19 砂漠攻略ですネ
「はっ、オーガごときに負ける俺様じゃないね」
にやりと笑って勝利を宣言するハウザー。
先ほどまで、胡椒を吸い込んだかのようなくしゃみの連発は、綺麗に止まっている。止まったと同時に顔色も戻り、元気を取り戻した彼は忍び寄ってきたオーガを三体、瞬く間に倒した(残りの三体は秋良がしとめた)のだった。
「威勢いいねえー」
生温かい笑みで見やる秋良など、全く眼中にないようだ。とにかく、やる気と力が戻ったならそれに越したことはない。
この【砂漠の間】は、とにかく魔物とのエンカウント率が高いのだ。出てくる魔物も、ワーム系のものから人食い植物もどき、先ほどのオーガや、ゴブリンロードなど多種多様だ。魔法を使うものもかなりいるはず。秋良がハウザーをかばいながらすべてを倒すのは、できなくはないが、かなり面倒だ。それでは連れてきた意味もないし。
ともあれ、これで問題は一つ減った。
「とっとと階段を見つけて上に行こう」
なんとなく疲れた気分で、秋良はあたりを見回す。
「えーと、ハウザー、まずこのあたり一帯の砂を全部一片に吹き飛ばすから。その間俺は使い物にならないから近付く魔物は全部倒してよ」
「‥‥‥吹きとばす?」
「?そうだよ。だってそうしないと床も見えないでしょ?」
「それをすると砂はなくなるのか?」
吹き飛んだ砂は一体どこに行くんだ、と不思議そうに聞いてくるハウザーに秋良は肩をすくめた。
「やだなー、砂がなくなるわけないじゃん」
この魔法は、一時的に砂を巻き上げ、床を露出させるが、それだけだ。巻き上げている間に、床に施されている罠をすべて把握して、あとは手持ちの攻略マップに沿って行動すれば次の階への階段が現れるというわけだ。
「そうか。まあ階段が見つかるならそれでいい。さっさとしよう」
もう、砂にはうんざりだ、とハウザーが苦々しげにつぶやくのを横目で見つつ秋良は苦笑すると、そのまま戦闘用ウインドウから必要な魔法をチョイスし、準備した。
「戦闘用魔法技能連続詠唱スキル【四重詠唱】展開、魔法技能【大旋風】【固定】【罠探査:記録】【浮遊】発動」
秋良の詠唱に従い、突如巻き起こった風が砂を一粒残らず天井(青空にしか見えないが)に巻き上げ、落ちてくることなく見えない何かでその場に固定された。あらわになった床にまっさかさまに落ちるところ(砂は優にハウザーの背丈の十倍の厚みがあったのだ)が、二人の体はふよふよと中空に浮いている。さらには、秋良のいる場所の真下を起点として無数の光の筋が縦横にフロア内を駆け巡り、明滅し、秋良の開いた戦闘用ウインドウの隅に開かれたメモ欄に張り巡らされた罠をこまごまと自動で書き込んでいく。
すべてが終わると、秋良は【砂除け防護障壁】魔法を唱え、間一髪で【固定】の持続時間が切れたのか砂が天井から滝のように落ちてきた。二人は砂まみれになることもなく、(こっそり近づいて来ていた不運な魔物たちは砂の下敷きになったようだ)いい具合に砂の上に着地したのだった。
三時間後、さまざまな罠をかいくぐって、ようやくフロアの中心部らしきところに立った二人はすでに疲労困憊していた。そもそも魔物のエンカウント率が高すぎるのだ。魔物と戦闘するたび、変なところを踏んで何回スタート地点に戻されたことか。二人とも生温い笑みを浮かべて、陽の傾いてきた空(これもそもそも幻にすぎないので、実際の時間とは関係がないのだが)を見つめたのだった。
「まあ、いいさ。とにかく俺が攻略マップをよむからハウザーはその通りに行動してくれよ。ちょっとでも間違うと一からやり直しだから気をつけて」
「ああ。任せろ。やり直しなんて冗談じゃないからな。一発でかたをつけてやる」
「おお、頼もしい。じゃあまず、中心部から、北西を向いて」
「北西ね」
秋良に渡された方位磁石をもとに、向きを変える。
「西方向に三十二度を向き」
「‥…・三十二度?」
やけに細かいな、と、これも秋良から渡された巨大分度器のよなもので測り、正確に三十二度を向く。
「さらに、右回転にて百八十度後ろを向き」
訝しげな顔をしながらくるりと回るハウザー。
「そこから右方向に二度を向く。そこを掘って現れた青いボタンを押す」
「‥‥‥‥掘る?」
この分厚い砂の層を。うんざりしていると、秋良がどこからともなく掘削機を取り出した。面白いように砂を巻き上げてひたすら掘り続ける。周囲の物質を【固定】させる機能付きで、こういうときにはすこぶる便利なアイテムだ。掘ったそばから砂が落ちてきて埋まってはやりきれない。
「お、あったあった。これだな」
そこにおりたハウザーはボタンをぽちっと押し浮遊魔法(この魔法はなんとハウザーも使えたらしい)でさっさと上がってきた。
ぐぎゃあああああああああああ
「「・・・・・・・・・・・」」
掘削機を片づけて(穴は掘削機がなくなったとたん、周囲から砂が落ちてきてすぐに埋まってしまった)、さて何か変化は、と見回すと先ほどの獣の咆哮が聞こえ、前方に目を凝らすと、何とサンドリザードの群れが近付いてくるのが見えたのだった。
「えーと・・・・」
秋良は急いで攻略マップに目を落とす。
「あ、こんなとこに小さく注意書きがある。ぽちっと押すとサンドリザードの群れが現れます。彼らの落とす【虹の鱗】というアイテムが後々必要となりますので手に入れるまで頑張って倒してくださいね。ファイト」
「何なんだ、そのふざけたものは」
「‥…・遊び心?」
「誰のだよ!!」
そうこうしているうちにも魔物は容赦なく襲いかかってくる。どちらにしてもアイテムを手に入れないとどうしようもないわけで、二人は仕方なく、サンドリザードの群れに向き合うのだった。
二時間後。
百匹近いサンドリザードの群れを(四回は同じ場所を掘削し、ボタンを押して魔物を出現させた)倒し、ようやく手に入れた【虹の鱗】を握りしめ、二人とも感無量だ。
「よし、次行こう」
「おう」
「次はっと、中心部から左手方向に十二度を向き」
「十二度ね」
「さらに右手方向に七度を向く」
「‥‥…・本っ当に一体何の意味があるんだ」
悪態をつきつつも正確に七度を向くハウザー。疲れのにじんだ顔に青筋が立っている。
「ま、まあまあ落ち着いて。次に左二十七度を向き、その位置を掘って赤いボタンを押す」
秋良がまたもや掘削機を取り出して掘ること三十分。
先ほどと同じ要領でボタンを押す。
ぎゃぎゃああああああああ
「「・・・・・・・・・・・」」
現れたのは、群れをなしたワーム。砂地ではサンドリザードに続く出現率の高さを誇る魔物だ。
生温かい笑みを浮かべ、二人はワームの群れと向き合ったのだった。
似たようなことを八回は繰り返し、陽はとっぷり暮れ、さらにまた日が登り、空は白々と明るくなり、(あくまで幻である)途中ご飯を食べたり、巨大防護障壁を張って休憩したりしてすごすこと、約半日と少し。二人の眉間には深い深いしわが刻まれていた。
しかし、それもようやく終わったようである。
「やった、ハウザーもう終わり、ここまでお疲れさまでしたってなってるよ」
「ようやくか」
秋良の顔にもハウザーの顔にもようやく笑みが刻まれる。
「『ようやくすべてのアイテムが集まったかと思います。ご苦労様でした』」
「苦労した、苦労した」
うんうん、とうなずきながら妙な間の手を入れる。
「『それでは上階への階段の開き方をご説明いたしますが、その前に』」
「‥‥…その前に?」
不吉なことを聞いた、と言わんばかりに、ぎぎぎぎぎ、と音のしそうな勢いでハウザーが首を回して秋良を見る。
「いや、俺が書いたわけじゃなし、そんな今にも絞殺しそうな眼で見ないでくれる?『その前に、頑張った貴方への特典として豪華映像つき、音声付スクリーンをプレゼントいたします。ぜひ見ていってくださいね、遼子』」
読み終わると同時にあたりが真っ暗闇に覆われ、眼前に巨大スクリーンが展開された。
「・・・・・・・なんだこりゃ」
ハウザーの目が点になる。まさに目が点になる、という表現こそがふさわしい仕草である。いや、今はまじまじとハウザーを観察している場合ではない。いったいこれはどうしたわけなのか。
スクリーンにはでかでかとこう書かれていた。
【映像特典1:過ぎ去りし望まざる未来】




