慈愛の賢者について
『慈愛の賢者様』は、『森の賢者様』と呼ばれる存在の娘らしい。『森の賢者様』って子供も産んでいるのか。
俺と同じように異世界から紛れ込んで、そしてここで長い間生きていて、それでいて子までなしている。
賢者とまで呼ばれる存在は、地球に帰りたいとは思わなかったのだろうか。
「『慈愛の賢者様』と呼ばれるアレイシア様は、およそ百五十年ほど前に存在を人々が知る事になったハイエルフの一人です」
アラマさんは話を続ける。
百五十年前……。本当にハイエルフという存在は信じられないほどに長生きなのだと驚いてしまう。
「百五十年ほど前、アレイシア様はハイエルフであることを隠して聖地から出て冒険をしていました。その時に愚かにもセイアーツ教がアレイシア様をハイエルフと知らないままに軟禁してしまいました」
「……セイアーツ教っていうのは何ですか?」
「当時存在していたとされるハイエルフ様をあがめている宗教です。ハイエルフ様を神とあがめ、勢力を広げていました」
ハイエルフは、神にも等しいとされているようだ。でも確かに数百年も生きて、強大な力を持つ存在は神と言っても差し支えないのかもしれない。それにしても過去形なのは、セイアーツ教という宗教は今はないのだろうか。そうおもってたらアラマさんは話をつづけた。
「セイアーツ教がアレイシア様を軟禁した結果、聖地から出てこない『森の賢者様』が出てきました。そしてセイアーツ教をつぶしました。その時に『慈愛の賢者様』が『森の賢者様』の娘だと広められました」
って、つぶしたのか。
口には出さなかったけれど驚いてしまった。
セイアーツ教はハイエルフをあがめている宗教だったけれど、『森の賢者様』の娘を軟禁した結果つぶされたと。……宗教一つつぶすってとてつもない事のように思えるので、本当に『森の賢者様』ってすごいんだなと言う感想が芽生える。
「『慈愛の賢者様』はその後、一度聖地に戻られましたが、また聖地から出てこられました。そして冒険者として依頼をこなしながらも色んな場所に向かいました。そして人助けをしたりと、様々な事を成し遂げました。そして『慈愛の賢者様』は百年ほど前に旦那様を身罷られましてからは、娘と共に一か所に留まるようになりました」
「そうなんですね……。その『慈愛の賢者様』というのは何処にいるんですか?」
「この大陸の中心部にヤダソラン山脈という山がございます。そこに居を構えております。ハイエルフの方が一つの国に留まればそれだけ影響がございますから、その関係でそちらにお住まいです。『慈愛の賢者様』が住むようになってから、その山自体も聖地のような扱いをされています。必要がなければ近づかないうようにと。ただ、『慈愛の賢者様』は『森の賢者様』とは異なり、お話は聞いてくれます。場合によっては断られることもありますが、『慈愛の賢者様』の場合は困った事を助けてくれたりも多くあります。それもあって『慈愛の賢者様』と呼ばれております」
ハイエルフが一人いるだけでも影響力が強いらしい。何だかその場にいるだけでも影響力が強いハイエルフって生きていくのが大変そうだ。そう考えれば、俺がまだエルフと呼ばれる存在として此処にいるのはよかったのかもしれない。
何で異世界に来たら種族が変わるのかとか分からないけど、ハイエルフとして此処に居たら色々大変だった気がする。
「『慈愛の賢者様』の元へ向かいたいというのならば、陛下にお伝えしてきますが」
「はい。お願いします。是非、行きたいです」
『森の賢者様』に会いたいというのもあるが、話を聞いてみたらその『慈愛の賢者様』についても気になる。地球ではそんなハイエルフなんて存在もいないし、もし地球に戻れなかったとしても賢者と呼ばれる存在に会えばこの先どんな風にしていけばいいかなども分かる気がした。
俺の言葉にアラマさんは頷いて、部屋を後にする。
早速王様に伝えに行ってくれたのだろう。
「……カグラ、ハイエルフに会いに行くのか。粗相がないように気をつけるように」
「はい。もちろんですよ。グラニーさん」
「『慈愛の賢者様』は……その名の通り優しい方だと言われているから大丈夫だと思うが、その、万が一、『森の賢者様』に会えたとしたら本当に気をつけるように。気分を害して国が大変な目になる可能性も十分あるのだから」
「はい。気を付けます」
……グラニーさんと会話をしながら、本当に『森の賢者様』ってどんだけ恐れられてるんだよと突っ込みたくなった。そしてそんな恐ろしい人物に、俺は会いに行きたいと思っている。一応同郷の人って事だし、大丈夫だと思うけど……、此処まで言われるといざ会いに行けるとなっても緊張しそうだ。




