また会えるはず!
翌朝。
タリオとノルディクスやコスタ達、マリアーレクラウン騎士団は、村人に見送られ、森へと戻ることになった。タリオは本当に、私に気づいていない。あの巨大イノシシの牙を背負い、婚約者に会えることが楽しみでならないという表情をしている。
別れ際、ノルディクスは微笑を浮かべ、コスタは涙を浮かべ、私にお辞儀をしてくれた。
村人からしたら、私は老人と少女を救った英雄。ゆえに騎士達が、私を敬うように頭を下げることにも、疑問を持っていないようだ。
「バイバーイ!」
私に抱っこされたフロストが、騎士達に手を振ると……。
ノルディクスの瞳が潤み、コスタが男泣きをするから。私だって泣きそうになってしまう。
サンレモニアの森は、いろいろな意味で中立地帯だった。帝国にとっても、マリアーレ王国にとっても。
よって各国の王族や皇族が村に現れるなんてこと、滅多にない。
今回はヴァルドが一瞬姿を現し、タリオが一泊することになったが、これは完全にイレギュラーな出来事。
つまりみんなとはもう会えない……そんなことはない。
また会えると思った方が、絶対にまた会えるはず!
こうしてみんなとの別れを経て、日常が戻って来る。
私とソルレンは、戦士としての役割を果たす。ニージェは、フロストの子育てをサポートしてくれた。そして季節は流れ、狩猟シーズンは終わる。村は森とも、森の外とも、隔たれた時間を過ごすことになる。
冬のこの村は、陸の孤島になった。
豪雪地帯というわけではないが、少量の雪が毎日のように降ることで、村の周囲は雪で閉ざされる。こうなると約三ヵ月。近隣の村や町へ、出向くことはない。
だが村には医師もいるし、助産婦もいる。例の定期的に村の蜂蜜やワインを購入してくれる商会のおかげで外貨を蓄え、冬の間に必要になる物資も、買い貯めることができていた。例年以上に安心し、冬をこの村で、過ごすことができる。
私も髪は元のブロンドに戻し、眼鏡をはずした。
村のみんなは、私がイメチェンを楽しんでいると思ってくれたようだ。特にこの変化に何も言うことはない。人数も限られていると、過干渉を想像してしまう。だがこの村ではそれがなかった。それはきっとこの村が、余所者が集まり誕生したからであり、掟があるおかげだろう。
「ミア様、お布団、温まりました」
「ありがとう、ニージェ」
遂にこの日、初雪が降り、ミーチル村長は「冬の始まり」を宣言した。この宣言以降は、不要不急を除き、森や森の外へ向かうことは、推奨されない。それは雪が降り積もり、その森の中を歩き回るのが危険なためだ。
さらにこの宣言に合わせるかのように、気温も朝夕は、ぐっと下がるようになった。よってベッドウォーマーで、フロストが眠るベビーベッドを温めていたのだ。ベッドウォーマーは、蓋つきフライパンみたなもので、中に暖炉の石炭を入れる。これを眠る前のベッドに入れておくのだが、湯たんぽみたいなものだった。
ベッドウォーマーを取り出し、程よい温かさのベッドに、フロストを寝かせる。
「ニージェ、ありがとう。今日はもういいわ、休んで頂戴」
「はい。分かりました。おやすみなさい、ミア様」
厚手の寝間着を着て、ウールのガウンも着ている。それでもさっきまで雪が降っていただけあり、寒かった。そこにニージェと入れ替わりで、ソルレンがやって来た。厚手のパッチワークの毛布を持ってきてくれた。
「フロストとミアの分があります。温かくして休んでください」
「ありがとうございます、ソルレン。あなたも温かくしてくださいね」
こうして家族だけれど、家族ではない私達は、それぞれの寝室で、一人ずつベッドで眠りにつく。
ベッドウォーマーで温まった布団の中が冷めないうちに、眠りへ落ちて行く。
◇
突然の激痛と、フロストの泣き声で、目覚めることになった。
心臓がバクバクと鼓動し、とんでもない焦燥感に襲われる。
どこか怪我をしたのかと思ったが、無傷だ。
それはそうだろう。
ただベッドで寝ていただけで、普通、怪我なんてするわけがない。
泣きじゃくるフロストの様子を確認するが、どこも変わった様子はなかった。
フロストを抱き上げ、あやそうとする。
ところが私自身、こぼれ落ちる涙が止まらない。
バクバクする心臓は、落ち着いてくれそうもなかった。
「!」
窓の外で、明かりが見えた気がする。
おそらくもう、真夜中。
何があったのかしら?
フロストを抱きしめながら、ベッド横のサイドテーブルの引き出しから、短剣を取り出す。ぎゅっと握りしめ、窓に近寄り、厚手のカーテンを開ける。曇って外が見えないので、窓の桟に一度短剣を置き、結露を手でぬぐうと……。
あれは、ソルレンとニージェ?
雪がまた、ちらついていた。そんな中で、ニージェはランプを手に、ソルレンが誰かの肩を支え、歩き出した。ソルレンが支える男性がつけている真っ白なマント。ところどころが黒く見えるのは……血なのでは?
フロストはだいぶ落ち着いている。私の心臓も、さっきよりはましな状態になった。ガウンを羽織り、フロストのことも、ソルレンが持ってきてくれたパッチワーク毛布でくるむ。
一階へ向かうことにした。
廊下に出ると冷気を感じ、一瞬身震いをする。
ミシッ、ミシッと階段の軋む音に、ドキドキしながら降りて行くと、玄関の扉が開いた。階段の途中で、中に入って来たソルレンとニージェと遭遇となる。
「え……」
ニージェが持つランプに照らし出され、ソルレンが肩を貸している相手、それは……。
「ヴァルド……?」
お読みいただき、ありがとうございます!
ここで第一部完結です~
ここまでで面白いと感じていただけたら。
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本作、コミカライズして欲しい!
イラストで見たい!と切に願っています……!
そしていよいよ第二部突入しますよ~
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