4:閉ざされた空間
書斎を辞したロッソとユキが、石造りの冷え切った回廊へと足を踏み入れたその瞬間、城の奥底から腹の底に響くような重低音が地響きとともに鳴り響いた。
ガキィィン、と巨大な歯車が噛み合い、凍てついた太い鉄鎖が猛烈な勢いで巻き上げられる軋み音。それは城と外部を繋ぐ唯一の生命線であった跳ね橋が完全に上がりきり、分厚い鉄の城門が物理的に封鎖された合図だった。
「これで……明日の朝、嵐が過ぎ去るまで、この『孤影荘』からは鼠一匹外に出ることはできません。完全な、逃げ場のない孤城です」
ロッソの背後にぴったりと従う侍従ベルンハルトが、青ざめた唇を震わせながら呟いた。彼の額には冷や汗が流れている。
ロッソは立ち止まり、窓の外に吹き荒れる白銀の暴風を見据えながら、満足げに細い唇をわずかに歪ませた。
「素晴らしい。論理演算の盤面としてはこれ以上ないほどに清潔だ」
外部からの不確定要素、すなわち逃走や外部からの介入というノイズが完全に排除された。この館の中にいるのは、三人の招待客と、当主バルタザール、そして自分たちを含めた使用人たちのみ。因果の数式を解くための変数は、すべてこの閉ざされた空間の内部に揃った。
ロッソは振り返り、恐怖に顔を引きつらせている老いた侍従の目を真っ直ぐに射抜いた。
「ベルンハルト。君はこれから、私の真後ろから一歩も離れるな」
「え……? い、一体なぜです。私は主人のもとに戻り、警備を……」
「護衛など無意味だ。すでに殺意の導火線には火がついている。君の役割は警備員ではない、『証人』だ」
ロッソの冷徹な声が、石造りの回廊に冷たく響いた。
「これからこの閉ざされた空間で、どのような狂気が暴走し、いかなる悲劇が引き起こされようとしているのか。君はその一部始終を私と共に観測し、その因果の顛末を脳に焼き付けたまえ。密室とは、ただ物理的に閉ざされているだけでは意味がない。私の行う『解決』の全過程を直視し、証明する人間がそこにいなければならないのだからね」
ベルンハルトはごくりと喉を鳴らし、抗うことを忘れたようにこわばった顔でうなずいた。
外の猛吹雪はますます勢いを増し、孤影荘という名の鉄の檻を容赦なく叩き続けている。逃げ場のない密室の中で、殺人という最大の計算エラーを防ぐための時間は、すでに残り少なくなっていた。ロッソは真鍮の懐中時計をしまい、冷徹な足取りで夜の闇が深まる城内へと歩みを進めた。
感想いただけると狂喜乱舞しますので感想くださいください




