005
6月6日。
今日は花音の10歳の誕生日だ。
家へ帰ると、壁中に誕生日の
装飾が施されていた。
テーブルには沢山のご馳走が並ぶ。
娘の成長に、両親はお酒が進んだ。
父は悪酔いは一切しない酒豪体質だった。
両親は誕生日には定番の曲を歌い、
花音はそれに応えるかのように
10本のろうそくに息を吹きかけた。
母「さ、ケーキを切りましょうね!」
花音「あ、待って!私が取ってくる!」
包丁を取りに行く母を止め、
自ら取りに行く。
父「危ないから気をつけなさい。」
花音「はーい!」
台所の戸棚を開け、1番長い
包丁を取り出して手に持った。
リビングに戻ると、
父がトイレで席を外していた。
花音は包丁をテーブルに置き、
グラスを握りしめた。
そして、
スマホを眺めている母の顔に
2.3回グラスで殴り、
包丁を持ち直した。
母「きゃあー!!!」
母の悲鳴を聞き、父が駆けつけた。
状況を見て動揺するも、
娘をとにかく落ち着かせようと
優しく語りかける。
父「花音、大丈夫。大丈夫だから
その包丁を離しなさい。」
花音「嫌だ。この世にママはいらない。
ママを刺してからパパを刺す。
パパ言ってたでしょ?
名前の由来の通りになりたいって。
子福桜ってね、散り始める頃に
芯が赤くなるんだって。
ほら、今日の服!白にしたんだよ。
お腹を刺したら子福桜になれるから。
パパの願いを叶えたら、ママより
私を好きになってくれるよね?」
そう言い終えると、
しゃがみこんだ母親に向かって
包丁を振り落とした。
花音の手元には、何かを刺した、
確かな手応えがあった。
だが、手元を見てみると、
その背景は白かった。
父が床をスライディングするようにして
母の前に行き、庇ったのだ。
父の白いトレーナーは
見る見るうちに赤く染まっていく。
花音は計画の順番が変わった事と、
刺してからようやく自分がした事の
重大さに気付き、パニックを起こしている。
母は手を震わせながらスマホを操作し、
119に電話をかけようとしていた。
たった3つの簡単な数字が、
手の震えと恐怖で打てないでいる。
父は喋るのもやっとな状態でありながら
それを感じさせないように優しく、
ゆっくりと二人に語りかける
花音「パパ……パパ………!」
父「花音。大丈夫だよ。落ち着いて。
ママも落ち着いて。僕の話を聞いて。
いいか、二人とも。今起きたことは
絶対に誰にも言ってはいけないよ。
パパがお酒を飲んで暴れてママを
殴って、次は花音を襲おうとした。
花音は自分を守ろうと思って
テーブルにあった包丁を手に取り、
襲いかかろうとして足を滑らせ、
転んだパパを刺した。
何があってもこう話しなさい。
ママ、正当防衛だと言うんだよ。」
母「あなた…私には出来ない。無理よ。
もうこの子を愛すことは出来ないわ。
やっぱりおかしかったのよ…
あの時のまま何にも変わってなかった。
何しても無駄だったのよ!!
こんな化け物に育つとわかってたら私、
産んでなかった。」
花音「パパ…ごめんなさい。ごめんなさい。」
父「葉子、この子がどんな子だろうと
僕達の子供だ。産まれた以上、見守る
責任があるんだよ。見捨てちゃダメだ。
夫の最後の願いだと思って聞いてくれ。」
母はその言葉を聞き、号泣しながら
懸命に震える手を落ち着かせ、
やっと119にかけることができた。
そして
父「花音。今何を思っている?
どんな気持ちだい?」
と、花音に尋ねた。




