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第8話:舞台荒らし(後編)

対峙する、カイとデウス、そして、デウスの手下達。

悪趣味な舞台を邪魔されたデウスが甲高い声を上げる。


「何者か知りませんが、私の最高の舞台に乱入してくるなんて!しかも丸腰で何ができると言うのですか!」


次の瞬間、カイがWRATHの能力を全開にする。全身から緋色のオーラが立ち上った。


「え、あの仮面…」

「それに、あの緋色のオーラ…」

「スカーレットだ!スカーレットが私たちを助けに来てくれたんだ!」


人質達が一気に希望に満ちた目でカイを見る。加えて、感情スキャン装置もSHOCKのアラートからWRATHのアラートに切り替わる。

それはまるで、先ほどまでデウスが中心だったこの銀行内の注目が、全て後から現れたカイに集まったかのようだ。


自己承認欲求の塊であるデウスが、さらにヒステリックに叫ぶ。

「キイィィィー!なんなのですか、アナタは!私の舞台で、私より目立つ者がいていいわけが無いでしょう!!皆さん、アイツを殺しなさい、今すぐ!!」


デウスの裏返った金切り声が響くと同時に、デウスの手下…劇団員たちがカイに一斉に銃口を向けた。


「…チッ」


一気に距離を詰め、手下2人を叩き伏せる。


『…右!』


カイと共鳴し、状況を把握しているライナの鋭い指示が耳の奥で響く。

カイが右を見た直後、数条の火花が銀行内を走った。


ガガガガガッ!


カイへ凶弾が放たれた…と、思いきや、

発砲直前、一気に距離を詰めたカイが銃身を掴み、銃口をそらしていた。銃弾は全て、天井に向けて発射され、壁や天井のシャンデリアを破壊した。


「クソ、離しやがれ!」


銃身を掴まれた手下は慌ててカイの腕を引き剥がそうと力を込めるが、カイが手首を捻ると逆に銃身で頭を殴られ、その場で崩れ落ちた。


『劇団員はあと5人よ!』

「了解」


縦横無尽に飛び回り、次々に劇団員を叩きのめしていくカイ。

劇団員の悲鳴と、人質達の歓声が銀行内に響き渡る。当然、デウスの方を見ている人質は一人もいない。


「ああぁ、もう…なんなのですか。なんなのですか!」


デウスは明らかにイラつきを抑えられないようだ。


「スカーレット、頑張って!」


人質の1人が、カイに向かって声をかける。


「キイィィィー!お黙りなさい!!」


イラつきが頂点に達したデウスが、フリントロック式銃を人質に向ける。


「………!」


ダンッ!


それに気付いたカイが、間一髪銃と人質の間に割り込んだ。

見た目は骨董品のようなフリントロック式銃だが、威力についてはかなり改造されているようだ。

漆黒のロングコートの背中部分が銃弾を受け、火花を散らすが、貫通はしない。最新の防弾繊維が衝撃を最小限に抑え込み、弾丸はその場でポトリと落ちた。……が、カイの体にもかなりの衝撃が伝わる。


「……なるほど。これは過信し過ぎると危険だな」


骨や内臓に損傷までは無いようだが、ドスンと響くダメージがある。1発だからよかったが、何発か食らうかもっと強い銃だったら動けなくなっていただろう。


『だからそう言ったでしょ。動きやすさを考えるとそこまで防弾性能は上げられない。あくまでも補助的なもの。でも、役に立ったじゃない?』

「そう……だなッッ!」


カイがWRATHの力を足に込める。

床のタイルが爆ぜ、漆黒の影が最短距離でデウスに向けて突っ込む。


「お、おのれ……!」


デウスがタクトを振る。

強烈な光がカイの視界を奪い、顎に叩き込まれるハズだったパンチをそらした。


「くっ…」


視界を取り戻したカイが周囲を見回すと、3人のデウスに取り囲まれていた。


「なに!?」


3人のデウスはそれぞれが違う動きをしている。スピードで作った残像といったモノではなさそうだ。


「おや、どうしたのですか?酷く動揺されてるようですねぇ…」

「先ほどまでの余裕はどこに行ったのですかぁ?」

「やはり私の方が優秀なようですねぇ~」


それぞれが勝手にしゃべるので、ただでさえ耳障りな声がさらに耳障りだ。イライラするカイに向けて、3人のデウスが同時に銃を放つ。カイは瞬時に飛び上がってその場を離れ、壁に指を突っ込んで体を固定した。


「なんだアイツ、分身しやがったぞ!?」

『SHOCKの能力ね。光は撹乱能力でしょ、他にも分身とか、色んなフェイクを使ったり、相手をおちょくるような能力が多いのよ。それにしてもあそこまでハッキリと、しかも2体も分身を出せるなんて…やっぱり並の能力者じゃ無さそうね』

「どうしました?私を捕まえるんじゃなかったんですか?」


ダメージは無いとはいえ、スカーレットがデウスに退けられ、人質たちから悲鳴が上がる。再び自分が中心になり、途端に上機嫌になるデウス。


「ホホホ、どうしました?そのまま逃げるおつもりで?」

その時だった。

「ボス、時間です」


冷徹な声が、デウスの背後から響いた。

あれほど傍若無人にふるまっていたデウスの動きが、まるで見えない鎖で繋がれたようにピタリと止まる。


「タイムキーパーですか。これから私があの無粋な乱入者に鉄槌を食らわせる見せ場なのですが……」

「撤退の時間です。WRATHのアラートに切り替わって、セラフの突入が早まった。ここが限界です」


カイの視界に、デウスの影から染み出すように現れた、隙のないスーツ姿の女性が映る。

タイムキーパー。劇団のNo.2で、デウスの右腕とも呼ばれている。

完璧なまでの漆黒のビジネススーツに身を包み、白シャツの襟元は最上段のボタンまで厳格に留められ、そこには銀色の細いタイバーが、冷徹な理性を誇示するように光っている。


顔立ちは整っているが、色素の薄い肌と、一切の感情を排した三白眼さんぱくがんが、彼女を人間というよりは精密なアンドロイドのように見せていた。

ブロンドの髪は一筋の乱れもなくタイトなシニヨンにまとめられ、袖口からは文字盤が複雑な歯車を露出させた腕時計がのぞく。その秒針が刻むチク、チクという正確な音が、騒乱の銀行内で、そこだけが別の時間に支配されているかのような錯覚をカイに抱かせた。


劇団がここまで大きいレッカー組織になったのはデウスのカリスマ性が大きいが、目立ちたがりで気分屋のデウスがここまで捕まらずにいるのは、タイムキーパーの働きに寄るところが大きい。


「逃がさん……!」


カイが地面を蹴るが、タイムキーパーと目が合った次の瞬間、カイの感覚が数秒だけ歪んだような奇妙な感覚に陥る。三半規管を狂わされたような、吐き気を伴うような感覚だ。


体勢を立て直した時には、デウスとタイムキーパーの姿は、銀行の奥へと消えていた。……デウスはまだ何かを喚いていたが。


「……チッ、逃がしたか」


そこへ、ようやくセラフの突入部隊の気配が近づいてくる。


『カイ、深追いは禁物よ。ドローンが集まってくるわ、今のうちに消えなさい!』


ライナの指示に従い、カイは漆黒のコートを翻して、天井の通風口から夜の闇へと姿を消した。


数時間後。ライナの部屋。

追っ手とドローンを振り切り窓から音もなく着地したカイを、ライナがエナジードリンクを片手に出迎えた。


「お疲れ様。本部に『デウスの事件があんなに早期解決するなんて』って褒められちゃったわ。今後もよろしくね、スカーレット君?」


カイは無言でマスクを脱ぎ、ボサボサになった髪をかき上げた。

コートには、デウスに撃たれたあとが着いているが、カイのダメージはすでに回復している。


「……なんなんだ、あいつは。……あんな奴が、ミナの仇と繋がっているのか?」

「……かもしれない。とにかく、今日の戦いでデウスはあんたを完全に『敵』として認識した。向こうから仕掛けてくるのも、時間の問題ね」

「……厄介だな」


カイの視線の先には、ライナの部屋。

彼女の方が先に帰ってきたとはいえ、1〜2時間程度のハズだ。

それなのに、どうやったらここまで散らかせるのだろう?


「そうね、ここからが本番よ」

「…そうだな。ここからが大変だ」


微妙に噛み合わない会話をしつつ、2人はエナジードリンクの缶でカチンと乾杯した。

戦いの間の、つかの間の祝杯だ。

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