旅⑤
俺は色んな場所に向かった。
エルフ達がいた大陸よりもずっと旅がしにくい。心が折れそうな気持ちにも時折なった。この大陸にエルフはいないというのもあって、中にはエルフ自体を悪魔の種族といった扱いをする村もあった。セイナさんがこの大陸で暴れたのを間違った認識で伝え聞いた村もあるらしい。
……まぁ、あとから知ったけど、竜族や獣人たちを人体実験で生み出した連中の末裔みたいだ。セイナさんが暴れたあと大変な暮らしをしていたようだ。そしてセイナさんがいなければこんなことにならなかったと逆恨みをしていたらしい。死んだあともその恨みを募らせていたなんて恐ろしい。
セイナさんは自分がやりたいようにやっている分、色んな感情を人々から受け止めているのだろう。……誰に恨まれようとも、何を思われようともそれでも自分というものを持っていて気にせずに行動出来るのは本当に凄いと思う。
「エルフめ!!」
「この悪魔め!!」
その村の住民たちは、俺が彼らの祖先のことを調べて証明してもその態度は変わらなかった。自分が信じたいものを信じるのが人で、俺が調べたことも嘘だと、悪魔の所業だとそんな風に告げた。そういう場所で育ったからこそ、小さな子供だって俺を悪魔だと信じていた。
――俺のことを本気で殺そうとするのだ。その村では『迷い人』のことを調べるどころではなかった。なんとか簡易的な転移を実現していたからこそ村からは去ることが出来たが、本当にびっくりした。
……誰かに殺されそうになることは恐ろしいと思った。俺はなんとか魔術を使うことが出来て、誰の命を奪うこともなく旅が出来ている。俺は地球に帰ることを目的としているから、なるべくそんなことはしたくなかった。家族に再会した時に、人を殺したなんて嫌だった。……もし俺が魔術をアレイシアさんの所で学ぶことがなければこんな風に旅が出来なかった。
そのことをより一層実感する。この大陸で過ごしていると、本当に手を汚すことなく旅が出来るのだろうかという不安も残った。——エルフという存在に優しくない大陸。——俺のことが珍しくて、エルフのいない大陸。エルフを悪魔だと思い込む村もあったからこそ、余計にそう思った。
実際に、そんな優しい現実ばかりではなかった。
正しくセイナさんの伝説が伝わっていなかったり、セイナさんのやった侵略事件を過去のものと認識していたり、——セイナさんのような長命種を信じていなかったり、都会から外れれば外れるほど、そういう人たちも多かった。
だけどその中で、ようやくまた『迷い人』の情報を手に入れることが出来た。その人は人間にしては長生きをしたらしい。エルフほどではないけれど、百二十歳ほどまでは生きて、村に貢献したのだと、その田舎の村で伝えられていた。
どうやら海外の人だったらしいのは分かった。俺は外国語が上手く読めないから、その人が書いた母国語は読めなかった。けど、その人がこの世界の言葉で書いた文字に地球の事が少しは書かれていた。この村の発展に貢献した海外の男性。そして帰ることなく、此処でなくなった人。だけど、妻を持ち、子供が生まれ、その血は此処に根付いている。
そのことは、良かったと思った。前に見つけた『迷い人』が落ちてすぐになくなったであろう小学生だったからこそ、こうして寿命を全うし、帰れなかったものの幸せに生きたであろう人がいた事が嬉しかった。
……でもきっとこの人は珍しいパターンで、魔物もいる場所にいきなり落ちればなくなる人の方が多いだろう。そんな中でちゃんとここで寿命を全うしたのだ。俺は敬意をこめてその人の墓地に花をお供えした。
その人がいたのは結構な前のことらしく、記録はあまり残っていなかったけれど地球から来たのが分かるものが残されていたのは良かったと思った。
中々見つからないけど、なんとか一人地球人の痕跡をまた見つけられてほっとした。もっと転移の魔法を学ぶのも、『迷い人』について探すのも頑張ろうと思った。
けど、それから三か月後、俺はすっかり意気消沈してし、何もする気が起きなくなってしまっていた。
――なぜなら、その前日に魔術師に襲われて、はじめて人を殺してしまったからだ。




