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第11話:失敗の代償

「劇団」がアジトにするスラムの廃劇場。ステージ上には、一脚の椅子に無造作に縛り付けられたスポットライトの姿があった。


昨夜ガブリエルのFEAR部隊による拘束から命からがら逃げてきたスポットライト。

しかし、なんとかアジトにたどり着いた彼を待っていたのは労いではなく報復だった。


スカーレットを仕留めると大口を叩いたのに、失敗してのこのこ帰ってきた……そうデウスに責め立てられ、椅子に拘束された上に痛めつけられたスポットライト。


全身を襲う激痛。だが、それよりも彼を支配しているのは肉体的な苦痛よりも、目の前のデウスへの底知れぬ恐怖だった。


「聞いてよ、座長! 確かにボクは失敗した、でもあのタイミングでスカーレットが弾丸をかわせるはずはないんだ!」


スポットライトは、脂汗を流しながら必死に叫んだ。

デウスはその声が聞こえているのかいないのか、先程から舞台中央のスポットライトが拘束された椅子の周りを、妙な鼻歌を歌いながらぐるぐる歩き回っていた。


「ボクの殺気を探知したヤツがいて、スカーレットに指示を出したヤツがいるはずだ……! あの距離で僕の殺気を探知できる共鳴の能力者なんて……JOY部隊の隊長、ライナしかいない。ライナとスカーレットは繋がってるんだ!!」


「……」


デウスの動きが止まる。先程までなんの関心も示していなかったのに、止まっただけとはいえリアクションがあったのを見て、スポットライトは勝機を見出したように言葉を重ねた。


「そうだよ、そうに決まってる!ライナの周辺を洗えば、きっと、スカーレットに繋がる証拠が出てくるはずだ、なんならライナを攫って来たっていい、ボクに任せてくれれば……」


一気にまくしたてるスポットライトに、デウスが金のタクトを向けて黙らせた。


「……スカーレットとライナさんが繋がってる? それはなかなか面白い仮説ですねぇ……」


デウスが不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとスポットライトの方に向き直る。スポットライトの顔に、一瞬だけ希望の光が宿る。だが、デウスが口にしたのは救済の言葉ではなかった。


「確かに、今までスカーレットが邪魔してきた現場は、ライナさんがよくいたような気がしますねぇ。苦し紛れの言い訳にしては、なかなかいいところをついているかも知れません」


「だったら……」


「ただ、アナタが出かける前に失敗したら目玉を照明に加えるといったことと、そのことは関係ありませんからねぇ」


「……え、やだなぁ、座長。あんなのは出撃前の景気づけで…」


「御安心なさい、面白い仮説を考えてくれたお礼に、命は助けてあげますから。さ、おやりなさい」


デウスが冷酷に指を鳴らす。手下たちが冷たい光を宿したナイフを手に、スポットライトへ歩み寄る。


「待っ、座長! 嘘じゃない、信じてくれ! ギャアアアアアアアアッ!!!」


劇場の高い天井に、肉が裂ける音と、魂を削り取るような絶叫が反響した。

デウスはスポットライトの悲鳴を心地よい音楽のように聞きながら、返り血を避けるように優雅に背を向けた。


壁を飾るイルミネーションの電球の中にスポットライトの眼球が加わる。

スポットライトは呻きながら、手下に脇を抱えられて劇場の外に放り出された。


デウスはスポットライトにすっかり関心を無くし、ニヤニヤしながら呟いていた。


「ライナさん、ですか……。ふふ、もしそれが本当なら、次の脚本には彼女にも登場して頂かなくてはいけませんねぇ。あぁ、私の天才的な頭脳から溢れる創意が止まりませんよぉ……!」


その日はスラムの中の廃劇場から響くデウスの高笑いが、いつまでも止まらなかった。


シーンは変わり、セラフ本部基地。

FEAR部隊隊長…ガブリエルの執務室で、ガブリエルとライナが会議を行っていた。


「……ライナ隊長。スカーレットのこれまでの戦闘記録、および目撃情報を精査した。

ヤツの行動圏内は、中央街区の南側居住区、および隣接するスラム……『第4・第5複合区』に集中している」


ガブリエルが端末を操作すると、ホログラムの地図上にライナの自宅マンションを含むエリアが真っ赤に染まった。


「上の許可は取ってきた。本日付けで、スカーレットを仕留めるまでこの区域を完全封鎖する。

昨日の今日だ、さすがにダメージでそう遠くまでは逃げられないだろうが、早い方がいい。


……ついでに、この劇場区域を根城とする、あの忌々しいデウスが率いる『劇団』もろとも、一気に叩き潰すことにした」


「……! 劇場区域まで……強引すぎます、ガブリエル隊長! 市民への影響を考えてください!」


「私のテラー・ハンマーがどうなったか見ただろう。スカーレットは秩序を脅かす明確な『脅威』だ。多少強引な手を取ってでも、最短で排除する。

……スカーレットと劇団の対立のどさくさでずいぶんと手柄を上げたようだが、まさかスカーレットを庇うつもりじゃないだろうな?」


ガブリエルの三白眼が、ライナの心の奥底を見透かすように光る。

ライナは奥歯を噛み締め、辛うじて肯定の敬礼を返した。


「…ふん。スカーレットとの戦闘データを参考にした、テラー・ハンマーのバージョンアップが完了したら、私も出る。ヤツは絶対に逃がさない」


雨が降り始めた。

本部を出たライナは、セラフの隊長として街区を封鎖する陣頭指揮を取る。


高級マンションの屋上には巨大なサーチライトが設置され、主要な路地にはセラフの装甲車が壁のように並び、電磁障壁が夜空を無慈悲に切り裂いている。


街はほんの数時間であっという間にその姿を変えて行った。


「……さすが、仕事が早い。まさか一度戦闘しただけでここまで直接的な手を打ってくるなんて……」


とはいえ、さすがに性急すぎる。

スカーレットを追い詰めるのが直接的な目的とはいえ、ここまでやればデウスだって黙っていないだろう。


これで大人しくなるような連中なら、もっと早くそうしている。

デウスが本腰を入れて反撃してきたら……それはもはや、戦争だ。市民達への影響が大きすぎる。


「……カイに、大人しくするように言わなくちゃ」


ライナのマンションがすぐに捜査対象になることは無いだろうが、万が一にもカイが今捕まることは避けなければならない。

考えたくもないがガブリエルと劇団の戦闘が激化すれば、カイ……スカーレットの力が必要になる場面が必ず出てくるだろう。


「全く……上手く利用して出世の足がかりにしようなんて思ってたけど、まさかここまで重要な存在になるとはね」


ライナが自嘲気味に笑う。これから始まる大量の仕事と、最悪の事態を考えると、ライナの気は重くなるばかりだ。

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