!」
セイレーンたちがいっせいに口を開いた。
脳髄をえぐられるような、それでいて心地よいような、異様な感触が脳内に響き渡った。
僕だけじゃなく、ケイ、マナ、冴、蘭、浪子の五人も頭を抑えてうずくまる。
「ほほほほ……、私たちが本気になればこんなもんさ」
九匹のセイレーンたちが歌い続ける中、リーダーのセイレーンが僕に歩み寄ってきた。
「掛橋絆……、命をもらう」
リーダーのセイレーンが片足を上げ、その鋭い爪で僕の頭部をつかもうとした。
今度こそ万事休すか?
その時!
ひときわ強い風が吹いた。
体育館の屋根に、さらに大穴が開いた。
そこから暴風大雨が吹き込んでくる。
ギャーー!!
悲鳴を上げて、セイレーンたちが吹き飛んだ。
暴風大雨に紛れて、何者かが飛んできた。
その者は、僕ら六人の前に立ちはだかった。
下半身は鳥、そして上半身は人間の女性だった。
またもセイレーン?
いや、違う。
その裸の背中に羽は無かった。
代わりに、両腕が巨大な翼になっている。
両腕の代わりに、セイレーンをも上回る巨大な翼を彼女は持っていた。
髪は金髪のさらさらストレート。
「き、君は……?」
僕の言葉に、彼女はこちらに横顔だけ見せると笑顔で言った。
青い瞳。
「僕はハーピー。
掛橋絆、君を守る最後のボディガードよ」
「ハ……、ハーピー?」
立ち上がりながらケイが言った。
「ケンタウロス、マーメイド、遅くなってごめんね。
それと……」
ハーピーは、冴、蘭、浪子を見た。
「なんで、ヴァンパイヤ、フランケン、人狼が一緒に戦っているのかは知らないけど……、とりあえず、今はセイレーンどもを倒すのが先ね」
ハーピーに吹き飛ばされていたセイレーンたちが体を起こした。
リーダーのセイレーンが叫んだ。
「おのれ……、我らセイレーンの永遠のライバル、ハーピー。
ここで会ったからにはただではおかない」
「ふん、群れて歌うだけのおまえたちなんかに負けないわ!
僕は嵐を司るのよ!」
ハーピーはその巨大な翼を羽ばたかせると、大風を起こした。
ギャー!という叫びで、セイレーンたちが体育館の壁や天井突き破り外に放り出された。
ハーピーの翼の一振りによる大風で、セイレーンたちは一匹残らず姿を消してしまったのだ。
なんというパワー。
僕も、ケイ、マナ、冴、蘭、浪子も、あっけにとられていた。
もはや体育館に屋根はほとんど残っていない。
吹きっさらしだ。
セイレーンたちの歌声により意識を失って倒れている先生、生徒たちもずぶ濡れ。
きっと何人も風邪を引くんだろうな……。
「ハーピー、この嵐は君の仕業なのかい?」
僕はハーピーに問いかけた。
ハーピーは僕の方に体を向けた。
青い瞳に金色のロングヘアー。
上半身は人間で、下半身は鳥。
そして、その下半身は、長い尾と、鋭い鉤爪を備えた両足となっていた。
両肩から生えているのは、腕の代わりに巨大な翼。
頭部と腕を除く上半身は人間の姿。
そして、ケイやマナと同様、その上半身は何も身に着けておらず、胸はその長い金色のストレートの髪で、危なっかしく隠されていた。
「違うよ、掛橋絆。
この嵐は、単なる気象現象だ。
ただこの大規模な大嵐を、あのセイレーンどもが妖力で増幅させて利用していたのは事実だけどね」
「君も人間の姿を持ってるの?」
「ああ、僕も人間の姿をもっている」
ボワンという煙が出て、ハーピーは人間の女の子の姿になった。
やっぱりうちの中学の制服を来ていた。
髪の長さは変わらない。
容貌は外国人の美少女みたいだけど、普通に日本語で話をしている。
「僕は空守ハピ。
みんなと同じ中学二年生だよ。
よろしく。
本当は明日転校してくる予定だったんだけど、妖しい気配がびんびんに感じられたので、文字通り飛んできたというわけさ」
一人称が「僕」の、空守ハピと名乗ったその女の子は、右手を差し出した。
人間体のときのマナに足があるように、人間体のハピにはちゃんと腕があるんだな。
僕もその手を握り返した。
「陸守ケイ。
ケンタウロスよ」
僕のかたわらにいたケイが、その上に手をのせた。
「私は海守マナ。
マーメイドね」
マナがさらにその上に手をのせた。
「じゃあ、これで陸・海・空せいぞろいというわけか」
ハピがそう言って微笑んだ。
ケイもマナも笑った。
僕も笑った。
そして――。
そこで記憶が途絶えた。
ここからは、後からケイに聞いた話をもとにしての内容になる。
四人で握手したあの時、僕は後ろから体を貫かれた。
いなくなったと思ったリーダーのセイレーンが背後から飛来し、僕を襲ったのだ。
僕は後ろから心臓を貫かれ、即死だったそうだ。
ケイ、マナ、ハピが、ただちにセイレーンに反撃しようとしたのだが、セイレーンは逃げてしまった。
既に僕はこと切れ、脈は無くなっていたそうだ。
心臓を貫かれたのだ。
脈があるはずがない。
三人はすぐさま僕を、僕の家に運んだ。
彼らがモンスター界から持ってきていた、いろいろな秘薬を試したそうなのだけれど、僕は生き返らなかった。
三人は悲嘆にくれて泣き明かした。




