旅⑧
俺はアレイシアさんのいる大陸に戻ることにした。
大陸に戻るために、この大陸で一番最初に訪れた街に向かった。俺はこの大陸を隅々まで調べようと、かれこれ百年近く、この大陸を見て回っていた。それだけの時が気づけば過ぎていたのだ。
それだけ生きていても、俺は老いることはなかった。
エルフの平均寿命は三百年ほど、という話なので俺ももう百年以上たったら老いるのかもしれない。――不思議な気持ちだ。まだ、俺が若々しい姿なことが。それを鏡などで見ると、百年も経っていないのではないかと、そんな気持ちにもなってしまった。
けれど、この街に住んでいた人たちを見れば時が過ぎた事を感じる。――人がガラリと変わっている。……俺が最初に訪れた孤児院もちらりと覗いたら、前子供だった人が年老いていたり――時の流れを感じる。
特に人は、もう死んでいる人たちばかりだ。
何とも言えない寂しさを感じる。けど、アレイシアさんたちハイエルフは、俺よりも寿命が長くて生きていることが確信できるから、俺はほっとする。
その事実に安心するのだ。変わらないものがきっとあることに。
この大陸に来て、アレイシアさんへの手紙も出せていなかった。エルフ達が多くいる大陸と違ってアレイシアさんに手紙なんて出せなかったのだ。――だからこそ余計にアレイシアさんに会うことが楽しみになっている。
アレイシアさんと過ごした時間は短い。短いけれど色あせることなく、俺の心にはアレイシアさんがいる。――もしかしたらそれは幼い頃の美化された思い出のように、実際にアレイシアさんに会ったら俺の心が動かされるかどうか、というのは定かではないが……俺は現在アレイシアさんの事が好きだなという気持ちをずっと抱えているのは事実だ。
……セイナさんたちは俺に会ってなどくれないかもしれない。——でも出来れば戻ったらセイナさんにも会って、調べられた『迷い人』の情報を伝えるぐらいはしたいなと思った。
セイナさんに何かで異世界に渡る魔力を補えないかなんて聞いたら、セイナさんはなんというだろうか。怒るだろうか。殺されるだろうか。
出来ればセイナさんにも聞きたい。そのあたりは、アレイシアさんに聞いてから考えよう。
そんなことを考えながら俺は船に乗った。
船に揺られて時間が経過して、ようやくアレイシアさんたちのいる大陸に戻れた。
この大陸に戻ってくると、エルフの姿が多く見れて、何だかほっとする。俺を見て、声をかけてくる見知ったエルフもいた。
俺がこちらの大陸で冒険者業をしていた時に俺の面倒を見てくれていたエルフだ。そういう知人に出会えてうれしかった。エルフが全然いない大陸で過ごしていたというのもあって、気を張っていた生活をしていたからこそ余計に安心した。
「久しぶりだな!! ずっとあっちにいたのか?」
「ああ。ずっといたんだ」
「よくあの大陸にずっといれるなぁ」
そう口にする彼は一度、向こうの大陸に行ったことがあるらしい。しかし、落ち着かなくてすぐに戻ってきたのだという。
エルフがあの大陸に長期間いることは珍しいのだと、変わったことをするとそんな風に言われる。それと同時に再会を喜ばれる。
エルフの人生、三百年。
その中で百年もの間、ハイエルフというエルフにとっての神がいない場所にいた俺はエルフたちにとっても不思議なようだ。
――エルフたちは、ハイエルフと言う存在を本当に慕っている。そしてハイエルフの血を継いでいることを心から誇りに思っている。
俺は……異世界からやってきた存在であり、そういう誇りはない。そもそもハイエルフであるセイナさんたちと直接血が繋がっているわけでもない……。もしかしたら地球で微かな血のつながりはあるのかもしれない、同じ日本人としてのつながりはあるだろう。けど、それでもエルフたちのようにそう言う感覚にはならない。
同じ地球人であるセイナさんたちだって、帰りたいともがいている俺と違って此処でちゃんと生きようとしている――。……そう考えると、寂しい気持ちにもなった。
折角、見知った人と再会が出来、これからアレイシアさんに会えるのだ。
――そんな暗い思考は一旦横にやろう。
俺はしばらくエルフと話してから、アレイシアさんの居る元に向かうことにした。




