表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

第14話:忠誠の純度

広場でのデウスとセラフの激突の数時間前。

……デウスがシドから薬を受け取り、アジトから出ていった直後。


シドは、タイムキーパーと話をしていた。


「ほら、お前に頼まれていた分だ」


タイムキーパーは、赤い注射器が入ったケースを一つ、静かに懐に収めた。


「……ありがとうございます。今回の座長の脚本は危険すぎる。必ずこれが必要になると思ってます」


「しかし、お前もよくそこまでデウスなんかに尽くすな。あの男にそんな価値があるとは思えんがね」


シドが、左目の傷をさすりながら皮肉を言う。しかしタイムキーパーは表情一つ変えず、デウスの部下とは思えないカッチリした所作で一礼した。


「……私がまだ覚醒したばかりの頃、不完全な能力者としてセラフに処分されそうになっていた時に、拾ってくれたのが座長なんです」


「拾われた、か。それだけでそこまで忠誠心を持てるとは、犬だな、まるで」


「あなたには分かりませんよ。とにかく、今の私には座長を守ることが全てです」


タイムキーパーはそれだけ言い残し、闇に溶けるように消えた。

シドは自嘲気味に「……俺も似たようなものか」と呟き、後を追うように夜の街に消えていった。


時は戻り、現在。第4区、中央広場。

ガブリエルとライナの連携により、デウスは徐々に逃げ場を失いつつあった。


「おやおや、わたしばかりを追いかけていていいのですか?一般市民に死者がでますよ、この混乱では…」


「そうやって自分を追うのをやめさせようとしても無駄だ。優秀な部下たちがWRATHをしばらくは食い止めていてくれるさ」


ガブリエルにもライナにも動揺は見られない。まずデウスを捕らえることに全力を注いでいる。

デウスにとどめの攻撃を加えようとしたその時。彼らの感覚が一瞬歪み、攻撃を外してしまった。この感覚は…SORROWの能力だ。


広場の向こうからタイムキーパーが姿を現した。駆け寄ってきた彼女は迷うことなくデウスの腕を掴む。


「座長、ここまでです。一度ここを離れましょう」


「何を言ってるんです、タイムキーパーさん! わたしの最高の舞台はこれから……これからクライマックスなんですよ! 離しなさい!」


「……いくら座長でも、セラフの隊長二人を同時に相手にするのは危険すぎます」


子供のように地団駄を組むデウス。タイムキーパーはその言葉を無視し、懐からシドの薬を取り出すと、足元で倒れていた劇団員の首筋に突き立てた。


「ガ、アアアアアアアアッ!!!」


突如として爆発的な緋色のオーラが噴き出し、劇団員だった男の肉体が、骨を軋ませながら異形のWRATHへと変貌する。


「なっ……どういうことだ、今何をした!」


ガブリエルがたった今WRATHに変貌した男にテラー・ハンマーを叩きつける。しかし、WRATHはその重い一撃を片腕で受け止めた。


WRATHはテラー・ハンマーを食らって折れた腕を無理やり振り回し、その衝撃波だけで周囲の石畳を粉砕する。


デウスと闘っていたガブリエルとライナも、WRATHに対処せざるを得ない。


「座長、今のうちに」


「この最高の舞台を、私が降りるわけにはいかないんですよ!」


「はやく、座長を連れてアジトに帰るわよ」


タイムキーパーは駄々っ子のように暴れるデウスを数人の手下に運ばせ、その場を離れて行った。


「待ちなさい、デウス!!」


ライナが後を追おうとするが、暴走するWRATHがそれをさせない。ガブリエルもまた、デウスの背中をただ見送ることしかできなかった。


「チッ、この化け物め……!」


テラー・ハンマーによるFEARの付与も効かず、打撃にも耐える。

エコー・マントでも受け切れないほどの不規則な打撃を繰り出す。


セラフの隊長2人でも、無軌道に暴れるWRATHにはさすがに手を焼いた。


ガブリエルがテラー・ハンマーでようやくタイムキーパーが残したWRATHを仕留めた頃には、デウスたちはどこにもいなかった。


「……逃がしたか。ライナ、見たか、今の薬……」


「私も初めて見た。人間をWRATHに変える、あんな薬があるなんて……」


「あぁ、あんなもんが大量にあるとすれば、これはスカーレットどころの騒ぎじゃないぞ…」


ライナが答える間もなく、セラフの通信機から、耳を裂くような悲鳴と怒号が重なり合って溢れ出した。


『――緊急事態! 第4区北西、商業地区でWRATHが暴れています、市民にも被害が!』


『第5区でもWRATHが! 隊員が次々と負傷しています!』


「…ひとまずWRATHをなんとかするしかないか。ヤツらを追うのはその後だ」


「二手に分かれましょう! ガブリエル、貴方は北側を! 私は南側のWRATHを片付ける!」


二人は背を向け、地獄と化した市街地へと駆け出した。


だが、南側に辿り着いたライナが見たのは、凄まじい惨状だった。

暴れ狂うWRATH。それを包囲するJOY部隊の隊員たち。しかし遠巻きに包囲することしかできず、時折WRATHが包囲につっこんでは隊員たちが吹っ飛ばされている。その周りを逃げ惑う市民。

倒れている人数は、市民か、隊員か、劇団員か、どれが多いかもはや判別がつかない。


「おい、あんた隊長だろ!?はやくアイツをなんとかしてくれよ!」


「どけよ、疫病神! 怪物同士、勝手に殺し合ってろ!!」


悲鳴とも応援とも罵倒ともつかない市民からの声。

しかしとにかく目の前のWRATHをなんとかするしかない。


WRATHを包囲する隊員に声をかける。


「私がヤツに当たります。共鳴で指示を出すから、皆は包囲を保ちつつ、しっかり援護して」


この地獄は、WRATHを倒せば終わるのか。それともこのWRATHを倒すことは新たな地獄の始まりなのか。

そんなことを考える余裕も、今のライナには無かった。


一方、第4区にあるライナのマンション。


カイは窓の外を苦々しげに眺めていた。


暴れ狂うWRATHの破壊音があちこちで鳴り響いている。

逃げ惑う市民。アタフタするセラフ隊員。

呆れるのは、この状況でも暴動を煽ったり、泥棒を働く劇団員がいることだ。ヤツらは根っから犯罪者である。


ここ数日の休養で、カイの体は万全になっていた。

しかし、WRATHである自分がこの場に介入することが、的確なのかは分からない。


当然ライナもカイに指示を出しているようなヒマはなく、カイとしてもどう動くか決めかねているような状況だった。


「……あれは?」


窓の外には、逃げ惑う市民を追い回すWRATHの咆哮と、それに怯えて暴徒化した人々が「スカーレットを隠している奴がいるぞ!」と叫びながら近隣のドアを蹴り破る音が響いている。


「…………」


カイの拳に、血が滲むほど力がこもる。


ヒーローになりたかったわけではない。

カイはただ、ミナの仇を取りたかっただけだ。


それなのに、ヒーローとして祭り上げられたり、今は逆に悪の親玉のような扱いをされている。


遠くでライナがWRATHと戦っているのも見える。

ライナは最初から味方をしてくれていた。もちろん、ライナにカイの力を利用しようという打算が、全く無かったとは思わない。


しかしその打算は、あくまでも左目に傷の男という未知の脅威に対抗するためであり、劇団の犯罪を止めるためだった。


それが今、市民から罵倒されつつも、命懸けでWRATHと戦っている。


「さすがに…黙って見てるってのは無理そうだ」


カイの怒りは、WRATHで市民の恐怖を煽り、さらに暴徒を扇動するデウスと劇団に向けられている。

カイの目から、溢れ出すように緋色のオーラが光る。

何割かは、封鎖の原因となってしまった自分への怒りもあるかも知れない。


「なってやろうか……ヒーローってヤツに」


カイはここ数日袖を通していなかった、キッチリと畳まれたスカーレットのコスチュームを掴んで立ち上がった。

【第1部 毎日更新中】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い」「設定が新しくて引き込まれる」と思っていただけましたら、執筆の大きな励みになりますので、ぜひ以下の応援をお願いします。


・下の「ブックマークに追加」をポチッと!

・下の「評価する」から、星(☆☆☆☆☆)で評価!


皆様の反応が、第2部への執筆、そして世界展開への大きな動力源になります。

次回更新もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ