王宮の図書室にて 3
『迷い人』に関する本は思ったよりも少なかった。というのも、アラマさん曰く、『迷い人』は世界に時々姿を現すが、それも数百年に一度のことだということ。『迷い人』の中には、強大な力を持つ人も時々いること。
『森の賢者様』であるセイナが『迷い人』としてこの世界に落ちてきた以前にも『迷い人』はいたとのこと。ただしそれはハイエルフに至らなかったということ。
……数百年に一度現れる『迷い人』。
どうして俺がそんなものに選ばれてしまったんだろうか。何か意味があるんだろうか。それとも何の意味もなく本当に偶然なのか。
「『迷い人』って、数百年に一度落ちるんですか?」
「ええ。そう言われています。ただ『迷い人』の中には恐らく保護されないままに死んでしまった方もいたのではないかという考察もあります」
「……保護されずに死んでしまった方?」
「はい。ここ数百年、この大陸で迷い人は確認されていません。ただ、何処から入ったか分からない、不思議な衣服をした死体を見かけたという報告はあります。もちろん、それが『迷い人』であったかは定かではありません。もしかしたらこの世界の住民の死体かもしれません。あとは、もしかしたら『迷い人』は海の上に落ちてしまう可能性もあるらしいという定説も聞いたことがあります。なので確認されている『迷い人』よりも『迷い人』は多い可能性もあるのです」
「……そうですか。人の居ない所に落ちたらそれもあるんですね」
そう考えると、グラニーさんの居た場所に落ちた俺は運が良かったのだろう。グラニーさんがいなければ俺は魔物に殺されていただろうし、海に落ちていたら泳げないわけではないがいきなりの事でそのままおぼれてしまった可能性も高い。
「この世界には時々、『迷い人』が落ちてきます。しかしそのことは、そういうものだと認識されていて、どういう理由があって落ちてくるのかは定かではありません。『迷い人』の研究をしている者もいますが……、『森の賢者様』には迂闊に会いにいけないので中々進まないようです。なので『迷い人』の研究をしている者がカグラ様に話を聞きにくるかもしれません」
「そうなんですね。分かりました」
人の居る場所に落ちた事は運が良かったんだろうけれど、どうして俺だったんだろうか。異世界に落ちるなんて経験するのは俺じゃなくても良かっただろうに。もう、家族には会えないのだろうか。
母さんにも、父さんにも、妹にも――。
悲しくなってきた気持ちを一旦振り払うために、「魔術の本は何処ですか?」とアラマさんに声をかけた。
魔術。
地球にはなかった不思議な力。それがこの世界にはあるというのは少しだけ興奮する。魔術の本の触りを読む。
魔術とは、体内にある魔力を詠唱を行い、魔術公式を構築することによって魔力を魔術として変換させ、起こる事象である。
そんな風に書かれていた。やはり魔法的なものを使うのには、詠唱がいるらしい。
人間は種族の中でも魔力量が少なく、魔術を使えるほど魔力がある人は少ないらしい。魔力量が寿命を左右する世界で、人間<エルフ<ハイエルフと寿命が長くなる。獣人や竜族は人体実験によって生まれたのもあって、寿命が人間よりも多くてもまた違うらしい。まぁ、人の手で生み出されたというのならばこの世界の常識と違う部分があっても当然だろう。
獣人や竜族は生まれが他大陸というのもあって、この大陸には多くはいないようだ。ここ数百年でこちらに移住してくるものもいるらしいが、そこまで数がいるわけではないらしい。大陸を渡った方が見かけるとのこと。それもあって、獣人や竜族の資料はあまりないようだ。
ただ、獣人に関しては体が人間より丈夫で身体能力が高い。竜族は鱗があり頑丈な体を持っていて、空を飛べる個体もあるらしい。それは体内の魔力によるものだろうという通説があるそうだ。なので、魔術師と呼ばれるものが獣人に居なくても、魔力量で言えば人間よりも多いそうだ。獣人や竜族を迫害することは『賢者の侵略事件』により行われていないらしい。『賢者の侵略事件』がなかったら、獣人や竜族は散々研究され、解剖などをされた恐れもあるらしい。……異世界、怖い。
さて、魔術の話に戻る。
魔術を行うには、詠唱が必要だ。魔力があり、魔法のイメージを行う事が出来れば、詠唱を口にすることで魔術公式が組み立てられるとのこと。
昔の人が生み出した技法で、これによって魔術は世界に広まっていったらしい。
詠唱を唱えることにより、魔術公式が構築され、魔法が形となる。
「ただ、エルフやハイエルフに関しては呪文として登録されていないものでも行使出来たりもします。自らの手で魔術公式を構築するだけの能力があれば、自由自在に魔法をこなすことが出来るようです。『慈愛の賢者様』の夫は、人間でしたが、『慈愛の賢者様』の弟子でもあったとのことで人間の中でも魔術にたけていたと言います。魔術は難しいものですが、学べば色んな事ができます。ただ自らで魔術公式を構築しようとして魔力暴走を起こした魔術師も多いので簡単にはいかないでしょう」
アラマさんは、魔術について一心に読む俺にそう説明してくれた。




