いいのだろうか、そんなことを願っても?
シーツの畳み方をレクチャーしてもらって以来。
ヴァルドと二人きりになる機会というのが、ちょいちょいある気がしている。
二人きりになったとしても、何かが起きるわけではない。
ただ、ちょっとした接近はある。
思いがけず手が触れたり、腕を掴まれたり、頬を包まれたり……。
この日もそんなちょっとした二人きりの機会に、恵まれた日だった。
ソルレンは戦士の役割に出ており、ニージェはフロストを寝かしつけるため、庭園に出ていた。既に雪は積もるようになっているが、庭園の雪かきは済んでいる。ベビーカーで庭園を散歩すると、フロストは元気よくはしゃぐので、寝つきもよかった。
本来、私がフロストと散歩となるが、「ポインセチアが元気に咲いているので、私も散歩しながら眺めていいですか?」とニージェに聞かれ、「勿論よ」と応じた。その結果、キッチンでヴァルドと私でお茶を用意している……つまり二人きりになったのだ。
白シャツに、珍しく黒のセーターと同色のズボンという姿のヴァルドと、フロスティブルーのワンピースの私が、キッチンで並んで立っていた。
「今日は、ジンジャーティーを淹れようと思います」
「ではこのジンジャーをスライスするのか?」
「できますか……?」
相手は皇太子なのだ。お茶の用意を手伝ってもらうこと自体、あり得ないこと。……って、完全に自分が王女であることを忘れている。王女がお茶を淹れることだって、かなりレアだ。
とはいえ、私は王宮を離れ、既に二年経っている。でもヴァルドは違う。
フッと笑みを浮かべたヴァルドは、私の顎を持ち上げた。
これはもう自然と“顎クイ”をされていると脳が勘違いし、心臓はドキドキと反応している。
「ミアは相変わらずわたしを皇太子扱いだ」
「! し、失礼しました」
これはキスにつながる“顎クイ”ではないと分かっても、多分、頬が赤くなっている自覚があり、視線を逸らしてしまう。
すると。
「君も。なんだか高貴なオーラが漂っているのに。随分と家事が得意だ。シーツの畳み方は下手だったが」
ヴァルドの顔が近づき、またも耳元でそんな言葉をささやかれ……。
心臓が爆発しそうだった。
髪色と髪型、眼鏡と口調。
私の変装と演技により、完全に自分の知らないミアだと思っている、ヴァルドは。
だからこそこんな風にからかうようなことも、できるのだろう。それはバレていないという安心を生みつつも、切ない気持ちも喚起させる。
このまま私が誰であるか気づかず、フロストが自身の息子であると知らないまま。
ヴァルドは春が来たら、ここを去ってしまうのか。
「どうしてそんなに寂しそうな顔をする?」
まだ顎クイはされた状態のままだ。
そして覗き込むように見られては、正面からヴァルドの整った顔を受け止めることになる。
見慣れてきたブロンドに碧眼のヴァルド。
見慣れても、ドキドキはしてしまう。
「……そ、そのヴ……アルク様は雪解けになれば、帝国に戻られますよね。それがちょっぴり寂しく感じたのです」
「ちょっぴり寂しい? それだけか?」
「え?」
「ずっとここにいて欲しい……ではないのか?」
いいのだろうか、そんなことを願っても?
ずっと、ここに……。
いてくれたら……。
もしヴァルドがここに、これからもずっといるとしたら。
政治的なことや彼の皇太子という立場を一切考えず、ここにいてくれたら……。






















































