目標
セイナさんの元からアレイシアさんの住居へと戻った。それだけのことが出来るからこそ、彼女は『森の賢者様』と呼ばれ、この世界で畏怖されているのだろう。
俺たちが戻ると、俺が戻ってくるまではらはらしていたらしい国の人たちが「良かった」と駆け寄ってきた。『森の賢者様』と呼ばれるセイナさんは容赦がないハイエルフだと知られており、中々かえってこないため殺されてしまったのではないかと心配されていたらしい。
とはいえ、たとえ俺が殺されていたとしても国としては『森の賢者様』に歯向かう事は出来ないらしい。本当になんていうか、セイナさんが暴君ではなくて良かったと思う。セイナさんは容赦がない人だけど、人を支配するとかそういう思想は一切ないのだ。もし力のあるものがそういう思想を持ち合わせていたらこの世界は悲惨なことになっていただろう。
自由を好み、のんびり生活をすることを愛しているというセイナさんは、そういうのをやろうとはしない。
もしそういう人だったらって考えただけでも恐ろしい。力があって寿命がないにも等しくて、それでいて暴君とか、この世界詰んでた状況になっていただろう。
「カグラ、異世界に渡る術を勉強したいって言ってたけど、どうするの? 魔術について学びたいなら私が教えることも出来るけれど」
アレイシアさんは俺に対してそんな風に言ってくれた。
俺が『迷い人』であるから、アレイシアさんは親切にしてくれているのだ。そして俺がアレイシアさんたちを利用しようという気持ちがないかららしい。もし、「帰りたい」という気持ちに任せてアレイシアさんたちに頼り切りになっていたらこんな申し出しなかったと言っていた。
あくまで俺自身が自分のために、自分で魔術を研究し、地球へ帰ろうという意志があるからこそ俺に親切にしてくれているのだと。
それもそうだよなと思う。俺だって自分では何もやらないのに頼ってばかりの人間がいたら嫌だし。~~したい、だから頼むってなんで人任せなんだよって思う。いや、まぁ、時と場合によるのは分かるんだが、それをしたいのはその人自身なんだから人任せにせず、自分でやろうとするのは当然だと思う。
でもなんか、そういう思考にはならずに「力があるなら」って言ってハイエルフやエルフ頼みにする人って結構いるらしい。
「……お願いします。でもしばらく習ったら、俺は色んな場所に行ってみようと思います」
「色んな場所に?」
「はい。俺の第一の目標は地球に帰ることです。やっぱり何を言われても帰りたいって思うから。もしかしたら俺が帰る事で色んな事が起こるかもしれない。でも我儘かもしれないけれど、俺はたとえ寿命が長くなっていたとしても地球に帰りたいって思うから」
もし帰れたとしても大変だと思う。
セイナさんの言葉が正しいなら俺は人間としてはおかしい寿命を手に入れ、魔術を手に入れたまま地球に戻る事になる。地球にもいろんな人間がいて、もし俺の存在が知られれば大変な騒ぎになるだろう。
そういう影響があるかもしれないけれど、でもそれでも帰りたい。
だから、魔術をアレイシアさんから習えるのはとてもありがたい事だ。ただ、ずっとここで魔術の研究だけしようとは思わないのだ。
「俺はこの世界にやってきた『迷い人』のことを調べたいです。『迷い人』はそんなに頻繁に落ちてくるものではないっていってたけれど、世界中の『迷い人』が把握されているわけではないと思うから。もしまだ生きている『迷い人』がいるなら、一緒に地球に帰る事を目指せたらって思うし。何よりこの世界にやってきて、ひっそりと死んだ人がいるのならばどこの誰なのかとか調べられたらって思います」
俺はたまたますぐに現地の人に――グラニーさんに発見された。でも運悪くやってきてすぐに死んだ人ものだ。また、『迷い人』だと知られることなくこの世界で死んだ人もいるかもしれない。
ここ以外の大陸が一つ、数百年前に発見されているらしいけど――この世界がまだ開拓されきってない世界だというなら、まだ人が住んでいるけれど発見されてない土地は多くあるのかもしれない。
セイナさんたちハイエルフがこの大陸の外にまで興味を持っていたのならば、早々に発見される大陸がかもだけど、彼らは外に出ようとしないらしい。最もながく生きているセイナさんが引きこもり体質みたいだからかもしれないけれど。
「まだ知られてない土地があり、もしそこにも『迷い人』がいるかもしれないならそこも探しに行きたいです。もちろん、死ぬつもりはないけれど、出来る限り色んな場所に行って『迷い人』のことを調べたい」
そのためには、『森の賢者様』の庇護下にずっといるべきではないと思う。アレイシアさんの下にずっといるという事は結局セイナさんに関わり続けるということ。セイナさんは同じ地球人として俺を気にかけていて、アレイシアさんは優しくて俺を助けようとしている。その優しい空間にずっといたならば俺は帰る気をなくすかもしれない。
――それなら少しの間だけアレイシアさんから学んで、あとはなるべく自分の力で生きていくべきだと思った。
「そう……。ならしばらくだけ教えるわ」
しばらくだけ習いたいといった目標を語った俺を、アレイシアさんは笑って受け入れてくれた。




