歯車を回すもの
彼は、知っていた。
【暁の神】の望みも【氷雪の神】の望みも。
世間で知られているように、世界を崩壊の危機に導いているのは【氷雪の神】であり、世界を救おうとしているのは【暁の神】。
け れ ど
【暁の神】はこの世界を壊したがっていて、【氷雪の神】はこの世界を存続させたがっている。
【暁の神】は誰よりこの世界を憎んでいて【氷雪の神】は誰よりこの世界を愛している。
だから、彼は【暁の神】が嫌いだ。
壊したいなら、憎んでさえいるのなら、救おうとなどせずに、さっさと壊せばいい。
なのに、なぜか【暁の神】は世界を存続させるために様々に布石を打っている。【時】が戻るたびに、一つずつ記憶を失っていく【神】自身のために、いずれ来る【崩壊の時】のために。それは世界を救うためなのか、それとも……
何度も何度も【同じ時】を繰り返す神々。少しずつずれる【時間】。
彼はまだ千年ほどしか生きていない。
若いゆえに【始まりの時】を彼は知らぬ。
時はどんどんずれて、【始まりの時】はすでに何千年も昔のことになってしまった。
ではなぜ、彼が神々のことを知っているのか。
すべてを承知しているのは【幻惑】の管理者たちと七柱の神々、そして元凶の二柱の神と神の娘のみというのに。
それは彼が七柱の神のうちの一柱、【天の神龍】と三回前の【時】の【暁の神】自身より役目を賜ったためだ。
その時に世界に起こっていることを知ったのだ。
けれど、おそらくそれはすべてではないのだろう。真実のすべては二柱と神の娘しか知りえぬ。ほかの神々も、【幻惑】の管理者たちも、何もかもすべてを知っているわけではない。
彼が、世界に起こっていることを知らされて、今回で三回目の【時】
【幻惑の塔】管理者【知恵の悪魔】オルセイリュートによると、とうとう【崩壊の時】が来たようだ。
彼は【暁の神】が嫌いだ。
けれど、世界を崩壊させたくはない。
だから彼は待っていた。
ここで、来るべき時、来るべき神を。
そして、神は来た。
それは世界を終わらせる神なのか、それとも存続させる神なのか。
駒はすでに揃っている。
後は、行動を起こすのみ。
彼は覚悟を決めて、神に声をかける。
【時】の歯車を、回すために。
「どうぞ、こちらへおいでください、我らが神よ」




