森の賢者 5
俺は結局、セイナさんに何を聞いたらいいか中々決められなかった。ただ、セイナさんに隙あらば話しかけることにした。
「セイナさん」
「あら、また来たの?」
「はい。セイナさんと話したいです。聞きたいことがなくなるまで沢山話したいです」
俺がそう言えば、セイナさんは何だかんだで俺と会話を交わしてくれる。それは俺が日本人だからというのもあるらしい。アキヒサさんやフランツさん達とも話をした。
彼らは長い間、この世界にいるからこそ地球の暮らしは懐かしいらしい。俺から逆に地球のことも聞きたがっていた。この世界と地球の時の流れは違うようで、セイナさんたちはこの世界に来て長い時間がたっているにも関わらず、地球ではそんなにたっていない。とはいえ、俺が知っている日本とセイナさんの知っている日本は結構異なっているらしい。
違いを比べるとなんだかおもしろかった。
アレイシアさんたちも俺の話を聞いていたりする。セイナさんは元いた世界――日本の話をアレイシアさんたちにしてこなかったみたいだから、俺たちの話を聞いて興味深そうだ。ただアレイシアさんとセーラさんには、セイナさんが「下手に異世界に手を出したら駄目よ」と注意されてた。やはり世界を渡ったり、異世界に手出したりすることは大変らしい。
「……セイナさん、俺は日本に戻れると思いますか」
「難しいと思うわよ。私はそういう事をするよりも他のことに時間を使った方がいいと思うけれど」
セイナさんは俺に期待させるようなことはしない。駄目な事ははっきり出来ないという。そういう所は下手に出来るというような人よりはいいと思う。
日本に帰れない確率の方が高い。そのことは此処にしばらく滞在してそのくらい分かっているけど、やっぱり何かすぐに帰れるような装置でもあればとかそういう淡い期待を抱いてしまう。そんな都合の良いことありえないと分かってるけど、期待はしちゃうものだ。
数日の間、セイナさんの家に滞在して、日本から来たという彼らと会話を交わした。
ハイエルフとなったセイナさんたちにとって、この世界はもう地球と同じぐらい大切なものになっているのが分かった。ここにずっといるから、第二の故郷として大切に思っている。
いつか、俺もそのように思う日が来るのだろうか。まだ来たばかりで馴染みもなく、愛着もないこの世界を大切に思ったりするんだろうか。
その将来は俺には想像なんて出来ない。それでも今は此処で生きていくしかない。いつか日本に帰れることがあったとしてもそれはすぐではない。
セイナさんが言うにはこの世界は、地球より下にある。だから向こうからこちらに落ちることは時たまある。だけど、その逆はない。セイナさん自身も地球とこの世界以外を把握しているわけはないらしいが、地球に異世界人が落ちてきたりしていないというのはそれだけ世界の壁が厚いのか、地球の上に世界が重なっていないのか、そういう事なのかと思う。そのあたりのことが分かったりしたら、地球とこの世界の関連に迫る事が出来たりするだろうか。
セイナさんは……異世界に渡る術を俺に教える気はないし、これからやってくる『迷い人』にも伝える気はないだろう。ならば、俺が独自に研究してそれを生み出せたとしたらそれを後から落ちた『迷い人』に伝えることは可能なのだろうか。
「セイナさん……俺がもし異世界に渡る術を自分で生み出せたら、それを自由にするのは良いですか?」
「そうね……カグラがそうしたいというならば、それを伝えることにどうのこうの言えないわ。ただ下手に利用する相手がいるかもしれないから、貴方が生きている間にちゃんと後々そういう相手に知られないように出来るのならばね。出来ないのならそういう研究をしたとしてもそれを全て破棄して死ぬべきよ。地球もこの世界も巻き込みたくなかったらね」
「……そうですね。それまでに考えます」
「そうするべきだわ。本当に大変なら同じ日本人のよしみとして少しぐらいなら助けてあげる。だからあなたはこの世界で自由に生きたらいいわ。それを私は咎めたりなんてしないから。まぁ、目にあまる行動をしたら手を出すかもしれないけど、よっぽどのことをしない限り、そういうことはしないわ。同郷とはいえ、他人だしね」
「……はい」
此処で過ごして、俺は日本に帰れるように独自に研究を進めること、そしてもし駄目だったとしても後に落ちてくる人のためになることをしようと思った。ここに滞在するのは有意義だし、もっと話したいことはあるけれど、それでももっと動きたいと思った。
同郷だからと俺に優しくしてくれているから、甘えてしまいそうになる。だけど、俺は立ち止まっていたくない。
だから、
「セイナさん、俺行きます。何かあったらまたアレイシアさんに連れてきてもらいます」
俺はそう言って、セイナさん家を後にすることにした。
――そして、一度アレイシアさんの家へと戻るのだった。帰りはセイナさんが軽く送り届けてくれた。何も準備していない状況で軽く送り届ける力を持っているセイナさんは本当にすさまじいと思う。




