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宿敵の純潔を奪いました  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中
第二部

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永遠の平行線

 政治的なことや彼の皇太子という立場を一切考えず、ここにいてくれたら……。


 フロストの成長を、共に見守ることができる。


 だた、ヴァルドとは永遠の平行線だ。


 だって私はソルレンと結婚している。既婚者。

 こうやって距離の近さにドキドキできても、その先は望めない。


 それにフロストがヴァルドの息子であること。

 打ち明けることはできない。


 まさかここでようやく悟ることになるなんて。


 ヴァルドはここにいても、幸せにはなれない。親子のフリをする私とソルレン、そして自分の子供とは思っていないフロストの成長を、ただ見守るだけだ。


 それはとても幸せとは言い難い。


「この場所は、怪我をしたアルクが傷を癒すために滞在する分には、丁度いいと思います。今は完全に雪に閉ざされた陸の孤島です。余所者は、獣がたまに顔を出すぐらい。ですがヴァルド皇太子殿下であるならば、ここに長居は不要。あなたは求められ、果たすべき責務があるはずです。ここではない場所で」


「……つれないな」


 私の顎から手をはなしたヴァルドは。

 一瞬、捨てられた子犬のような寂しそうな目をするので、ドキッとしてしまう。


「だがミア、君の言う通りだ。アルクとしては、ここにいつまでもいたい気持ちがある。ここは……穏やかな陽だまりの中のようで、とても心地がいい……。だがヴァルドとしては、ここにずっといるわけにはいかない。何よりここにずっと隠れていては、敵の思うつぼだ」


 ここにずっといるべきではない、一緒にいるべきではないと分かっている。

 でもヴァルドから改めて「ここにはいられない」と言われると……。


「ミア。君にはとても世話になったと思っている。春になったらわたしはこの村を出るが、今度は君が帝国へ来ないか? フロストも連れて」


「えっ……」


 思いがけない提案をされ、トクトクと心臓が、喜びの反応を示している。


「夏の帝国は、永久凍土がある場所とは思えない程、緑豊かになる。日も長くなり、日没は二十一時。短い夏でも存分に満喫できる。そしてオーロラ。オーロラと言えば、冬のイメージがあるだろう? でも帝国では北部に行くと、夏でもオーロラが見える」


「そうなのですか! 知らなかったです」


「帝国は観光大国ではない。帝国に住む人間でも、知らない者は知らない情報だ。ただ、これにはからくりがある。夏と言っても帝国の北部は、八月下旬になると紅葉がスタートする。極寒の中ではなく、十五度程度の気温の中で、オーロラが見られるということだ」


 オーロラなんて、前世でも今生でも見たことがなかった。せっかくなら見てみたいと思ってしまう。それに帝国へ招待してもらえるなんて……。


「君は理由があり、この村にいる。でも心配する必要はない。わたしがついている。何も恐れず、帝国の地へ足を踏み入れることができると、わたしが保証する」


「あ、ありがとうございます! オーロラ、見てみたいです。紅葉とオーロラ。その両方を楽しめるなんて、聞いたことがありません。ぜひフロストとふたっ……ソ、ソルレン……夫と、あ、あとニージェを連れ、お邪魔したいですっ!」


 うっかり、フロストと二人でお邪魔したいです!と言いかけてしまった。


 あぶない、あぶない。


 心の中で「セーフ」と思う私に対し、ヴァルドはなぜだかクスクス笑っている。


 こんな風にヴァルドが笑うなんて。

 な、何かしら!?

 私、何か変なこと、言った……?


「ミア」

「はい」

「ソルレンの件、もう無理する必要はない」

「え……」


 思いがけない言葉を投げかけられ、キョトンとしてしまう。


「さっきも言った通り。君は理由があり、この村にいるのだろう? そしてフロストはソルレンとの子供ではない。カモフラージュのため、夫婦を演じている……正解では?」


「ど、どうしてそれを! まさかソルレンが話したのですか? それともミーチル村長が話したのでは……」


「違う。君の周りにいる人達は、皆、口が堅い。君が秘密にしたいと思うことを、ベラベラ話すようなことはしないと思う。……申し訳ないな。鎌を掛けただけだ」


 これには「しまった」と思うが、もう遅い。


 戦場から遠ざかった年数は、ヴァルドも私も同じ。

 だが私は王女の役割を放棄し、この村に逃げ込んだ。親切な村人に囲まれ、この約二年間を生きてしまった。村人は性善説で生きている。夫婦の演技をしているのでは?と、疑いの前提でソルレンと私を見ることはなかった。駆け引きや鎌を掛ける必要なんてなかったから、つい油断した。


 怪我を負って、療養中ではあるが、相手はあのヴァルドなのだ。聡明で、勘も鋭い。私とソルレンの関係性くらい、観察していれば……。あっさり分かってしまう。何しろ父親と母親としては、ソルレンと私は完璧だった。


 しかし、夫婦としては……。


 一度ヴァルドが「新婚なのに」という発言をした時、なぜ気づかなかったのか。もし気づいていれば、夫婦と見えるよう、工夫したのに……!

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