再会①
ヤダソラン山脈の麓にまで俺はやってきた。ここまで馬車で乗り継いで、ようやくたどり着けた。
船がついた港街から、最初は転移も使っていたが、やはり連続して転移を行うのは難しい。練習もかねて何回もやってみたが、途中からもう無理だった。そんなわけで俺は途中から馬車できた。
……アレイシアさんは俺のことを覚えているだろうか。百年という時は長い。その時間、会わなかった存在のことを気に留めてくれているだろうか。
俺のことを気にかけてくれていればいいと、そんな風に思って仕方がない。
山を登る。
初めてアレイシアさんの元へ向かった時、俺は登るだけでも疲れていた。今は、もう一人旅をしていたというのもあり、体力もついてきていた。
一人でこの山を登りながら、ずっと、アレイシアさんのことだけ考えていた。アレイシアさんの元へ、急に会いに行ったらなんて思うだろうか。どんな風に俺に声をかけるだろうか。
――手紙で連絡するよりも直接会いたいと思って、そのまま会いに来てしまった。
不安も大きい。けど、会いたいという気持ちの方が大きい。会ったら俺はどんな風に行動を起こすだろうか。……俺はこの世界で一生を終えるつもりはない。いつか、日本に帰ることをずっと望んでいる。
だからこそ、アレイシアさんに会うのは怖さもある。俺が例えばアレイシアさんに思いを伝えたところで、アレイシアさんとどうこうなるとは思わないけど――俺がアレイシアさんの傍に居たいという気持ちになって、俺がこの世界に居ることを享受してしまったら……、俺はこの世界にいたいと思うかもしれない。
それが怖い。
俺はそんな風に思いたくない。
俺は……この世界で、死にたくはない。いい加減諦めればいいと言われても、自分でそう思ったとしても俺はそれは望んでいる。俺は諦める事が出来ずに、ただもがいている。
アレイシアさんは、いつまでも日本に帰ることだけを望んで、そのくせ帰るための結果を出すことも出来ない俺のことを知ったら何て言うだろうか。
アレイシアさんならきっと呆れたりはしないと思う。ただ俺のことを受け止めてくれる気がする。
セイナさんは……恐らく呆れるだろうなと思う。例えば、俺がまだまだ諦めていないことを知ったら、まだやっているのかというかもしれない。
セーラさんは、元気だろうか。
悶々とそんなことを考えながらアレイシアさんの家にたどり着く。
アレイシアさんの家は、昔と何も変わらなかった。
百年前と変わらない佇まいの家に驚く。けどハイエルフの技術ならそういうものなのかもしれない。
ああ、この先にアレイシアさんがいる。
それを思うと妙にドキドキした。
一歩一歩と扉に近づいていく。
ノックをする。
ドキドキと鼓動がなる。
不安と、会いたいという気持ちでいっぱいで、どうしたらいいか分からない気持ちになる。
そんな思いでいっぱいになっていると、ガチャと扉が開いた。
「はいはい、どちら様、って、カグラ!?」
そう言って声をあげるのは、アレイシアさんの一人娘であるセーラさんだった。
アレイシアさんが出てくるだろうかと期待していたらセーラさんが出てきてちょっと拍子抜けしてしまう。セーラさんも前に会った時と姿かたちはかわっていない。彼女もエルフだから俺と同じように三百年の長い人生があるから当たり前のことだが、セーラさんとまた会えたことは嬉しかった。
「久しぶり。セーラさん」
「ええ。久しぶりね!! カグラってば、大陸を渡った後はどうしているか分からなかったから、私もお母さんも心配していたのよ!!」
セーラさんのそんな言葉を聞いて、アレイシアさんが俺のことを気にかけていてくれたことが嬉しいと思った。
「――ごめんなさい。連絡も全然できなくて。アレイシアさんは?」
「いいのよ、ちゃんとまた会えたなら良いもの。お母さんはちょっとおばあちゃんの所にいっているの」
「そうですか。待ってもいいですか?」
「もちろん!! それにしてもカグラがこのタイミングで帰って来てくれてよかったわ。もう数十年遅かったら私は寿命がきて、カグラに会えなかったかもしれないもの!!」
「え」
「えって、何よ、当たり前でしょう。私たちエルフはお母さんたちほど寿命が長くないから。私もそのころには寿命がきちゃうもの。だから良かったわ。元気なうちにカグラと再会が出来て」
「そうですか……」
そうか、全然若々しく見えるセーラさんも、エルフとしてあと百年もすれば寿命で死んでいるのか。俺よりも年上のエルフのセーラさんは、俺よりも早く逝くのか、とそれをセーラさんの話を聞いて実感した。
「そうよ。私たちエルフの寿命は、人間よりはずっと長いけど、永遠ではないもの。思ったよりあっと言う間に私たちの生は過ぎていくの。私もお母さんのことを置いていくことは、ちょっと嫌だなって思うけど。まぁ、仕方ないわね」
セーラさんはアレイシアさんを置いて逝く。その事実をセーラさんはとっくに受け入れている。それはハイエルフと人間の子供――エルフとして生まれたからこそ、生まれてすぐにわかっていた事実。その事実をセーラさんは受け入れて、そんなことをあっけからんとしていう。
「カグラは、お母さんのことはまだ好き?」
セーラさんが突然そんなことを聞いてくる。
「……えっと」
「その反応で分かるわ。好きなのね。――なら、お母さんと心を通わせたいとは思わないの?」
何故だか、セーラさんは俺にそんなことを問いかけた。




