旅④
人さらいたちを警備兵の元へと連れて行けば、感謝された。それと同時に、エルフが此処にいることは珍しいということをまたも言われた。
やはり、エルフはあの大陸をほぼ出ないのだろう。
滅多に来ないエルフに対して、この大陸の人間たちは悪い感情は抱いていないようだ。あの人さらいたちは例外だったが、此処でもセイナさんの影響があるようだ。セイナさんの起こした侵略事件はここに住まう人々にとっては昔のことだ。だけど、伝説として残っていること。
ほとんどの人々は、エルフに良くしなければセイナさんからの襲撃があるのではないかと恐れている。
――ああ、と思う。
俺はセイナさんやアレイシアさんの元を飛び出した。あのまま、地球に帰ることを望まず、アレイシアさんの優しさに甘えることも出来た俺は、きちんと自分でやるのだとこうして飛び出した。なのに、結局セイナさんたちに守られているのだと実感する。
ずっと昔、俺が想像できないぐらいの遥か昔――セイナさんがこの世界に落ちてきた頃は此処まで世界は優しくなかったのだと、アレイシアさんは言っていた。そんな話を聞いたことがあったのだと。
俺は異世界に落ちて、そのことは不幸だと思っている。何で俺が、とも考えている。けれど、セイナさんたちよりはずっとマシではあるのだろう。そんな中で強く生きていけるだろうかと、考えただけでも難しいから。
だけどあの大陸程エルフに対して、良い感情は抱いていない。悪い感情を抱いているものはいるのだ。気を付けなければいけないのだろう。
「なぁなぁ、エルフ様は何をしにきたんだ?」
「今日泊まる所あるのか?」
「俺たち孤児院に住んでいるんだ。俺たちの家に来ないか??」
獣人の子供たちは俺に対してよほど良い感情を抱いているらしく、にこにこと笑っている。
それにしても孤児院か。この世界はどちらかというと、前世よりも孤児院というものが身近にあるイメージがある。戦争が地球よりもずっと身近にある。
この二十年、争いが起こっている場所には寄らないようにしていたけれども、この世界ではそうもいかないかもしれない。向こうの大陸では、エルフたちから情報を集める事が出来た。けどこの大陸ではそうはいかない。大変な場所に行くこともあるかもしれない。
純粋に俺を慕ってる様子の獣人の子供たちに嬉しいと思うし、何かこの大陸の話を聞けたらと思って俺はついていくことにした。
孤児院で働いている者たちも獣人だった。此処は獣人だけの孤児院のようだ。人間や竜人はいない。もちろん、エルフも。
「まぁ、エルフ様がこの大陸に?」
「珍しい」
そう言いながらも受け入れてくれたことに感謝しかない。それに滞在費も必要ないと言われてしまった。ただそれは流石に悪いので、孤児院のお手伝いをしている。
魔術を使って孤児院のお手伝いをしていたら、彼らは「すごいっ」と目を輝かせていた。俺なんてセイナさんやアレイシアさんに比べると全然なんだけれども、この世界では魔術を使えるものは少ないのかもしれない。
話を聞けば、獣人や竜人は寿命が長く、魔力はあるものの獣人は身体強化や獣化というものに特化していて、竜人もその強靭な体などといった特徴に特化していて、魔術を使うのは人間やエルフばかりのようだ。
ハイエルフやエルフと言う存在が身近にいるからこそあの大陸では魔術が発展していたのかもしれない。この大陸にセイナさんはあまり関わっておらず、それもあって魔術は発展が小さいみたいだった。
獣人たちの耳や尻尾は大事な部分らしく、大切な人たち以外には触らせないらしい。特に尻尾は尻から生えているものなので、よっぽど特別な人以外には触らせないようだ。
ちょっと触ってみたくはなったのだけど、そういう説明を聞いたので触ることは断念した。そういう部分を触れるようになるってことは、恋人のような関係になるってことみたいだし。
……俺はアレイシアさんのことが好きだなという気持ちの方が強いから。
孤児院に滞在する間に、この大陸のことを聞いた。エルフは本当に珍しいということも聞いた。エルフの伝説についても聞いた。
孤児院で働いている女性の獣人が俺に対して好意を抱いていることも気づいたけれど、俺は気づかないふりをした。会わなくても、アレイシアさんがずっと心にいるから。
――俺はしばく孤児院に滞在して、『迷い人』の情報を集めていた。ただ詳しく調べても、それらしい情報は見つからなかった。
孤児院の獣人たちと仲良くなったからこそ、離れることは寂しくおもった。
けれど、俺には目標があるから「ここにいてよ」という子供たちや、「一緒にいてくれませんか?」と縋るような目を向けてくる獣人を置いて、俺は街を後にした。




