森の賢者 1
次に目を開けた時、俺の目の前の景色はがらりと変わっていた。
森の中だ。
背の高い木々が一面に広がっている森。
ここが、『森の賢者様』の住まう森。世界で聖地とされている場所。
「さて、此処が私の実家よ。ここから少し歩いた場所に家があるからそこに向かいましょう」
「あはは、カグラってすごいぽかんってしてる。これからおばあちゃんたちの所に行くんだからそんなに驚いてたら持たないよ?」
アレイシアさんとセーラさんはそう言って歩き始めた。俺ははっとしてその後ろをついていく。
『森の賢者様』。俺と同じ『迷い人』。
本当にどんな存在だろうかと、それを思うと心臓が痛いぐらいに鼓動していた。とてつもない力を持った存在。この世界で恐れられる存在。
「カグラ、どうしたの? もしかして緊張してる?」
「大丈夫だよ。おばあちゃんは怒らせなきゃ何もしないよ。もしカグラがおばあちゃんを怒らせてもなんとかするから!!」
「そうよ。セーラの言う通り、お母さんは怒らせたら怖いけど、怒らせるようなことをしなければいいだけだもの」
「そうそう。おばあちゃんは私には優しいし」
「それは貴方が孫だからよ……。お母さんも身内には少しは甘いから」
アレイシアさんとセーラさんが怒らせなきゃ大丈夫だからと、俺の緊張をほぐそうとしてくれていた。
……一人で向かうわけでもないし、アレイシアさんとセーラさんが居るのならば大丈夫ではないかと少しだけ心が落ち着く。
アレイシアさんとセーラさんが俺の緊張をほぐそうと色んな話をしてくれる。
そうやって歩いている中で、一つの家にたどり着いた。
森の中にポツンと存在する一軒の家。
これが『森の賢者様』の住まいで、アレイシアさんの実家。
「じゃあ、中に入りましょう」とアレイシアさんがそう言って、ノックもせずに扉を開けた。
俺はそのあとに続く。
家の中は外から見るよりも広く感じられた。もしかしたら魔術か何かが使われているのかもしれない。
アレイシアさんは「お母さんもお父さんもきっと向こうの部屋だね」と言って歩くので、そのあとに続いた。
そうして一つの扉を開けた先に、美しい四つの人影があった。
一人は美しい銀色を持つ女性。アレイシアさんにそっくりだ。彼女が『森の賢者様』だろうか。
二人目は黄金に煌めく金色の髪を持つ男性。こちらもアレイシアさんの面影がある。アレイシアさんの父親だろうか。
そして三人目も金色の髪を持つ男性。こちらは『森の賢者様』と少し似ている。
最後の一人は、小さな子供だ。『森の賢者様』やアレイシアさんと似ている小さな男の子。『森の賢者様』に抱きかかえられている。
「あら、来たのね。それが、『迷い人?」
「お母さん、そうよ。それにしてもアキヒサ叔父さんまで来ていたのね」
「『迷い人』だって言ったらアキヒサも興味を持ったみたいなのよ」
「そうなのね。それにしてもセレビスも少し大きくなったわね。可愛いわ」
アレイシアさんは『森の賢者様』と和やかな会話を交わす。もう一人の男の子はセレビスというらしい。……文献にも載ってなかったし、そんな話聞いてもなかったが、『森の賢者様』が抱っこしているのを見るに、アレイシアさんの弟だろうか。
「カグラ。この女性が私のお母さんで、『森の賢者様』のセイナ。こっちが私のお父さんのフランツ。そしてこれが私のおじさん的な存在の『守護者』とか『守護神』とか呼ばれているアキヒサ叔父さん。この小さな子は私の弟にあたるセレビスよ。セレビスはまだ外の人たちは知らないから、他言はしないでね」
「は、はい。俺は、堂本神楽です。よろしくお願いします。『森の賢者様』、フランツさん、『守護者様』」
「名前でいいわよ。賢者様呼びはそこまで好きなわけでもないわ」
「俺のこともアキヒサで構わない」
フランツさん以外を呼び名で読んだら名前で呼んでいいと言われた。その言葉に甘えることにする。
「――あの、俺は突然此処に落ちました」
「そうね。私も突然この世界に落ちたわ」
「だから、その……、どうか元の世界に戻りたいと思います。地球に戻って家族に会いたいんです。皆無理て言いましたが、それでもこの世界で誰よりも魔術を使うことが出来る存在ならば……、返してくれるのではないかって思って」
俺がそう言えば、セイナさんはアレイシアさんとセーラさんを見た。
「私はちゃんと言ったよ。お母さん。でもお母さんに会いに来たいってカグラは言ったの」
「そう……カグラ。貴方を地球に返すことは出来ないわ」
セイナさんははっきりと俺の目を見て、そんな風に告げた。
俺の希望を打ち砕く言葉を、躊躇いもせず、ただ告げるのだ。




