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第9話:スポットライト

スラムの劇場街の中でも最も大きい劇場。デウスが率いる組織「劇団」がアジトにしている廃劇場である。

その中にあるステージ上で、デウスが狂ったように歩きまわっていた。


機嫌が悪い原因は明白だ。ネットでは連日スカーレットをヒーロー扱いするニュースが流れ、デウスはスカーレットに負けた小悪党、デウスの時代は終わったという論調ばかりだからだ。


「認めません……!私の舞台を……あんな無粋なガキに……しかも世間はスカーレットを支持しているだと……」


デウスの放つ《SHOCK》の能力が空気を震わせ、周囲の豪華な調度品が目に見えない衝撃でひび割れていく。


「座長、そんな怒んないでよ」


2階の観客席から声がかかる。ひょろりと長い手足を持つ、痩せ型の男。上下タイトな漆黒のラバースーツを着た姿はまるで舞台の黒子のようだ。


ただし、ラバースーツの上から、照明機材のベルトのように、いくつものレンズや予備パーツがぶら下がっている。近くで見ると主張が激しい服で、やはり劇団のメンバーでデウスの手下だと再確認する。


「…スポットライトですか。何か言いたいことでも?」


2階にいた男の名はスポットライト。タイムキーパーと同じく、劇団の幹部の一人だ。ライナと同じJOYの覚醒者。


「あんなパワーだけのヤツ、ボクにかかればすぐ殺せるさ。ボクに任せてくれない?」


「…いいでしょう。今回はアナタに任せます。くれぐれも油断しないように。失敗すれば、その目玉を劇場の照明に加えてあげますからね」


「やったね~、ま、見ててよ、すぐに世間の注目は座長に戻ってくるさ!」


デウスがプレッシャーをかけても、スポットライトは飄々としている。

プレッシャーを感じないのか、自信満々なのか、ネジが1本抜けているのか。あまりにも掴みどころのない男だ。


何人かの手下を連れて、スポットライトは街に出ていった。


「……あんな軽薄な男に任せて大丈夫か、デウス」


柱の陰から、漆黒のロングコートを纏った男が姿を現した。


……左目に傷の男だ。


「おや、アナタも来ていたのですか」


デウスは意外そうに言ったが、それほど驚いた様子はない。

やはりデウスと左目に傷の男は繋がっていたようだ。


「必要なら手を貸すが?私にとってもあのスカーレットというのは興味深い存在だ」


「必要ありません。スポットライトなら確かにスカーレットを仕留められるかも。ま、死んだらその時はその時です」


幹部にすら冷酷にそう言い放つデウスと、それを聞いても全く表情を変えない左目に傷の男。

かつて栄華を誇った、豪華な廃劇場の中は、異様な雰囲気に満たされていた。


数時間後、中央街区にあるとある宝石店。その宝石店は、スポットライトの手下達に占拠されていた。


ライナ率いるセラフの部隊が、店舗を完全に包囲しているが、例によって大量の人質をとっているため迂闊に手を出せない。


「突入まで、あと30秒。……カイ、準備はいい?」


ライナは通信機越しに、店舗の真下の地下道に潜伏するカイへ問いかける。


「……あぁ、OKだ」


カイの返答は短い。このコンビでの活動も、だいぶ慣れてきたようだ。


「3…2…1…ゼロ!」


カウントと同時に店内のタイルが爆ぜ、緋色のオーラに包まれた漆黒のコートが宝石店に躍り込む。


ライナからの指示で人質や手下どものおおよそのは把握している。

床に着地後、緋色のオーラの走る目で素早く周囲を見回し、まずは手近なところにいた手下に一撃食らわせる。


「スカーレットだ!スカーレットが来てくれた!」


人質から歓声が上がる。


「出やがったな、スカーレット、食らえ!」


ガガガガ!


手下達がカイに銃撃を加える。

自分を狙わせて人質が射線に入らないように誘導しつつ、カイは銃撃を躱し、さらに手下を1人叩きのめした。


『今回の犯人はあと3人よ。人質に犠牲が出ないように注意してね』

「分かってる」


銃撃を躱しながら手下の1人に飛び蹴りを食らわす。その反動で天井近くまで飛び上がりつつ、体を捻って反対側の壁際にいた手下にも空中からかかと落としを決めた。


「く、くそ…!」


最後の1人がマシンガンのマガジンを入れ替え、狙いをつけようとした時にはもう遅かった。いつの間にか目の前に来ていたカイが銃身を掴んでぐにゃりと曲げ、手下の横っ面に掌底を食らわす。最後の1人もそれで力尽きた。


人質達の歓声。

カイもそこで一息ついた。


『終わったみたいね、お疲れ様』

「人質にケガは無さそうだ」

『了解。そろそろ突入するわ、現場を離れて』

「分かった」


戦闘も終わり、一息つき、脱出のためWRATHの能力を抑えようとした、その時。

ライナの「共鳴」が凄まじい殺気を探知した。


『伏せて!!!』


――ガアァン!


一閃。カイが反射的に床に伏せた直後、彼の後頭部があった場所を、弾丸が貫通した。弾丸は厚い金庫の壁を抉り、鈍い音を立てる。


「……っ、スナイパーか!」


数百メートル離れたビルの屋上。スポットライトはスコープ越しに、薄ら笑いを浮かべながら獲物…スカーレットの動きを視ていた。

スポットライトの共鳴能力はライナのように全方向にドームのように広がるものではない。

それこそスポットライトのように、レーザービームのように、細くまっすぐ伸びる形だ。

共鳴範囲が狭い代わりに、射程距離は長い。


共鳴により、スポットライトは相手の感情や状況を読みながら狙撃ができるのだ。スカーレットが手下を倒し、一瞬気を抜く…その瞬間を狙って撃てる。まさしくスナイパーのための能力と言える。


「信じられない……今のを避けるんだ?なら、次は……」


スポットライトはニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、ライフルに次の弾を装填した。


場所は戻って、現場の宝石店。

ヒーロー、スカーレットによって救出されたと思っていた所へ、スポットライトの狙撃。人質達はパニックになっており、ライナ達は事態の収集に追われていた。


「……チッ、逃がすかよ」


カイは窓を飛ぶち破り、弾丸の軌道を逆算してスナイパーの方向に向けて飛び出した。背後でライナが「待ちなさい!」と叫ぶが、今のカイには聞こえていない。

…このスナイパーは、危険過ぎる。


「ホントにもう、あのバカ…!」


ライナが現場を離れるわけにはいかない。だが、相手の正確な位置も分からず突撃するのは危険過ぎる。


周囲の地図を確認し、殺気を感じた方向と距離、着弾の角度からスナイパーの位置を割り出し、カイに通信する。


『スナイパーは宝石店から200メートル離れたエースビルの屋上にいるはず。もう今更止まらないだろうからぶっ飛ばして来なさい!』


「任せておけ」


数分後。カイは狙撃地点であるエースビルの屋上へ到着した。

狙いを付けにくいよう飛び回りながら近づいたとはいえ、2発目が来なかったのはなぜなのか。1発撃ってもう移動したのかも知れない。カイは警戒を解かずに周囲を見回す。


だが、そこで彼の目に飛び込んで来たのは、ひしゃげたライフルの残骸だった。


「……何?」


ライフルの傍らには、喉元を巨大な手で掴まれ、無残に宙に浮いている男――スポットライトの姿があった。


「……コソコソと小細工を。スポットライト、キサマもこれで終わりだ」


スポットライトをゴミのように放り捨て、その男はゆっくりと振り返る。

軍服を隙なく着こなした岩のような巨躯。すべてを凍りつかせるような三白眼。


彼がそこに立っているだけで、空気の密度が変わり、肺が握りつぶされるような《FEAR:恐怖》のディープ・パープルのオーラが屋上を支配した。


「FEAR部隊長……ガブリエル」


カイは低く構える。


「……お前、スカーレットか。なぜここに来た?」


夜風が吹き抜け、ガブリエルのオーラが、カイの肌を刺す。


「まぁいい。私の目の前に来た以上、処分する。お前たち、コイツを押さえておけ」


ガブリエルの背後から、ガブリエルの部下が現れスポットライトを拘束する。


誰もいない屋上で、カイとガブリエルが対峙した。

【第1部 毎日更新中】

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