森の賢者様の元へ
「――お母さんのところへ、早速行きましょう」
アレイシアさんがそう言ったのは、ご飯を食べ終わってすぐだった。
先ほど『森の賢者様』の元へ向かうことが決まったばかりだというのに、もうそんな風に言われたことに驚いた。
俺が驚いた顔をしているのが分かったのか、アレイシアさんは笑みを溢して続ける。
「アウグスヌスの森までは転移陣を引いているの。それで向かえばいいわ。ただ、転移陣は一度使えばしばらく使えないものだから、今回だけ特別ね。もし、まぁ、ないかもしれないけれど……お母さんの元へと行くことがまたあるならその時は直接向かってもらうわ」
転移陣。それがあるのだという。それを使えば『森の賢者様』の元まですぐに行けるのだと。
「ただ、今回転移陣を使ってお母さんの元へ向かうのは私とセーラとカグラだけね。私は先ほど言ったようにお母さんほど転移魔術が使えないの。だから、大人数を移動させることは出来ないわ。だからカグラ以外の人々には待っていてもらうことになるけれど……。だから、もしカグラが他の人たちも一緒に行ってほしいっていうのならば、転移陣を使わないっていう選択肢を選んでもらうことになるわ」
「カグラ様を一人で行かせるわけにはいきません!」
アレイシアさんの言葉に俺が答えるよりも先に、他の人が叫んだ。
確かに、俺もアレイシアさんやセーラさんが傍にいるとはいえ、他の者達を置いていくのは不安である。
「そうはいってもね、正直言ってカグラ一人でもここにいる人たち全てで向かったとしても何も変わらないわ。お母さんはそれだけ強い人だわ。ううん、お母さんだけではなくお父さんもだけど。
お母さんは怒ったらとても恐ろしい人なの。基本的に人が嫌いで、大勢でおしかけたらお母さんが不機嫌になってしまうかもしれないわ。そうなったら私も含めて、どうしようもないもの。
お母さんはハイエルフの中でも飛びぬけているから、例えば他のハイエルフやエルフたちすべてが束になったとしてもお母さんに勝つ事はきっと出来ないわ。大勢で押し掛けてもただ、お母さんが不機嫌になるだけだわ」
アレイシアさんははっきりとそう言った。
怒らせては恐ろしい存在だと、アレイシアさんは言う。俺からしてみればアレイシアさんだって別次元の俺よりもずっと上にいる存在だ。なのに、『森の賢者様』はもっともっと高みにいる。決して手が届かない場所にいるのだ。
俺が一人で向かっても、此処にいるすべての人で向かっても何も変わらないのだという。
『森の賢者様』にとって、俺たちは幾ら数をなそうが、その他大勢でしかないのかもしれない。
俺と同じ『迷い人』で、きっとこの世界にやってきた当初は俺と同じように戸惑いや恐怖を感じていただろう。……何百年も、『森の賢者様』はどんなふうに生きてきたのだろうか。どんな風な経験をして、今に至ったのだろうか。
聞いて失礼に当たらないというのならば、聞いてみたいと思った。
俺はハイエルフの元へ向かうのには不安はある。だけれども、アレイシアさんの言葉がずっしりと心に響いた。
「――転移陣で行きます」
「カグラ様っ?」
「大丈夫です。『森の賢者様』の前では一人で行こうが大勢で行こうが変わらないというのならば、一人で行った方がきっといいです。俺は『森の賢者様』と喧嘩しに行くわけではない。ただ話を聞きにいくだけです。ならば、『森の賢者様』だってそこまで理不尽な真似はしないでしょう。ですよね、アレイシアさん」
確認の意味も込めてアレイシアさんの方を向く。
「ええ。お母さんは確かに自分本位な人だけど、流石にいきなり殺したりはしないと思うわ。怒らせるようなことをしなければ大丈夫よ。もしお母さんのことを怒らせたとしても何とか説得するから」
……殺したりはしないと思うという物騒な言葉をもらったが、怒らせなければ問題がないというのならば大丈夫だろう。ちょっと怖いけど、『森の賢者様』に会うために俺は此処まで来たのだから。
よしっと心の中で気合を入れて、俺は深呼吸をしていった。
「……なら、問題ありません。俺は『森の賢者様』から話を聞きたい。だから、皆さんはここで待っていてください。俺は大丈夫ですから」
俺がそう言えば、納得してくれた。
「話はまとまったわね。じゃあ、行きましょうか」
「……はい」
そして俺は頷いて、アレイシアさんとセーラさんに連れられて、家の外に出た。家の裏側に向かう。そこには何もないように見えたが、アレイシアさんが手をかざせば急に地面に魔術陣が現れた。
――びっくりしたが、どうやら隠蔽の魔術をかけていたらしい。アレイシア以外は使えないような代物らしいが、念のためらしい。
魔術陣の上に乗るように促され、アレイシアさんとセーラさんと一緒に陣の上に乗る。
そしてアレイシアさんが何かを唱えたかと思えば、次の瞬間視界が一転した。




